第67話 逃走
気づけば野営地に入り込んでいたオオカミはすべて撃退され夜中に起こった騒動は完全に鎮静化していました。
しかし夜が明ける前に私たちは移動を余儀なくされます。
「たったの12人しか残っていないのか?」
暫定リーダーの小次郎が呻くように声を上げます。彼はリーダーに選ばれただけあってこの中では戦闘スキルが高く、また襲撃の際にはすぐに前線に立ってオオカミを数多く倒したそうでした。
「死体の数は13人かそこらです、残りは逃げたのか、それとも……」
報告をしてくれた人が吐き気を押さえながらしゃべっています。
なんで死体の数が正確にわからないのか、それはオオカミによって食い荒らされ、誰がだれなのかわからないからでしょう。
ただオオカミが野営地に入ってしまった時点で持ち場を放棄して逃げて行った人間も数多くいる様でここに残っている装備品の少なさからも40人のうち行方不明の15人はパニックによって逃げ出したのだろうと思われました。
本当は彼ら13人を埋葬してあげるのが筋というものでしょうがあいにくと私たちは装備がボロボロになり初期装備を引っ張り出したり、新しく買い替えたりと余裕がありません。
血の匂いに誘われ他のオオカミが出てくる前に私たちはここを立ち去るしかなかったのでした。死んでいった人たちの装備の一部を回収し後でどこかに埋葬してあげようというのが私たちにできる限界なのでした。
この合同レイドは思い返せば悲惨なことばかりでした、モンスターは異常発生し、主催者側の人間は消え、さらに謎の男の襲撃によってPTは崩壊してしまったからです。
ただひとつだけ幸いなことしてはあの襲撃騒動の中環は生き延びていたことでした。
「環、大丈夫?手を繋ぎましょうか?」
けれどここまでの襲撃ですっかりとおびえ切っている環はすでに3階にいるだけで辛そうにしていています。
「死ぬときは一緒だよ……。」
私は『大丈夫だよ』とにっこりと微笑みながらうなずきました。環を安心させるためにも一刻も早くここから立ち去らないといけないでしょう。
松明を掲げ私たちは暗い森の中を移動していきます。不幸なことにオオカミの群れは10匹以上のものが多く襲撃を受けるたびに私たちの体力と気力は削られていきました。
「昨日までオオカミは少なかったのに……なんでこんなに多いんだ!」
リーダーの小次郎がみんなが口には出さないではいた不満をぶちまけます。やめてくれよ……こっちはもう限界なんだから。
既に限界まで歩き通している私たちがなんとか歩けているのはあと3時間もしないで3階の入り口までたどり着けるからでした。
さらに日程が正しければそろそろ警邏隊の第2陣のレイドPTが3階の入り口付近で待機しているはずでうまく合流できればそこからは安心だからです。
一歩一歩重い足取りを進めながら私たちは目の前に人影が現れるのを待っていました。
進行方向から何度目かわからない物音がして少し期待しますが、音の正体はまたしてもオオカミの群れでした。
数は10匹ほどと少なかったのですが私達も既に限界まで疲労がたまっており、前衛がオオカミを仕留めそこない後衛を護衛していた私に一匹オオカミがとびかかってきました。
そのままだとオオカミが私の首元に爪を掻き立て絶命しているところでしたが、後ろからどんっと押され私はバランスを崩しオオカミの魔の手から逃れることができました。
オオカミが倒されたことを味方の声で判断すると私はのそのそと起き上がりました。
そこには私の代わりにオオカミの攻撃を受けて気絶した環がいました。




