第36話 約束
「別に……もう怒ってないわ、大したことないことだったから、それに朝来なかったのは体調が悪かっただけ、明日はちゃんとティアの家行くわよ、言いに行けなくてごめんね?
でもティアが悪いのよ?ちゃんと昨日追いかけてきてくれるか朝家に来てくれれれば言えたんだから。」
嘘だ、もう怒ってないのは本当なのだろうがそれ以外は全部嘘だ。いや明日ちゃんと私の家に行くところも本当かもしれない。
「環、教えてください、お願いします」
「しつこいわね、本当に怒ってなんかないわよ……、私が怒ってると思ってるならなんで昨日のうちに来なかったのよ、今更来る程度にしか気にしてなかったんでしょ?」
環が理不尽なことを言う、私の足が遅いのがすべて悪いっていうんですか?
「だって家から出たらもう姿が見えないし、それに環家の場所教えてくれなかったじゃないですか、これでも頑張って突き止めたんですよ?」
流石に言い返していいだろう、と思ったが駄目だった。環の顔がすごい歪んでいる、どんな表情なんですかそれ?すいません口答えしちゃって許してください。
環の顔を見ながら手を合わせて南無南無する、静まり給え~静まり給え~!ゆっくりと環が口を開く。
「おねーちゃんってさ、天然で、アホで、弱くて、駄目で、そのくせ前世はムキムキなマッチョだとか意味不明なこと言ってるどうしようもない人だよね……」
とうとう罵倒の嵐が私を襲う、やめて!もう私のライフは0よ?!
「だけど頑張り屋で、頭は回るし、やるって言ったことはやる、他人よりできなくてもそんなの関係なしに頑張って人並みにできるようになっちゃう」
と思ったら今度は褒め始めてくれた?いやこの口調、だんだんいい方が激しくなってきてる気がする、……怒ってるのか?いや違うこれは。
「探索だってそう、今は私のほうがエレメントを倒せるかもしれないけどそのうちおねーちゃんだって倒せるようになる!そして勝手に3階に行って私を置いて行っちゃうんだ!」
環が泣きながら私に怒鳴ってくる、そんなこと……するわけないじゃないですか、私も環においてかれる想像はしたけれど、だってそれはエレメントすらまともに狩れないからで……環は普通に2階で通用してるじゃないか、今現状役に立ってなくておいてかれる心配をするのは環じゃなくて私のはず。
「おいてくわけないじゃないですか?一緒に攻略していきましょうよ、私も頑張ってエレメント倒せるようになって一緒に2階を探索して、十分強くなったら3階に一緒に行きましょう?」
「だからそれが置いていくっていってるじゃない!私3層なんかに行きたくない!おおかみとなんか戦えないよ!なんで……そんなに上に上らないとだめ?」
環が泣いて私にそう言ってきた、そんなに3階にいきたくないのか。確かに死にかけた場所だ、行きたくはないのだろう。
「でも前は4人だけだったのでしょう?広場で言ってたじゃないですか、今度は30人とか徒党を組んでいけば安心ですよ?」
環に3階安心攻略プランを提案してみる、今ここで3階に行かないって言ってもいいけどどうせ行くのだ、嘘をついてPTを組んでもうれしくない。さあこのプランを聞いたお客様の反応はいかに?
環に殴られた、いてえ。虚を突かれた私はそのまま環のなすがまま、ベッドに押し倒され上に馬乗りされて、あげく両手を押さえつけられた。
おいおい、これは何かな?こんな拘束私には通用しないぜ?っと余裕な表情で環を見上げる。美しい夜空のイルミネーションをバックに泣いている女の子に馬乗りされるだなんてなかなかのシチュエーションだ。
「だから!なんで!3階に行くの!いいじゃない!2階でも十分、稼げるじゃない!そんなにスキルのレベルや稼ぐ効率が気になるなら私の取り分を減らしてもいい!4:6?それとも3:7がいい?あなたが望むなら全部でもいい!だから一緒にいようよ……」
環が私を拘束したまま養う宣言をしてきた。これはヤンデレですね。まあ違う点といえばこの拘束はいつでも力ずくで脱出できるってことですかね?
どうやら環は3階で負けたトラウマがよほどひどいようだ。正直すんなり3階に行けるだなんて思ってはなかったが、それはゆっくり慣らしていっていつかいっしょに行けると私はそう考えていた。でも環は断固拒否ってことで3階に行くのに意欲的な私を2階にとどめておきたいようだ。それこそ稼げなくなっても、おいてって欲しくないために。
「環、3階に別にすぐに行くなんて言ってないですよ。最初はちょっとだけ、ゆっくり慣らしていきましょう?それで十分やれると二人で判断したらほかの人たちと一緒に行きましょう?」
「いやだ!3階なんて行きたくない!おねーちゃんなんてすぐに死んじゃうよ!?私にすらすぐに組み伏せられるくせに!」
環が怒鳴る、どうやら私の力を侮ってるようだ、こんな柔な細腕で私の手を押さえつけられるわけないだろ?力を入れて両腕をつかんでいる環の手を外そうとする、むぎぎぎ……?あれれ?環さん握力強くないですか?拘束を外して頭をなでながら環を説得する、王道のパターンが破壊された。環の拘束を振りほどけないことは無視してそのまま説得をするしかない、かっこ悪いけど。
「ねえ私達弱いですよね、もし本当に泣き虫で出来の悪い妹がいたらおねーちゃんなら3階なんておちおち行ってられないかもしれないです……」
環が目を開いてこっちを見てくる、悪いけど2階でずっといてあげることはできないんだよ。1年後必ず別れが来てしまうんだから、神によって。
「だけど今日私いいこと聞いてきたんです。10階まで登れたら神様が一個だけお願い事聞いてくれるんですって。もし登れたら環は何を願いますか?」
「そんなの……考えるまでもない、登れないんだから関係ないよ?まさかそんな願い事を聞いてもらうために上に登るだなんていわないよね?」
「仮定の話です、環が考えてくれないなら代わりに考えてあげます。もし私が10階まで行けたら何をお願いしようかな?筋肉ムキムキにしてもらってもいいかもしれないし、魔力をいっぱい増やしてもらって魔法打ち放題にしてもらってもいいかもしれません。あとは頭をよくしてもらってもいいかもしれない。」
一息ついて環の目をしっかり見て続きを言う。もしこの説得で応じてくれなかったら、どうしよう。
「でも今はそんなくだらないこと願ってられないですよ、だってこんな泣き虫な妹がいるんですもの、願い事は『一緒の世界に二人で行けるようにしてください。』です。
ねえ環、こんな泣き虫弱虫の妹が1年後別の世界でちゃんとやれるのか私は不安で不安でしょうがないんです、私はあなたが何と言おうと10階まで行きます。登り切ります。
そして神様に環と一緒の世界に飛ばしてもらうようにお願いしてきます。」
環の目から涙が溢れてきている。嬉しいのだろうか悲しいのだろうか?それとも呆れて怒ってるのかな?わからないから答えてもらおう。
「確かに上に行くのは怖いかもしれません、だけど私のお願いのためにダンジョン一緒に攻略しませんか?環の言う通り私一人で登っていたらすぐ死んじゃいそうなんです。」
「こんなあほなおねーちゃん一人でダンジョンに放り込んだら1日で死んじゃうわ……私もいっしょに行くよ……。」
環の返事は弱弱しかった。いつの間にか腕の拘束は解けている、環が私のそばに顔を向けないで寝っ転がってきたからだ、ちょうどよかった、恥ずかしいことばっか言ったから顔が赤いんだ。
月明かりがまぶしくてカーテンを閉じる、今日は一日環を探し回って疲れてしまった。なのでいつの間にか寝てしまっていた。




