第69話 雲
ヴァルゴと分かれてから私はただひたすらに黙々と歩き続けました。スキルの効果もありひきづって移動してた時とは段違いの移動スピードで進むことができます。
この調子ならあと1時間もしないで入口まで進むことができるでしょう。
ですがいいことがあれば悪いこともあるのが世の常でした。
いや、先ほどヴァルゴを見捨てた罰が当たったとでもいうべきなのでしょう、気づけば私の周りはオオカミの群れでいっぱいになっていました。
「さっきの群れと違えばいいんだけど……」
先ほどの群れにヴァルゴが倒されてそれがこちらに来たことだけは無いでほしいのは私のわがままなのかはわかりませんが早々に囲まれた私はとうとう動くことができなくなり、仕方なく環を下ろし短剣を構えてオオカミを迎撃することにしました。
目の前の一匹が環を下ろす一瞬の隙を見逃さず襲い掛かってきたオオカミに短剣を食らわせてのけぞらせると、次の瞬間背中に衝撃を受けて私は降ろした環に覆いかぶさるように倒れてしまいました。
……私頑張ったよね?
正直もう疲れました、周りにいるオオカミは6匹はいます。どれか一匹に対処すれば横や後方から同時に攻撃されます。
HPだって今の攻撃でほとんど失ってしまったでしょう、もしオオカミを何とか撃退できたヴァルゴがこの道を通るとしても……まだ時間がかかるでしょうね。
せめて私が死ぬまでは環に傷を負わせたくないのでそのまま守るように覆いかぶさりました。
倒れて立ち上がらない私をオオカミが様子をうかがっていたようですが、どうやら抵抗する気を失ったと判断したのでしょうこちらにひたひたと歩いてくる音がします。
近くにオオカミが寄ってきてがるるると低く唸る声とハァハァと口で息をする音がします。
最後の瞬間を覚悟して私は目をぎゅっと閉じできる限り何も感じないようにしました。
しかしどれほど身構えても最後の時は訪れませんでした。オオカミがキャインキャイン鳴きながら私の周りを走り回ります。
一体何が起こったのか、恐る恐る目を開けるとそこには私のローブが雲のように膨れ上がり森の獣道を侵食している光景でした。
膨れ上がった雲にオオカミは手が出せず、口で食いちぎって何とかこちらに来ようとするもそれ以上に増殖する雲にどんどんと押し流されて行っているようでした。
なんだかよくわからないけど、助かったのか……?
目の前のもこももした雲を食べてみるとそれは甘かった、ローブからはめぇーと羊の鳴く声がして、これが私のスキルで発生したものなのだとその時私は初めて理解しました。
雲の増殖は5分ほどで終わってしまったけどオオカミがそこを突破することは叶わずそのうち諦めて帰ってしまったようでした。
雲をかき分けて外を確認した私はいなくなったことを確認したのち『ありがとう』とやさしくローブをなでました。
わたあめはめぇと力なく鳴きローブから出てきて綿菓子雲もシャボン玉のようにぱっと消えてしまいました。