第22話 環の懺悔
しばらくしてようやく環は様子が落ちつたようだ。
そしてぽつぽつと話し始めた。
「私は……前組んでいたPTで三層まで行っていたの。戦斧を持った戦士のカイト、短剣持ちのシーフのライラ、剣士のダミアン、そして魔法使いの私だった。一層のスライムも二層のエレメントも私たちのPTは特に苦戦することもなく倒せたの。
PTは連携もうまく取れて無傷で戦闘を終えることも多々あった。だから調子に乗っていたのかもしれないね。一回でも負けてしまったら死ぬってことを忘れてろくに情報も集めずに三層に上り、あまつさえそのまま奥地に進んでしまった。
三層のマップは迷宮じゃなくて森でモンスターはマイコニドだった。動くキノコだから少し手間取ったけどそれでもライラが引き付けている間にカイトやダミアンが大きな一撃を入れて倒せた。
私の魔法もマイコニドには相性がいいらしくて1撃で倒せた。
けど……」
そこで環は表情を曇らせた。よく見ると脂汗が出ていて少し震えている。思い出すのも憚られるようだったがそばに置いておいた水を飲んでまた話し始めた。
「三層のモンスターはマイコニドだけじゃなかったの……。そう二層までは一種類しかモンスターが出てこなくて、だから私たちは三層はマイコニドだけが出てくると勘違いしてしまった……。
二層から上がってきた階段から30分以上離れて探索したところで私たちはオオカミの群れに囲まれていることに気づいた。
そこからは最悪だった。私たちは必死にオオカミたちの包囲網を破って森の中を走った。
私たちは脇目も振らず必死に二層への階段へ逃げ続けたんだ、オオカミたちに噛みつかれて血だらけになっても、剣や斧といった装備を落としてしまっても、そしてそれは仲間も含まれていた。
あともう少しで開けた道に出れそうだった時私が木の根っこに足を引っかけて転んでしまった。みんなは少しだけ迷って……そして私は見捨てられた。仲間に見捨てられた私は装備もポイントもすべて肉とかオオカミの気が引けそうなものに必死に変えて命からがらダンジョンの入り口まで帰ってこれた。」
環はそこまで言うと泣き始めてしまった。
先ほど私が転んだ時に逃げられなかったのは自分があの時体験したことがフラッシュバックしたからなんだろう。
私は彼女の頭をなでて落ち着くまで待ってあげた。
「ううん、ありがとう。でも私はあなたにやさしくされるような人間じゃないの。
私は一人じゃダンジョンに潜るのも怖くてあなたの善意に付け込んで一緒に狩りをしようと思ってた。
スライムなんて雑魚三層まで行ったことのある私なら余裕だけど、ただ一人じゃ潜る勇気がないから一緒に潜ってくれる人がいればいいとそう考えてあなた近づいた。」
環はどうやら三層で負けて味方に見捨てられたトラウマでダンジョンに一人で挑むのが怖くなったらしい、でくみしやすそうな私を見つけて一緒にダンジョンに潜ってくれるように仕向けたと。
まあ戦えないかもしれないけどPTを一緒に組んでほしいなんて言われて組む奴なんてそうそういないに違いない。
そう考えるとそこをあえて伏せてPTを組もうとするのは、まあ相手の立場に立って考えれば理解できなくはない。
まあこれが反省の欠片もないような態度なら許すこともないのだが、殊勝な態度をとってくれるなら許すことも考えなくはない。
死にかけたのだからかなりきっちり反省してもらわないと困るけれど。
「だけど駄目だった、スライム相手にも戦うのが怖くて私は逃げ出してしまった。私を見捨てたPTメンバーたちに『味方を見捨てて逃げるなんてくず野郎が』なんて心の中でずっと怨嗟を唱えてたけど私もそれと同類になってしまった。だから私はもう死ぬしかないの……」
仕方がないやつだ、なんで若い奴はこうすぐ自己嫌悪に走って死に急ぐんかねと私はそう思って環の両方のほっぺをぎゅーっとつねって引き延ばし説得することにした。
「いたい……」
「あの日、最初にあったときなんで環さんは私のこと覗き見てたんですか?」
「それは家にこもってたら変な歌が聞こえてきたから……」
まずいこの方向だと説得が難しそうだ。私はすぐに話題を変えた。
「おほん、じゃあなんで私のご飯を食べたんですか?お腹がすいてたんですよね?さっきの話だとポイントもろくに残ってなさそうですし。」
環は私の言葉にこくりと頷く。この方向性なら説得できそうな気がしてきた。
「環さんは今死ぬって言ってましたけど、これからご飯を全く食べないで死にますか?ポイントがなければ私たちは食事だって用意できないんですからそうするしかないですよね?」
環は私の発言を聞いて震え始めた。でもここでやめることはできない、私は続けた。
「でも餓死するなんて大変ですよ、お腹がすいてすいて喉も乾いて苦しくて、もしかしたら土壇場でほかの人たちにご飯をねだってしまって死ねないかもしれない。
他人に迷惑をかけないで死ぬならダンジョンでモンスターに襲われて死ぬのが一番ですね、ちょうどいいですしここに置いて行ってモンスターに殺されますか?」
環はまた泣き始めて私の袖に手を伸ばしてきた。
「いやだ……おいてかないで……」
そして私はその手をぴしゃりと叩き落とす。環はびっくりした目でこちらを見てきてその後俯いた。
「そうだよね、そんなの都合がよすぎるよね……」
環はそう言ってきたけれどそうじゃない。私は環の顔を両手で無理やり正面を向かせて話しかけた。
「私は弱くてスライムだって倒すのは大変ですし、そのスライムですら3匹以上からは逃げることしかできません。ましてや二層に進んでさらにポイントを稼ぐことだってなかなか難しいんです。その日暮らしで手一杯なんです。
スライムなんかに怖気づいて逃げる子なんて養ってあげることも守ってあげることもできません……。」
環がこちらをじっと見ている。ちょっと恥ずかしいけどにっこり笑って最後にこういった。
「だけど一緒に戦ってくれるPTメンバーなら募集してます。……もし環さんに戦う気がまだあるなら……、一緒にPTを組みませんか?」
私の発言を聞いて環は泣きながら何度も頷いてきた。




