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閑話3 環の場合③

この話は第18話の環視点です。

 金髪の少女は私に怒られてビクッと肩を震わせるとそのまま家に入っていった。

 しまった、怖がらせてしまったかな?

 私は小学生のころ飼っていたハムスターが巣に帰ってしまい出てこなくなってしまったことを思い出す。

 学校から帰ってきた私はもっとかまって遊びたかったのに夜行性のハムスターは眠いらしく私の起きている時間に活発に動くことは無かった。

 それを急に思い出しどきどきと彼女の家のドアを見つめる。出てくるかしら?きっとさっき言っていた布巾を取ってきているだけだろう。

 実際少女は布巾を取ってきていただけだったけど、私にはすごく長く、そして緊張していた。

 言葉にはうまくできないんだけど、仲良くなりたい。これ以上コミュニケーションを間違えるわけにはいかないだろう。

 少女がテーブルをきれいにふき取るのを待ち、私は彼女に自己紹介をする。

 「はじめまして、私の名前は環 円香(たまき まどか)。ちょっとあれだったけどお昼ご飯ありがとう、おいしかった(?)わ。」

 少し言葉が詰まったのはしょうがない。最後の紅茶はしょっぱすぎたから、終わり悪ければすべて悪い……口の中はまだ塩っ辛いのだ。

 目の前の少女が話すのを待つ、いい加減自己紹介をしてほしいのだが、なんやら困っている様子。その理由はすぐにわかった。

 「……えーっと、はじめまして、私はまだ名前がないの。親しみを込めてお姉ちゃんって呼んでね☆彡」

 片目をパチッと閉じて両ほほに指をあててすごくあざといポーズで痛々しいセリフを言ってきた。

 せめてやるならもっと大人がしそうなポーズをすればいいのにこれでは少女ではなくて幼女だ。小さな子供がしてほほえましいポーズじゃないか。

 「あなたお姉ちゃんってより妹みたいな……そんなすねた目で見ないでよ。」

 素直な感想が口から出るがすると拗ねた目でこちらを見てくる、わーかーりーまーしーたー。だたしおねーちゃんって可愛く読んでやるわ。

 「まあ名前がないならしょうがないけどさっさと決めなさい。呼びづらいわ。」

 まあまだ1週間くらいしか経ってないし目の前の少女は明らかに日本風の名前を名乗るには不便な容姿をしている、これを機に変えてしまおうというのもわかるのでさっさと決めてもらうことにしたのだが……。

 まさかその後夕方までずーっと、ずーーーーーーーっと名前を考え続けるとは思わなかった。

 けど百面相をするおねーちゃんは見てるだけでも面白かったし、それに……考えないようにしていた私の黒い考えを実現するにはこのまま居座るしかなかったのだ。


 夕方になってようやく思考の果てから帰ってきたおねーちゃんは既に夕方になっている事実に絶望していた、その顔を見るとなんだかおかしくて私はけらけらと笑ってしまう。

 それを恨めしそうな顔でおねーちゃんはみてくるけど上目遣いな目で見てくるからなんだか申し訳ない気分よりもっといじめたくなっちゃう。

 『おはよう』とあいさつをしてくるおねーちゃんに後ろめたい感情を持ちながら私も『おはよう』と返すとおねーちゃんは来週もまた遊びに来てねと私に帰れといってくる、そうはいかないのだ、まだ。

 「何言ってるの、晩御飯もご馳走してくれるんじゃなかったの?」

 だからとってつけた理由でそのまま家へと上がり込む。ここまでぐいぐいと行けるのに最後の一押しができない、ヘタレなのか、それとも……。

 家に上がり込んだ私は料理の見張りをしながらおねーちゃんの家をぶっしょくした。今度はちゃんと味見をしたらしくまともな食事を楽しめそうだ。

 食事中はくだらない話をして過ごすつもりだったが思わぬところでダンジョンの話になった、やはりというかおねーちゃんは弱いらしくスライムにも手こずっている様子だった。

 それならきっと……3層まではいけないだろう、私はずっとおねーちゃんの家に居座り続けた理由は、3層に行かないためのPTメンバーの候補として彼女を見繕ったからだった。

 先日の一件で私はもうだれも信用できなくなった、もしもダンジョンにこもるなら自分一人でも安全に帰れる2層までがいい、けどまともなPTを組んでしまったら必ず3層に行ってしまう。

 その点目の前の少女は好都合だった、ダンジョンの攻略もせず草むしりをして、ポイントも余裕はないだろうに変な小物が溢れていて装備に投資をしているのかも怪しく、そして何より一人じゃあダンジョンが安定して攻略できなさそうなのが一番いい。一人でも大丈夫なら何かの拍子で別れてしまうことになるかもしれないが……1年もこんなところで一人さみしく私は過ごしたくもない、誰かと一緒に過ごしたい、ダンジョンでポイントを稼ぐという点で依存してほしい、見捨てないでほしい。

 スライムに手間取ったことは無いという私のセリフに地味にショックを受けているおねーちゃんを暗い感情で見つめられているとは知らずにのんきだ。

 もしかしたらこのまま待っていたらあちらから誘ってくれるのではないか?

 私はさらにいけないほうに思考が働いてしまう。そうだ、おねーちゃんからPTに誘われて私はしょうがなく一緒にダンジョンに潜るのだ。

 そしたらお互いWIN-WINじゃないか、こんなに情けない理由で人を誘いたくないだけの私は心の中で醜悪な言い訳を並べ続けた。

 けれど、私の期待にそぐわずおねーちゃんは私をPTに誘うことは無かった、1層にすら手こずるのなら別に全然手伝ってもいいのに。

 お互いに何度も見つめあったり、なんだかよくわからない話をしたり、昨日の日替わりランチはキムチ鍋だったという話をしたりして、帰る時間になった。

 ドアまで見送られて、もう家から出てしまうというのに私は自分から誘う決心がつかなかった。もしこっちから誘って、断られたらどうしようというより、イニシアチブを取られたら面倒だとか、そういうことも考えていたのだから、後から考えれば何様のつもりなのだろうか。

 けれど最後の最後におねーちゃんは私の一番欲しかった言葉をかけてくれた。私はそれを聞いて罪悪感に心が押しつぶされそうになりながらも、笑顔にならざるを得なかった。

 私やっぱり悪い子だね……。

 

 

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