第19話 危機
「おはよ」
環は今日のことが楽しみだったのかわからないけど朝の7時には家の前に来てた。
昨日朝の9時に集合って約束したのにちょっと早すぎやしませんかね。出迎えた私は寝間着で髪の毛はぼさぼさです。
とりあえず外で待たせるわけにもいかないので家に上げる。
「お邪魔します。」
環はそのまま椅子に手慣れたように座る。昨日の今日で馴染みすぎではないかな。
私は環の様子を横目で追いながら髪をとかす、別にあっちが早く来過ぎただけなのだけど準備をゆっくりする気にならなかった。
「今日は髪とかしながら歌とか歌わないんだ?」
すると後ろから爆弾発言が持ち込まれた。何言ってるんだ?
「ナニヲオッシャッテルノカ、マッタクワカリマセンワ」
おかしいなあ、私のご機嫌な歌は家にでもいないと聞けないはずなんですが……。
「昨日は歌を歌いながらとかしてたじゃない、あの下手な歌自作?」
すごい勢いで連続攻撃を決められる。ダンジョンに行く前にもうライフが0を下回りそうだ。
「ナンデシッテルンデスカ」
「そりゃ、窓からのぞいたから」
昨日は家に一日いたから窓を開けて換気をしていたのだがそれが裏目に出たらしい。にしてもこいつ自由奔放すぎないか、普通窓空いてるからって人の家の中見ないだろ。
それからもちょくちょくいろいろあったけれど準備は全部整った。元気づけにHPポーションを飲み私は振り返り環に告げる。
「じゃあ出発しますよ環さん。」
「今日のおねーちゃんは見ててつまんなかったわ。次に期待ね。」
なんかとんでもないことを言っている。もしかして昨日の仮説間違ってたんじゃないだろうか。そう私は思ってしまった。
ダンジョンに行く道すがら私と環はダンジョンでどういう風に連携するのかとかを話した。
あんなに歩くのが面倒だったダンジョンへの道も二人で話しながらだと楽しいからかあっという間だった。
そのせいで私はダンジョンに近づくほど様子がおかしくなっている環に気づくことはできなかった。
「今日の目標はスライム30匹ですかねえ」
ダンジョンの入り口の入り口まで来たとき私は木のほうを見ていた。さらばだ、愛した木よ。もうそこに戻ることはないだろう。
「そうだね…。」
なんだか歯切れが悪そうだがそんなこともあるだろう、と気にしないで私はダンジョンに入ってしまった。あの時顔を見ていればダンジョンに入らないで引き返すということもできただろう。
1日ぶりに入るダンジョンは相も変わらず薄暗かった。暗いから相手の表情はよくわからないけど少し緊張しているように見受けられた。
かくいう私も緊張してたのでしゃべっていてスライムに奇襲を受けるだなんて恥ずかしいことはできないので普通に周囲を警戒しながら私たちは進むことにした。
マップに従い今日は右のほうを中心に動くことにする。右側に2階への階段があるため、左のほうはポイント稼ぎに1階を探索している人が多いのだ。
ダンジョンの入り口付近はたくさんの転生者が通るのでスライムなんか見かけることはないので10分ほど毎回歩いて人の通りが少なそうな場所を中心に探索するのがスライム狩りのコツなのだ。
そうこう探索しているうちにスライムを発見した。しかし4匹だ。私には対処できない数だった、昨日までの話だが。
昨日まで数でつるんで弱い者いじめをして、我が物顔で迷宮を闊歩していたスライムども、けれど盛者必衰、彼らの時代はもう終わった。
4匹のスライムどもがプルプルと震えている。彼らは自分たちの未来を想像しているのだろう。その通り生き残れはしないのだ。
私は隣にいる仲間に声をかけてスライムにとびかかろうとした。
「行きますよ!環さんは左側の2匹をお願いします!」
声をかけるけど返事が返ってこない。返事がないから私は荒ぶる鷲のポーズのままとびかかることができない。というか後ろのほうで人が走る音がする。も、もしかして……?
いやな予感がしてゆっくり横を見る、環がいない。すごい勢いで後ろのほうを確認してみる、走り去ってる赤い髪の少女が見える。おいおいおい。
そーっと正面をみる。スライムが手ぐすね引いて私のほうを見ている。これは獲物を狩るときの目ですね。死んだわ、私。




