第20話 スライムからの逃走
「うぎゃああああああああ!」
絶叫をしながら私も遁走する。3匹でも倒せないのに4匹とか負けるに決まっている。
スライムがすごい勢いで追っかけてくる、普段は追っかけてこないのに!
「ひい、ひぃ、ひい」
走りすぎて口で呼吸をする。30秒も走ってはいないはずだが装備をつけながら全力疾走するのはかなり無理があったようだ。
しかしその甲斐あって4匹のスライムには少し距離をとれ、そしてなぜか立ち止まっている環にも追いつくことができた。
「ゼッー、ハー、ゼッー」
せっかく追いついても肩で息をするありさまで環には声をかけることはできない。
「ヒッグ、ごめんなさい、ごめんなさい……」
どうやら環は泣いているようだった。どのような理由でスライム相手に敵前逃亡したのかはわからないが泣いている女の子相手に尋問することは無い。
というか後ろから今もスライムが追っているのだ、言い争う暇なんてない。今すぐ走って逃げないといけないのだ。しかし呼吸が整わなくてとぎれとぎれにしか発言することができなかった。
「はやく……、にげないと……、たまきさん……」
ようやく話しかけられて環はこちらに気づいたようだ。そして泣きながら目の前を指しながらこう言った。
「ごめんなさい、私戦えなくて……、おねーちゃんだけでも逃げて……」
指を指されたほうを見てみる。さっきから環のほうばかり見て自分たちの行く先を見てなかった。
目の前にはスライムが2匹いた。なんだ2匹なら何とかなる、早く倒してここから逃げないと……。
そう思った矢先ここから早く逃げないといけない理由が後ろに追いついてきてしまった。
「スライムに囲まれた……。」
これは運が悪かったのだろう。迷宮がどのようにしてスライムを補充しているのかはわからないのだが多分それが私たちが通った後の道に適用されでもしたのだろう。
スライムがじりじりと広がって私たちを包囲する。困った、正直な話一人頭3匹ならなんとか倒せそうな気はするのだが、環が戦意喪失している状態だと4匹以上同時に相手にする必要がある。
ならば速攻しかない。
「えいっ」
私はナイフを振りかぶりスライムを一匹倒しそのままの勢いでもう一匹のスライムを蹴り飛ばす。成功率は低いのだがうまく倒せた。しかし幸運は続かなかったようだ。ナイフが床に刺さったため回収できない。諦めてそのまま放置し私は環に声をかけた。
「進行方向の2匹は倒しました!早くにげますよ!」
環が逃げない可能性もあると考えていたが、どうやら死にたくはないようだ。
環がのそのそと走り始める。スライムにぎりぎり追いつかれない程度だ。しかし走り始めた私はそれに追いつくのもやっとだった。嘘、私の体力低すぎ……!?
もう少し速く走れればスライムたちをまける気がするのだが現状出せるスピードだと追いかけっこをするのがやっとらしい。
マップも確認できてないためもしかしたら袋小路に追いつめられるかもしれない。さっきみたいに目の前からスライムが来て挟み撃ちにされてしまうかもしれない。
そんなことを考えてせめて盾だけでもいつでも出せるようにメニューを開いてしまったのが運の尽きだった。
「いてっ」
歩きメニューは事故の元だからやめよう。私はすっ転んでしまいスライムたちに追いつかれてしまった。
環がこっちを見ている。息は上がっているようだが、まだまだ余裕がありそうだ。つまり彼女だけなら走って逃げられそうだ。
「環!早く逃げなさい!私のことはいいから!」
正直環が逃げなければここまでひどいことにはならなかった気がするので恨み言もたくさんあるのだが…、多分今日こうならなく私はいつか死んでいたんだろうなとか、高々スライム4匹程度でこれなのだからとか色々と頭の中をよぎった結果彼女だけでも逃げてもらうセリフが口から自然と出ていた。
しかし環は一向に逃げる気配がないどころかむしろこっちに駆け寄って抱き着いてきた。
「私は誰かをおとりになんかしない!そんなんで生き延びてもうれしくなんかない!」
どうやら逃げたくないようだ。少女が抱きあってるのだから百合の間に挟まるスライムなど倒されればいいのだろうが現実はそうはいかずスライムたちは突進してきて私たちは別方向に突き飛ばされてしまった。
「……っ」
床をゴロゴロと転がってあちこちをぶつけてしまい声にならない悲鳴が出る。前検証したときスライムの突撃は5回も食らったらHPが0になる程度のダメージを食らっていたはずだった。つまり私たちはあと4回ほど攻撃を食らえば死ぬということだった。なんなら頭とかぶつけたらもっと減ってるかもしれない。
環のほうをみる。あっちにはスライムが3匹ほど向かって行ってる、そうえば彼女は防御をどれだけ積んでいるんだろう。あまりにも軽装だけれど彼女からそれを言われなかったため特に突っ込まなかった。もしかしたら環は今の瞬間スライムに攻撃を食らえば……死んでしまうのではないだろうか?




