第31話 ヒエラルキーの崩壊
今日は2回投稿
信じられない……あまりに信じがたい光景が映っていた。
2階に上るとき、あんなに一緒にダンジョンを攻略しようと、私たちは笑いあって約束していたはずだったのに。
そんな儚い願いすら音を立てて崩れ落ちていこうとしていた。
これ以上私からいったい何を奪おうというのだろうか……。
環はエレメント3体に囲まれて今すぐにでもエレメントたちは環へと攻撃を仕掛けようとしている。
うおおおおおお!待ってろ環!今おねーちゃんが助けてやるからな!!!!!!!
私は手に持った水のタライを大きく振りかぶりエレメントたちに水をぶっかけようとする。私の環から離れろぉぉぉぉぉ!!!!!!
「えい、えい、えい」
瞬く間に倒されるエレメントたち……ああ信じられない。
「どっしたのおねーちゃん変なポーズで固まって。」
「イエ、タマキサンオツヨインデスネ、テッポウノミズヲホジュウサセテモライマス」
うやうやしく水鉄砲を受け取る、まるで主人と配下の者のようだ。
涙が止まらない、昨日まで私たちはともに背中を預けて戦ってきた戦友だったのに、今では私はエレメントの破片を拾い、水鉄砲の水を補充するための係へとなり下がっていた。
2階に来てから何の役にも立ってない、ダンジョンですら役に立たない私が環に勝っているところなんてもう年齢くらいじゃないか?これだけは守り抜こう、そう誓った。
「お、おねーちゃん、みずこぼれてる……よ?」
いけない、考え事をしすぎていて水が駄々洩れだ。せっかく乾いてきたローブがまた湿ってしまった。環のほうをちらっと見る。
やばい、環様が水もまともに入れれねーのかとドン引きされておる、早く挽回しなければ!くらえ必殺ごますり、年長者の年の功をなめるな。
「環様はエレメントを倒すのが御上手いようですね、尊敬します。」
すると環は怪訝そうな顔をしたが気をよくしたらしくぺらぺらしゃべり始めた。
「私前世でFPSとかサバゲーとかちょっとして射撃だけはちょっと自信あったのよね。だから遠距離職も選んだんだ。」
やっぱ遠距離から倒すのっていいよね~とかその後も続けて話していたがそんなの頭に入ってこなかった。
サバゲ?FPS?FPSはともかくそんなの子供はやらないよ???
「失礼ですけど、環さんは前世はいくつくらいだったんです?ていうか女の人でした?」
環はその失礼な質問に慌てたように答えてきた。
「ほんとに失礼ね!年は19よ!花の女子大生よ!?そりゃちょっとあれな趣味だとは思うけど……」
え?19?年上…?
よほど間抜けな顔をしていたらしく環に何を考えていたのか即座に看破された。
「あれれ~?もしかしておねーちゃん、妹ちゃんだった~?」
やばい……何か言い返さないと……何かで勝たないと……。
「待ってください、私は身長200㎝体重100キロ体脂肪1%の男性です」
それを聞いた途端環はゲラゲラと笑い始めた。
「わかったわかった!これからもおねーちゃんって呼んであげるから安心してね(笑)」
環がどんどん私の元から巣立って行ってしまう。いやもともと環はきっと明るく社交的な性格だったのだろう。
私と会ったときたまたま内気で引っ込み思案な性格になってしまっていただけなのだ。PTに誘ってほしいオーラを出していたあの頃の環が恋しい。
しかしこのままじゃ私が環に勝っているところがなくなってしまう。
絶対不可侵の最後の砦が壊れた以上私にはいったい何が……。考えろ、何かきっとあるはずなんだ。
前を歩く環の頭を眺めながら私は一つ思いついた。
そうだ身長が勝ってるじゃないか。しかしこのわずかな希望たったの5㎝もないかもしれない。もしかしたら1日徹夜しただけで抜かれてしまうかもしれない。今日から毎日牛乳を飲んで差をつけるしかない。
いや今すぐ飲んだほうがいい、善は急げだ。
「すいません環さん、自分牛乳いいすっか?」
「ほんとにどうしたのよ!?」
環がきれた。




