第51話 因縁の相手
キノコを華麗に倒した私は環に対して渾身のどや顔をしながら拾ったドロップアイテムを見せに行った。
「いや、それ3層のスライムみたいなものだから、対して強くはないわよ」
ぶー、3階のスライムが倒せたってことは3階に実力が追いついていってるってことではないか。2階での醜態を考えれば果てしなく私は強くなっているのだ。
「ファイアーボール!」
近くにまだ潜んでいたらしいキノコを環が一蹴する。弱点を突くのはずるいぞ。
「困りましたね、正直オオカミとやらもみたかったのですけど。」
少し進んだくらいでは集団行動をするオオカミは見つからないようだ。しかしあまり奥に行き過ぎるのは憚られる。けれども環の3階のトラウマはオオカミが大部分を占めているのだからオオカミと戦わないと意味がなくて……どうしたものか。
二人して悩んでいるとあたりが騒がしくなっていたことに気づいた。これは……誰かがこっちに来ている?
「うわああああああああ、どいてどいてどいて!」
獣道の脇の茂みから一人の男が飛び出してきた!痛い!私は急なことでぶつかってしまい倒れこんでしまった、あげくそこは水たまりだ。
しかしお尻のあたりの不愉快な汚れはいったん無視しなければいけなかった。この男……オオカミに追われている、モンスタートレインをされてしまった。
「ちょ、やば、早くどいてください!」
私は体にのしかかるように倒れている男に文句を言った。こいつが私を押し倒すようにのしかかっているから起きあげれないのだ。
「いったん時間を稼ぐわよ、ファイアーウォール!」
環がレベル2の火魔法を唱える、これで茂みの方からの攻撃はしばらく防げる。まだMPやレベルが低いから3m程度しか壁を張れていないがそのうち全面に張れる程度には伸ばせるらしい。
男がようやく立ち上がり私もようやく立ち上げれた。短剣を構え迂回してくるであろうオオカミを待ち構える。
「貴方は右のほうを見ていて!左はおねーちゃんが見ててくれるわ!」
環が簡単な指示を飛ばして即席の連携を取ろうとしている。
「了解したよ!けどオオカミは5体以上いるんだ!逃げたほうがいいんじゃないか!?」
少なくとも5体はいるという情報を男が提供してきた、しかしオオカミとせっかく戦えるチャンスなので私たちに逃げるという選択肢はなかった、環も今のところ平気そうだ。
「ガウッ!」
火の壁を迂回したオオカミがこちらにまずは一匹向かってきた。あまり大きい個体ではなくまた獣と戦うのは初めてだったため戸惑った、相手への攻撃がしづらい、地面を這う獣に対して短剣を振り回し当てるのは難しい。
オオカミが突進してきてそれに合わせたカウンターが虚しく空を切った、私はあっけなくオオカミに懐に入られて体当たりを食らった。これだけの衝撃を食らえば私の華奢な体では獣道を超えて森に生えている木にぶつかって気絶していただろう。
そう、今までならだ。めえ~っとコートが鳴く、効かねえ、羊毛だから!と言ってる。このコート、わたあめによって強化されたコートは衝撃を吸収する効果がある。これによってオオカミの体当たりを難なく受け切った私はオオカミの頭にダブルスラッシュを叩き込んでまずは一体を倒した。
「スラッシュ!」
右のほうを見てみたら男が剣のスキルを放って2匹のオオカミを難なく切り払っている。なかなかやりおる。残りは2匹、オオカミはまだ襲ってくるのだろうか?それとも残りは逃げてしまっただろうか。
しばらく気を張り詰め続けていた。オオカミの足音や体があたり草木が揺れる音、その他なんの音でも聞き逃さないようにしていたが……何も音がしなくなった、やはり逃げたのだろうか?
ごうごうとファイアーウォールが燃える音だけがあたりに響く。魔法のおかげであたりは明るく、そのせいで森の暗さが際立つ。少し先の暗闇からいつオオカミが襲ってくるか緊張で手に汗がにじむ。
「そろそろ壁が消えるわ!」
環が魔法がそろそろ消えることを伝えてきた。どうするべきだろうか。走り去って逃げる?オオカミはもういないかもしれないのに?
ここで悩んだのが失敗だった、魔法が消える前にどう行動するか決めておくべきだった。ファイアーウォールが消え、あたりが暗くなった瞬間、壁の向こうにオオカミが息をひそめて魔法が消えるのを待ち構えていたのを私たちは知った。
「環!」
環の方向へ2匹のオオカミが一斉に襲い掛かる、魔法使いが厄介だと知っているのだこの狼たちは。そして2匹のオオカミたちに襲われそうになっても環は佇んでいる。もしかしてオオカミを実際目の当たりにして恐怖で動けなくなった……?それはまずい!私は環に呼びかけながら駆け寄った。しかし結果としてそれは無駄になった。環は不敵な笑みを浮かべレベル3の火魔法を唱えたからだ。
「フレイムグラウンド!」
唱えるとともにあたり一面がひび割れ下から火が噴き出る。真夏の砂浜どころの騒ぎではない、地獄の床がきっとこれなのだろう。
キャインキャインと情けない声を上げながらオオカミたちが倒れて毛皮へと変わる。こうして私たちはオオカミを無事退けたのだった。




