第27話 空飛ぶα
最初の部分は前回と同じですが仕様です
「ねえ!この子の名前を決めましょう!」
家に帰るなり環はそう言った。確かに名前がないのは不便だ。
しかしそうなるともう一つ問題がある。
「私もないんですよねえ……」
「ええ!おねーちゃん名前つけてないの!?」
環が驚いている、そりゃあ私も名前を付けたかったのだが、いい名前が思いつかないのも理由にあったが、女の子っぽい名前を付けてしまうのが少し恥ずかしくて先延ばしにしていたのだ。
幸い名前がなくて困るようなこともなかったしね……、泣けてきた。
ひつじで癒されないと…ひつじは庭でぼうぼうの草をむしっては食べていた。もうこれだけで家に連れてきた甲斐があったわ。
外に出てひつじを捕まえる、今のお前の仕事は庭の手入れじゃなくて私の傷心の心を癒すことなんだよ。
「でもおねーちゃん早く決めないと大変なことになっちゃうよ?」
環が家から出てきて私に不穏なことを言ってくる。
「だって名前がない状態でほかの人たちが広く認知してしまった呼び名があると勝手にその名前になってしまうんだもの。東の街にはロリコンとかいう不名誉な名前になっちゃった人もいるんだから!」
それはとんでもない、名前を決めないデメリットなんてないと思ってたがそんなことは無かった。一刻も早く名前を決めなくては!
私はそう思ってメニューを開いて名前を確認しようとした。
名前:木の下の幽霊
スキル:短剣術1
隠しスキル:隠匿2
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
「名前……名前が……」
年甲斐もなく泣いてしまう、こんなひどいことあっていいのか……。
「ど、どうしたのおねーちゃん、ま、さか……」
ああもう死にたい。周りに讃美歌が流れて目に見えない天使が私を天国に連れていかれてしまうようだ。
変なイメージなんかしてるから急にフワフワしてきた、足が地についてる気がしない、ていうか浮いてる。
ぎょっとした環が手を伸ばしてわたしが浮くのを阻止しようとするが浮く力が強い、握力がない環はすぐ落ちてしまう。
気づくとローブに引っ付いていたひつじと私は空を飛んでしまっていた。
最初は悲鳴など上げていたのだがさすがに疲れてしまった。もう風に流されるまま適当にさまよっている。どなどなど~な~。
気づくと私は海に投げ出されていた。
「うっぷ」
惨めだ……名前も何もかも……いいことなんか何もない……動きたくもない……。
私は浜辺まで何とかたどり着くとそこで力尽きて寝っ転がっていた。
ひつじが心配そうに私のほほをなめる。ただでさえ春の海は肌寒く私は濡れてしまっていたため羊を抱き寄せて暖をとった。
誰かが歩いてそばに寄る音がする、海辺だし散歩している人くらいいるか、私はその存在を無視してただただ夕日を眺めていた。
「ねえ、あなた大丈夫?」
すると足音の主が心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫です、ほっといてください。」
親切心のあるいい人なんだろうが、今はほっといてほしい。けれどさらに話しかけてくる。
「じゃあそんなに構ってほしそうな態度とらないでよ、ねえ私に言ってみて?力になれるかもしれないよ?」
うう……話す気なんてなかったのだが頭をなでられて優しくされてしまった私はいつの間にかことのあらましを説明してしまったのだった。
「名前がそんなひどいのになっちゃったのね……」
うんうんと私はうなずく、それはもうひどいのだ。
「でも大丈夫よ!だってメニューはほかの人に見えないし、あなたが黙ってほかの名前を使っていればほかの人にはわからないわ。」
優しい人が解決策を提示してくれた。
「まあ、でもメニュー見るたびに自分には見えちゃうんだけどね……」
はにかみながらそう話してくれている彼女は天使に見えた。
「あの不躾なお願いなんだけど、名前を考えるの手伝ってもらってもいいですか?」
私はいつの間にか彼女に一緒に名前を考えてもらうように申し出ていた。だって1日かけて考えてもいいの思いつかなかったんだもの。
アリア、ライラ、アシュリー、マリー色々出してもらったのだが、女の子の名前だと少し恥ずかしいことを西洋風の名前だと気恥ずかしいと伝えて別の名前を考えてもらった。
さらに何個か考えてもらったのだがそのたびに却下してしまい少し申し訳なくしていると次に彼女はこう言ってきた。
「じゃああなたの名前はアガスティア……でどう?」
うーん?まあ女の子?っぽいようなそうじゃないような。まあいいのかな?
「わかりました、じゃあそれで」
「ようやくきまったー!、あなたちゃんと名前が気に入らない理由は言わないとだめだよ?」
どうやら女の子じみた名前が気恥ずかしくて却下していたのを相手は感づいてそうじゃない名前を付けてくれたらしい。
「ごめんなさい、いい名前をありがとう。」
すると目の前の女性はにやーっといたずら成功した顔でこっちを見てきた。
「じゃあその名前でもう決定で変えちゃだめだからね!ティアちゃん。」
ティアってちょっと恥ずかしいじゃないか。っておもったところで私は騙されたこと知った。
「ちょっとだましましたね!?」
「だってどうして恥ずかしいのかはわからないけど名前なんて一度名乗ったらもう変えられないんだからちゃんとしたのにしなきゃだめだよー?」
それは……その通りである、私が黙るとそれを肯定だと受け取ったのだろうか。彼女は立ち上がった。
「じゃあ元気でね!ティアちゃん、私の名前はリゼだよ。また会ったらよろしくね。」
座ったままじゃ失礼かと私も立ち上がり帰りのあいさつをする。
「じゃあお元気で。私の名前はアガスティアです、またどこかで。」
めぇ~っとひつじもあいさつをしてそれにリゼは笑顔で手を振っている。私はメニューを開いて替えの服を取り出そうとした。
そうすると
名前:アガスティア
スキル:短剣術1
隠しスキル:隠匿2
あれ?名前が変わってしまっている。なんでだろう。何回も閉じたり開いたりして表示が変わらないか見てみる。名前は今度は変わったりしない。
気づくと涙がまた出てきた。
リゼは慌ててまた私のことをあやすようになでてきたが私が勢いよく抱き着いてしまったためお互いに体勢を崩してしまった。
今私はリゼにたいして馬乗りの姿勢になってしまっているがそんなの関係ない。名前が変わっている!素晴らしいことだった。
「りぜ!私アガスティアになってる!」
リゼは混乱している様子だ。私は矢継ぎ早にメニューの名前の表記が変わったことを説明した。
それをうんうんとゆっくり最後まで聞きながら話し終わった後も興奮の冷めない私をゆっくりと自分からおろしおめでとうと祝福してくれた。
「ありがとうリゼ、大好き!」
私はこの時少々テンションがおかしかったのだろう、普段なら言わないようなこともたくさん言ってしまっていた。
夕日のおかげか目の前のリゼは赤くなっているように見えるし、海が反射する光がきらきらと腰まで伸びた髪や整った顔を照らしていて黒髪の清楚な美少女がさらに磨きかかっているようにも見えて非日常感がでていたのもプラスで働いてしまったのかもしれない。
そうして何回もお礼を言ったの私達は家に帰ることにした。
帰る前に少しおかしな質問はされてしまったが。
「ねえ、ティアは実は前世男の子だったんでしょ?」
ぎくり
「そ、そんなわけあるわけないじゃないですか~、じゃあね!またこんど!」
ぴゅーんと走って逃げだした、はいいけど勘のいい子だったしうまくごまかせなかっただろうしまあいいか。
「ティア、前世が男なら私と恋愛だってできるよね……」
その帰り道家を特定するためにストーキングしている女の影をついぞ私は見抜くことはできなかった。




