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閑話1 環の場合

この話は第16話の環視点です。

もう2日はベッドから出てない……。

 嘘だ、トイレも風呂も行ってる。

 ご飯だって食べている、日替わり定食なんて自分の気分じゃない物を食べさせられるし、お洒落なランチなんて出ても来ないし最悪だと思っていたけど完全栄養食に比べたらましだった。

 食べるだけで口の中がパサパサになって食べている気もしない、おいしくない。

 水道から水を出して飲む、この島の上下水道が信用できなくてそもそも日本でももっぱらミネラルウォーターを飲んでいたのもありメニューから水を買ってそれを飲んでいたけど、ポイントがそれを許さないため私はあっさりと信念を覆した。

 残存ポイントは300ポイントちょっと、もう明日にもメニューから栄養食すら買えなくなる状況だというのに私は、ダンジョンに潜る気力が、勇気が出ないのだった。

 今日こそはダンジョンに行こう、そう思って髪をとかし、ご飯をもそもそと食べ、血や泥の汚れがすっかり落ちている服を着て……扉に手をかける。

 しばらくドアノブを必死に捻ろうとしたが、できずに今日も寝室に戻った。

 ベッドに腰かけ大きなため息をつく、ベッドが大きくきしむがお構いなしに勢いよく上半身を横たえた。どうしようもないこの感情を発散するための行為だったけどこういう時イライラをものにぶつけると自分に手痛いしっぺ返しなどが来るものだ、経験から学べなかった私は壁に頭を勢いよくぶつけた。すごく大きい音がした。あいたたたた。

 もうすべてが嫌になって大きな声を出して発散しようとした、今ごろ他の人たちはすでにダンジョンに言っているから近所迷惑にもなるまい、そう思い私は寝室の窓を開けて大声を出すために大きく息を吸って、吸って、吸ったまま呆然として、そしてゲラゲラ笑ってしまった。

 窓を開けて雲一つないきれいな空を見ながら息を吸ったまではよかったのだが、その時へたくそな歌声が聞こえてきてしまい下を向いたのが運の尽きだった。

 歌声の主は間抜けな歌を歌いながら、草むしりをしていたのだが、粘り強い雑草をうまく引き抜けずお尻からこけてそこで止まらず腰まで打っていた、腰が痛そうだなぁ。

 ちょうどその瞬間を見てしまったのだからしょうがない、私はいらいらしていたことも忘れて体についた泥を払い草むしりをしている少女を窓からぼーっと覗き見ることにした。

 なんだか不思議な光景だな。この世界に来てダンジョンばかりに潜って、家とダンジョンを行き来するだけの生活をしていたけど、実はこの島はこんなに自然豊かで寝室の外は明るくて、空気がきれいでおいしい素敵な世界だったんだ。私の部屋だけがじめじめとして、陰鬱で、苦しい場所みたいだ。

 あの苦しい部屋から逃れるように私は窓の外で呼吸をする。けれど少女を見ていたら草むしりを終えて、家に入ってしまった。

 一体彼女はこの後どうするんだろう、気になると好奇心を押さえられなくなってしまい私はあんなに出ることの叶わなかった家をあっさりとでて隣の家にいつの間にか侵入してしまった。

 門を勝手に開けて窓から家の中を覗き見るどうやら風呂に入っていたらしい、ドライヤーの音がした。

 脱衣所から出てきた少女が机といすを持ち上げ家の外に持ち運ぼうとして無謀にもドアに突撃してうめき声をあげた。明らかに通らない大きさじゃないかな……?

 さっきまでご機嫌に鼻歌を歌っていた少女は一転、どうやって机を外に持ち運ぼうか考え唸っている。ちょっとしてアイテムボックスに入れて持ち運ぶことを考えついたようだった。

 まだむしられていない草むらに身を隠して外に出た少女をうかがうと机といすを置き、其処の上にご飯を並べている、どうやら食事をとるようだった、途端に私のお腹が鳴る、2日もろくなものを食べていない状態であんな美味しそうなものを見せられたら、もう耐えられない。私はふらふらとご飯の前まで誘い出されてしまった。

 「ここをティータイム地とする!」

 少女がどや顔でそう宣言する。そしてそのままご飯にかぶりつこうと大きな口を開けて、開けたまま私に気づいたらしく大きな口を開けたままそのかわいらしい目もぱっちりと大きく見開きそのままフリーズした。

 あんまりにもその後のリアクションがないため顎でも外したのかと思い私から話しかけることにした。

 「あら、ようやく気付いたの?」

 すると目の前の少女はようやく表情を動かし、顔を赤らめながら恥ずかしそうにか細い声で私に『あの、その、つかぬ事をお聞きしますが……いったい、いつから、みてたんでしょうか……?』と聞いてきた。

 その様子が可愛くてわたしはつい意地悪をしたくなってしまった。

 「朝から、ずっと、へたくそな歌うたってるなって。」

 少女はますます顔を赤らめ、何もしゃべらなくなってしまった、気を悪くさせてしまったかな?あわてて私は謝ろうとしたが、それより先にお腹が鳴ってしまった。

 今度は私が顔を赤らめる、恥ずかしいたらありゃしない、彼女はどんな表情をしているかな?恐る恐る伺うと相手は失礼な態度を取った私の上げ足を取るわけでもなく、ただ微笑を浮かべて『おなかすいてるんですか?』と優しく聞いてくる、私は見惚れて何も言えずこくんと頷いた。もしかして目の前の少女は天使か何かなのだろうか?

 「じゃあご飯あげるんで朝のことは黙っていてください。」

 その一言でやっぱり天然で少しずれているだけの女の子だと思った。

 

 

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