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第60話 1日目④

「もう!いやになっちゃうわ!」

 森に潜ってから6時間が経ちあたりが暗くなりきる前に私たちは野営をするためにあらかじめ決めてあったキャンプ地にテントを立てたり食事の準備を始めたりした。

 木の棒を大量にメニューから買いロープで縛った即席の柵を作っておいてそれをアイテムボックスにしまっておいたものを取り出して皆で簡単な陣地を構築していて少ないメンバーで夜の見張りができるようになっている。

 ちなみに食事は全員日替わりランチをメニューから買っておくかこれもまたあらかじめ作ったものを入れておいて取り出して食べることになっている。つまるところこの野営地内では食事を作るところはなく中央にテントがびっしりと並んでいてその中で寝ていたり休憩しているグループと外側に警戒するための人間が待機している少し異様な光景になっている。

 そんな外側の警戒の最初の担当に選ばれていた私とロンナなのだがいったん休憩して焚火のそばに腰を下ろしご飯を食べるや否や不満をぶちまけていた。

 「ちょっと、静かにしてくださいよ、もう寝ている人たちもいるんですよ。」

 私は声を押さえて注意をしました。交代で見張りをする都合上、後で見張りをするためのグループはすでに寝ているからうるさくすると彼らが目を覚ましてしまうからです。

 「だってぇ……お尻かまれるし、全然オオカミ見つかんないしぃ」

 3階を出発する前のゆっくりとした喋りから一転して弱弱しいしゃべり方のロンナに少し同情する。

 「私も全然見つけられませんね、やっぱりスキルを取らないと森の奥にいるオオカミなんて見つけられませんね」

 「ね!しかも見つけられなくてしょうがないって話なのに発見が遅れるとみんな何してんのって目で見てくるしさー」

 「わかります、少しやな感じですね。」

 実際索敵班なんて大仰な名前を付けられてはいるがそんなスキルを持ち合わせてはいない私たちはオオカミを事前に発見することは出来ず本隊で待っている人たちの視線が痛い。

 しかも本隊で待機しているはずのメアリーさんに先にオオカミを見つけられ『戻ってこい!』と大声で怒鳴られてディーなんて涙目で戻ってきていた。しかしあそこで戻らなかったら20匹のオオカミに蹂躙されていたかもしれないと考えると怒鳴られても生きてるだけましなのかもしれない

 「まあ警邏隊の人たちも説明はしてくれるそうですし明日には少しは理解してもらえることを祈りましょう。」

 私がそういうとロンナも愚痴ったおかげか少しは溜飲が下がったのか、黙ってご飯を食べ始めました。

 ぱちぱちと焚火が燃える音だけが響きます。日本にいたころはキャンプでもしなければ森の中で焚火をして1日を過ごすなんてことは無かったですし、少しテンションが上がってきてしまった。

 「でも今日はそんなにオオカミと遭遇しませんでしたね?もっと遭遇するのかと思いました。」

 しばらくしてご飯を食べ終わったので少しは雑談をと思って少し疑問に思っていたことを口にしました。

 「リーダーが前行ったとき3日で300匹くらい倒したって言ってたしそんなもんじゃないの?とそんなことよりも……」

 ロンナが喋っていて口ごもって、そのまま喋るのをやめてしまいました。

 またしゃべり始めるのを待っていたのですが一向に喋らないので私はしびれを切らしてこちらからまた話しかけました。

 「なにか気づいたことがあるんですか?私は最初の一回しかまだオオカミと遭遇してなくて気づけるようなことは無かったんですけど」

 「いや、最初は多くても10匹くらいだったのに最後のほうは20匹以上はいたよねって、リーダー最後のほうにならないとそんなに多い群れなんていないって言ってたはずなのに……」

 ようやく口を開いたロンナは結構鋭いことを言っていました。確かに群れに遭遇した回数は5、6回ほどと少なかったかもしれなかったけど、オオカミの数は多分今日だけでも100匹近くは倒したような気がします。

 10匹の規模が10回と10匹程度が3回と20匹以上の群れが3回では少し話が違うかもしれません。私は少し考えてオオカミの数が多い理由を思いついたので話してみました。

 「人数が多いから、もしかしたらポップするオオカミの数が多いのかもしれませんね?」

 「もしそうだとしたら奥に行ったらもっと増えるじゃん、こんな状態で本隊から離れて索敵なんてしてたら……死んじゃうよ」

 ロンナがショッキングなワードを口にして私は思わず彼女の顔をまじまじと見てしまいました。

 焚火で照り返された彼女の顔色はよく見えなかったけど、表情は明日のことを憂いている感じでした。

 「明日の索敵当番は最初はメアリーさんとリュウですから多分大丈夫ですし、もしそこでオオカミがまだ多いようだったらリーダーに伝えて索敵する範囲を狭めてもらうように伝えたらどうですか?」

 私はとりあえずの案を伝えることにしました、若干ですが不安を取り除けたようで彼女は先ほどの少し険しい表情からほっとした表情に変わっていました。

 「そうだね……じゃあいい加減外側の警戒代ってあげようか、あっちで立ってる人いい加減ご飯食べたそうだよ。」

 言われてそちらの方をみるとやせた槍使いの少年とムキムキの魔法使いがこっちを見てそろそろ代わってくれと訴えかけているように見えてきました。

 

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