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第71話 3357人の世界

 意識を確かに失ったと思ったが次の瞬間私は周りが急に騒がしくなったため目を開けた。先ほどまで薄暗かった森にいたはずなのに、あたりがまぶしくて目が明けられない。

 「おい!ティアがめを覚ましたぞ!」

 熊の叫ぶ声がする、どうやら彼は助かったのだろうか、少しづつ慣れてきた目を開き私は周囲を見渡す、ここは大神殿だ。失ったはずの足もある。なんなく体を私はベッドから起こすことができた。

 どうやら死ぬことだけはまのがれたのだろうか?いやそれにしてはおかしい……きがした。

 向こうの方ですすり泣く声や叫び詰る声が聞こえる。そちらの方に顔を向けて様子をうかがおうとするとヴァルゴが体でそれを隠し黙って顔を振った。

 そこまで気を使われては仕方ない、そちらを見ることを諦めると私はヴァルゴに気になっていたことを聞くことにした。

 「貴方が私を助けてくれたんですか?」

 ヴァルゴは黙って顔をまた振る。

 「そうしてやれればよかったんだけどな、残念だけどお前さん死んだんだよ。」

 はえ?死んだ?じゃあなんでここにいるんだろうか?

 「そうなんですか……?じゃあここは天国?」

 ヴァルゴは私の様子を見て顔をしかめ必死に搾り上げたようなかすれた声で答えた。

 「お前って……オオカミに悲惨なやられ方をしてちょおーっと混乱しているんだよな?そういうことにしてやる、最初の神様の話を聞かなかったかもしれねえ大馬鹿に対する説教はまた今度にしてやるわ、死んだらここ大神殿に戻ってくるってのは最初の日に説明されただろうが……」

 説明を受けて私はさらに混乱してしまう、何言ってんだこいつ。ちなみに熊の目も何言ってんだこいつと言ってきている。

 二人して気まずい沈黙を貫いていると向こうから環が走りながら私のベッドに勢いよく飛び込んできてHPがごりっと減る音が頭の中でした。ヤバイ、これがリスキル……。

 「ティア!大丈夫?私あなたが森の中で一人ぼっちで彷徨ってないかずっと心配してたんだから!」

 環が口早に私のことをいかに心配していたかを身振り手振りで説明してくれる。どうやら私は神様のチュートリアルをちゃんと聞いていなかったせいで今まで死んだらおしまいのデスゲームをしていると勘違いしていたようだった。なーんだ!よかった!

 にしても環もよほど私のことを心配してくれていたんだろう。なんせ呼び方がおかしいほどだ、ティアなんて一回も呼ばれたことは無いけど、実はそう呼びたかったんだろうか?

 「環、ごめんね、入口まで戻れそうだったから頑張ってみただけなの」

 私が環に素直に謝ろうとすると環がすごく不機嫌ですとふくれっ面をしてアピールしてきた。頭をなでればいいんだろうか?

 なでなでをしてご機嫌を取ろうとしても環は喜んでもふくれっ面を解こうとはしなかった。んー何が気に入らないんだろう?

 私が延々となで続けると先にしびれを切らした環が口を開いて起こっている理由を教えてくれた。

 「ティア、ちゃんと名前で呼んでよ、前約束したでしょ?」

 そんな約束したっけ?さっきから新情報だらけで混乱しっぱなしだ、困ってさらに環をなでるとヴァルゴがごほんと咳ばらいをし私たちの仲裁をしてくれた。

 「そういってやんな円香、こいつオオカミに手ひどくやられたようでな、ちょーっと混乱してんのさ」

 確かにオオカミにひどくやられたこともあり混乱はしてたけど、それとこれとは話が違う気がする。けどこの違和感を今ここで追及するだけの勇気が私にはなかった。

 気づくと私は体中から脂汗がでてきて、具合も悪くなってきた。なんだ……ここ。

 本当にエターナルなのか?それとも私が見ている都合のいい夢なのか?

 私の調子がすこぶる悪いことを環は理解したようで、急に私から離れると『向こうから何か飲み物とか買ってくるわ!』といって走り去っていった。

 この隙にひとつヴァルゴに確認してしまおう。

 「森で私のこと助けてくれたじゃないですか」

 彼は怪訝そうな顔で頷きます。

 「なんで木の下に取り立てに行くんですか?」

 「なんでったって、噂がなぁ……?でも死なねえのに幽霊ってのも変な話だな?」

 私はもうここが私が知っていた世界とは別のものだと確信して、最後の確認のためにベッドから起き上がり、神殿の入り口に向かうことにしました。ヴァルゴは私を引き留めようとしましたがのっぴきならない雰囲気を感じ取ったのか何も言いませんでした。

 神殿の入り口には実は転生者全員の名前が記入された石碑が存在しています。

 そこには死んでいった人間の名前が棒線で引かれみんなはそれを生存者リストなどデスゲームの石碑など好き勝手に呼んでいました。

 私の記憶が確かならここには4000人の名前が記入されていました。確かブリーティングでダンジョンでの死者は600人を超えたと武もいっていました。

 この世界が最初から死者が存在しない、生き返る世界なら石碑の名簿はびっしりと埋まった規則正しいものになるでしょう。

 しかし目の前に映った石碑には不自然な空白がところどころに存在する、歪な石碑が映りました。

 「ねえ、ティアもう歩いて大丈夫なの?」

 後ろから環が話しかけてきます。どうやらヴァルゴに私がどこに行ったのか聞いてここに来たんでしょう。

 「ねえ、たま、まどか、一つ聞いていいですか?」

 環、もとい円香に私は最後の質問をすることにしました。これがあってればおかしくなったのは私じゃなくて世界の方だ。

 「ここに、エターナルに転生した人数って何人でしたっけ?」

 円香は少し悩んでため息をついて私の質問に答えます。

 「そりゃ3357人でしょ、中途半端な人数でちょっと忘れやすいよね、そんなこと気にしてもしょうがないでしょ、ほらベッドに戻りましょう」

 私は円香に促されベッドに戻ります。最後に石碑をにらみつけながら神殿の入り口に近づいたためでしょう、外から雨音がしているのに気づきました。

 私たちがエターナルに転生してから2か月ちょっと、日本なら6月、陰鬱な梅雨の時期さしかかり雨が降ることは何もおかしくはありません。

 ただひたすらに振り続ける雨はあんなにも望んでいたものなのに今はただ私の見知った島をすべて洗い流して消してしまう何かに見えるのでした。

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