第35話 環の家
「ここが環のハウスね……」
口に出してみたものの確証はない、ただその可能性が高いだけ……。
とりあえず鉄の柵の門を押して開こうとすると……簡単に開いた。
落ち着け、まだこれからだ……。
ゆっくり、ゆっくりと今度は家のほうの扉へと近づく、扉はどこの家も同じなのだろう、本来なら鍵がかかっているはずだ。
「しつれいしま~す。」
ぎいぃぃと扉の建付けが悪い時になる音がする、馬鹿みたいに大きく感じるのは緊張しているからだ、空き巣じゃないですよ。
1階のリビングには誰もいなかった、想定通りだ。でも生活感がある内装をしている。机にドレッサーや小物入れなんかは最初からは家にはおいてないからメニューから購入したのだろう。ここの家主は女の子か小物好きのおっさんの2択まで絞れた。ただ私以外は肝心の家主すらいないから時計だけがチクタクと規則正しく音を鳴らしている。
なんだよ環、時計買ってるじゃん『時間がわからないから』って言っていつも早い時間に来やがって……と思ったがもしかたらおっさんの家かもしれない。ていうかその説のほうが高くなってきた。お、お腹が痛い……。
多分環がいるなら2階のあの部屋のはず……。早く確認してしまおう、家主がほかにいたとしても帰ってくる前に退出してしまえば完全犯罪だ。
2階への階段を上り目的の部屋の前まで来た。外観から確認したとき多分ここだった、はず、まあ間違っていたら隣の部屋をノックすればいい。コンコンコン、マナーの3回ノックだ、就活生は覚えておきなさい。
「環、いるなら返事をしてください……」
恐る恐る声をかける、物音がした。誰かはいるのだろう。ただ返事がない。しばらく待ってみたが何も返事は返ってこなかった。どうしようか、ここで開けてしまってもいいけれど、もう環は私と話なんかしたくないのかもしれない。
「私、毎朝待ってますからね。」
最後に一言かけて私は諦めてその場から立ち去ることにした。
すると中から聞きなれた声が聞こえてきた。
「入らないの?」
環の声だ、やはりここが環の家で間違いではなかったらしい。よかった他人の家に不法侵入することだけは回避できたらしい。
「環が返事をしてくれなかったので……あなたが嫌がることは私はするつもりありませんよ。」
ここでさりげなく私が意図して環の嫌がることをしないということもアピールした、無意識にやってしまうことは許してほしい。
「入りなよ、知らない仲じゃないんだし」
環に入室を促される、これは心を開きつつある前兆なのだろう、『失礼します』と礼儀正しく入室し正面を向く。
寝室にいた環は寝間着だった。困った、部屋に入ったら環のことを褒めまくってごますりをして機嫌をよくしようとしたのに、その一手目がくじかれた、さすがに寝間着を褒められてうれしいかな?
そうやってじろじろ環のことを見ていたら『ちょっとじろじろ見てないで座んなさいよ!』と席に座っていいと面接官の方から許可が出た。よし椅子に座ろう。
あたりをきょろきょろとみると椅子はベッドすぐそばにあった、寝間着の女の子とすぐそばでお話なんて緊張するんですけど……?
しかし今はそんなこと言ってられない、私は意を決して椅子に座る。
「環、今朝は体調でも悪かったんですか?それとも私は昨日何か気に障るようなことをしてしまいましたか?それなら謝ります。」
初手謝罪だ。これで許してくださいお願いします、環様。しかし返事は返ってこない、やはりご立腹のようだ。
「もし昨日の探索での取り分が不満とかなら言ってください、ほら、エレメントの破片メニューでまだ換金してないんですよ?」
そう言って昨日の探索で倒したエレメントの破片を取り出す。環が急に飛び出してから今までポイントに換金する気が起きなかっただけだが、もしかしたら昨日戦闘をあれだけ頑張ったのに私が半分持って行ったのが不満なのかもしれないと思い提案してみた。
「おねーちゃん、私達PT組んでるんだよね…、貢献がとか取り分とかあんまり卑屈になるのやめてくれない?」
環がすごく怖い声で私に言ってきた、今だけ熊さんの5倍くらい怖い、『ごめんなさい!』っていって大慌てでアイテムボックスにエレメントの破片を隠す。
「じゃあ環は一体何をそんなに怒ってるんですか?教えてくれないとわからないです。」
環はその発言を聞いて……言いどもった。




