第50話 3層の練習
「調子はどう?」
私は環に向かって大丈夫かと聞く、ここは因縁の3階、環のトラウマの場所なのだ。
今日私は初めて3階に足を踏み入れ、環は前のPTできた以来初めてここに挑戦することになった。
「思ったより、平気ね」
私の固有スキルについてある程度の情報が集まり練習ができるようになってから何日か2階にわたあめを一緒に連れてって挑んだ。
最初のうちはローブに入りっぱなしだったわたあめも最後の方には自分の意志でローブから出たり入ったりさせられるようになった。
今のところはローブの防御が少し高くなる程度のスキルだが将来に期待だ。
そういうわけで2階も慣れてスキルも順調にレベルアップして行ってる私たちはとうとう3階に挑戦することにしたのだ。
もちろん本格的な挑戦はレイドPTを組んで行うことにするのだがその前に環がちゃんと3階で平静でいられるかを確認する必要があった。
こればっかりは他のPTを巻き込むわけにはいかないため、PT募集で多めに報酬を渡すかもしくは補填をすることで無理やり組んでいこうかなと思っていたのだが、それを前広場のPT募集の所でうっかり出会ってしまった双子のジェミーに相談するとどうやらレイドPTが出発した後の3階の入り口は比較的安全らしい、さらにその情報が出回ってるおかげで同じように3階にすぐ挑むのが不安な少人数のPTがいくつか入口付近で狩りをして慣らしているらしい。
つまりそれに合わせればわざわざ募集をしなくてもいいらしい、やったね。
ということで3階に挑んでいる私達だがどこにも敵がいない、入口付近でさらにレイドPTや他のPTが荒らしまわった後だからいないのも当然なのかもしれないがこれでは困る。
「あんまり奥にはいきたくないんですけどね……。」
しかしここにピクニックをしに来たわけではない私たちは少し相談した後ほんのちょっとだけ進むことにした。怖くなんかないぞ。
「環、マップちゃんと開いてますか?いつでも逃げられるようにしますよ……。」
森の中は薄暗くてしかも鳥が鳴いたり、風で木が揺れたり、さらに遠くで誰かが戦っているのだろう、爆音が響いたりでそれはそれはなのだ。でも怖くなんかないぞ。
「おねーちゃん、足がっくがくよ。私がビビる余裕ないじゃないの……。」
どうやら自分より駄目な人間を見るともうひとりは比較的冷静になれる奴が発動して環は平気らしい。これも作戦のうちなのだ。だから怖くはない。
森の獣道?いやレイド道を少し歩いていると突然物影が動いた。キノコが動いている。これはマイコニドだ!
「おねーちゃん!キノコの気を引き付けて!私が魔法で倒すわ!」
環がファイアーボールで倒すと伝えてきたが私はそれを手で制した。
「ちょうど一体です、魔法は少し待っててください。私の短剣のスキルで倒せるか検証しましょう。」
一度出てきてしまえばもう怖くはない、人は想像で一番恐怖するのだ、見た目もそこまで怖くはないため私は固有スキル以外の新しい力が3階でどれだけ通用するのか試してみることにした。
「レベル1短剣スキル!ダブルスラッシュ!」
そう唱えると私は短剣を高速で振りマイコニドに2回連続でたたき切った。そう、魔法スキルがレベルを上げれば魔法を詠唱できるようになったように、実は短剣術やその他の戦闘スキルにも詠唱できる技が存在したのだ。神はそこ説明するべきだったよね?
ことの発端は広場で誰かが魔法をレベル2にした時にファイアーウォールを唱えられるようになったのだが、そこで技名をどうやって確認しているのかと質問されたらステータスに表示されているスキルをポップして確認していたと答えたところから始まる。
実は初日に魔法をとった人たちのうちゲームに慣れていた人たちは最初からステータスのスキルから技名を直接確認していてそのPTの人たちは剣術スキルの技の存在を知っていたのだが、それを人づてで聞いた人たちが魔法の技名だけ聞いて剣術などを確認しなかった結果魔法は技名を唱える、物理系は頑張って武器を振るのだと勘違いしていてそれが周知の事実となってしまった。さらにそこから強い人たちはさっさと2階、3階へと遠征をしてしまい情報が広がりづらかったのもあった。
1階、2階でポイントを稼いでいた転生者たちも少しはおかしいと思っていたが別にスライムもエレメントも技なんか使わなくても倒せたので特に必要じゃなかったのも発見が遅れた理由だろう。
今まで物理職の皆さんはスキルを獲得しておきながら技を使わない縛りプレイをしていたようなものなのだ、しかしこれの存在のおかげで私のような非力な存在でもモンスターに対して攻撃手段を持ち合わせることになるのだった。
戦闘に話を戻そう、マイコニドはいいダメージは入ったと思うがまだ倒すには至ってないようだった。
「レベル2短剣スキル!ハイド!」
このスキルは戦闘中でも敵の視界から隠れられるスキルだ、もちろん戦闘前でも使えて奇襲をかけることも、索敵や敵を振り切って逃走もできる。
マイコニドも私を見失ってきょろきょろとあたりを見渡して、環を視界にとらえた結果そちらの方向へ向かおうとした、消えた敵を探しもしないで背後をさらすとはこれだから知能のないモンスターはダメだね。
「レベル3短剣スキル!スニークヒット!」
隠れた状態から攻撃をすることでダメージを高くする技だ。隠れてなくても使えはするらしい。
そして背後からぶっすりとマイコニドの心臓?キノコにはないから中心のあたりに短剣を深く突き刺さすと、そこで倒せたらしくドロップアイテムのキノコがぽとっと地面に落ちた。




