第62話 異変
「ねえ、やっぱりおかしいよ」
隣にいるロンナが不安げな声でこちらに話しかけながら袖をつかんでくる。ちょっと歩きづらいじゃないか。
しかしそうも言ってられないかもしれない、明らかにおかしいのだ。オオカミが30匹は越えて群れを作ってこちらに襲い掛かってきている。
それもまだ1時間半くらいしかたっていないのにすでに2回もだ、もう60匹は倒しているのでもし1日100匹理論で行けばもう1回くらいしか大規模集団に襲われてはいけないのだが……。
「オオカミがでた!右側だ!遠距離班!各自放て!」
武が今日3回目の戦闘開始の合図を告げる。しばらくしてすべて倒しきったらしく行軍が開始する、今までで戦闘時間が一番長かった、『ちょっと話をしてきますね』とロンナに告げて袖を話してもらい武のほうに歩いていく。
「すいません質問いいですか?今の戦闘、オオカミ何匹だったんでしょうか?」
武は警邏隊の人間を集めて喋っていたらしかったが、いつ終わるのかもわからないし声を掛けたのだが警邏隊の面々がぎょっとしてこちらを向いてきた。
「なんだティア君か、君は隠蔽が高いんだからもっと自己主張を激しくしてくれないと困るよ」
なんだか知らないけど文句を言われた。なんだよ私だって好きで隠蔽が高くなったわけじゃないのに。
「質問に答えてもらってもいいですか?先ほどの戦闘結構長かったと思うんですけど。」
私が折れずにもう一度質問すると武は答えてきた。
「まあ、ちょうどいいか。隠すほどのことでもないからね、さっきのオオカミは40匹の集団さ。ちなみに俺が3回経験したレイドの中で最大規模の集団は33匹だった。つまり……」
『一言でいえば異常だね』武はそう言って言葉を終えた。そして対策を考えるからいったん持ち場に帰ってほしいといわれてしまったのでそそくさとロンナの所に帰って行った。
「ねえ、ティア大丈夫だった?ちゃんとリーダーは考え直してくれた?」
ロンナが戻って来るなりすぐに私に結果を聞いてきた。
「どうやらオオカミの規模がだんだん大きくなっているようですね。大丈夫です、ちゃんと考えてくれるようですよ」
そう伝えるとロンナはひとまず安心してくれたそうだったが袖はつかんできた。なんでだよ歩きづらいじゃないか。
「ちょっとみんな、動くのやめて集まってもらっていいかな?」
武がみんなに大きな声で集合の合図を出す。全員異変を感じ取っていたらしく文句も言わずすぐに歩くのをやめて集まった。
「気づいている人もいると思うけど、ちょっとオオカミの数が多い。警邏隊の面々で少し話したんだけど30匹を超える集団は3層終わりの方でしか目撃したことがないからこの段階で見かけるのはちょっとおかしいね。それでこの異常事態が他のレイドPTでも起こっているのか伝令を出して確認することにした。伝令は警邏隊の人間が行うから安心してくれ!
それで第3PTにいるカヌスさんに情報を伝えて今後の方針を決めてもらう予定だ。今日はとりあえず2日目のキャンプ地まで進むつもりだ。まあ現段階で40匹超えは異常事態ではあるがオオカミは100匹くらいまでならこのPTでも対処は出来るから危険はないので安心してほしい。
ただ一つだけみんなに協力してほしいのだが、伝令で出るPTなのだが第1と第3に同時に出さないといけないため警邏隊から5人づつで出て行かないといけない。
そうなると獣道を通るならまだしも森の中を茂みをかき分けて歩いていくと少し危険なんだ、なので第1PTの通るルートと第3PTの通るルートの一番近づいたところ、つまり森の中を歩く距離が一番短いところで行いたいんだけどそこをそれぞれのPTが通るより早く到達したいんだ。だから行軍速度を速めたいと思っているんだけど大丈夫かな?」
あらかじめ森を踏破するならここという場所の見当をつけていたらしい武たちは私たちに行軍スピードのアップを要求してきた。まあそういう話ならしょうがないね。
「あと索敵班による索敵は一度中止する。今の状況だと危険だし、そんなものなくても十分前衛も後衛も戦えるからね。」
最後に索敵の中止を伝えた武は特に反対意見も出なかったためさっさと行軍の開始を告げた。さっきよりも少し早く歩くため袖をつかまれたら厄介だったのだが、現金なものでロンナはもう袖をつかむことは無かった。




