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並行世界のアガスティア  作者: 羊1世
Fate of the lost oath
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第44話 悪夢

 リゼの厚意に甘えメイド喫茶の3階にある部屋に泊めてもらった夜私は悪夢を見た。


 「おーい、ゆうきー」

 向こうで父親が手を振っている。

 どうやら公園で遊ぶ時間は終わりらしい。

 気づけば5時そろそろ帰らないとお母さんが怒る時間だろう。

 私は砂場で途中まで作りかけていた砂山をそのまま放置して父親のもとに駆け寄った。

 

「手を洗ってから帰ろうか」

 父親は苦笑して私を抱っこして手洗い場まで連れてってくれた。

 手を適当に洗うとちょうど買い物から家に帰宅途中の母と偶然出くわしたらしく私達は3人で家まで帰ることになった。

「今日はパパと遊んでもらって楽しかった?」

 両親の間に挟まれながら今日一日の感想を聞かれる、そんな子供じゃないんだから……。

「うん、今日はキャッチボールして後砂場でお山作ったんだよ!」

 父親も笑顔で肯定する。

 「すごくいい山だったよ、母さんにも見せてあげたかった」

 ここまで来て私は夢を見ていることに気づいた。懐かしい記憶、こんな幸せな時間が向こうでもあったことを思い出させてくれた。

 いつも思う、ここで終わればいいのにと。

 ため息をつきながら夢の続きに悪態をつく、いつも通りならこの後場面は父が死んだ後にうつるのだ。

 私が8歳の時父親は交通事故で亡くなってしまった。

 そこから先、生きていて楽しいといえる時間はほとんどなくなってしまった。

「ねえ、ゆうき。お母さんが悲しんでいるわ?なんでだろうね」

 事故の時父親と一緒にいた双子の姉が此方を見ているのか見ていないのかわからない視線で問いかけてくる。

「そんな風に見るなよ」

 私がそっぽを向くと姉はからからと笑いながら答えた。

 「だって右目が見えないんだからしょうがないじゃない?」

 そうだっけ?まあそういうならそうなんだろう。

 「そんなことより、ゆうき、お父さんに似てきたね?だからお母さんは悲しんでるのかも」

 父親が死んだ後お母さんはふさぎ込んでしまったが、それでも生活しなければいけなかったためパートで働いて生活費を稼いでくれていた。

 最初の2年くらいは少しづつ立ち直っている気がしていたのだが最近お母さんの私の見る目が少しおかしいことに気づいた。

「周りの人もよく言ってるよ、『お父さんに似てかっこいいわねー』とか」

 別に父親に似る分には構わない、けどそれでお母さんが悲しむのは私も悲しい。

 「じゃあ、髪の毛でものばそうか。そうすれば多少は変わるでしょ?」

 私は姉の言葉に頷いて髪の毛を伸ばすことにした。

 

 さらに二年がたち私は12歳になった。

「もう限界だよ、こんなところに居たくない」

 私は実家の空気にうんざりとしていた。姉は生気を感じさせない顔で私の言葉をただ聞くだけだった。

 いつもこの調子だから困る、なんでもいいから話し相手にでもなってくれれば気もまぎれるけど。

「母さんはずっと悲しそうな目でこちらを見てくるし、何も言ってこない。あの事故以降腫物を触るようにクラスでも扱われ続けるしもう嫌だよ」

「先生に相談したら全寮制の学校があるらしいんだ、そこに行って一度だれも何も知らない場所でやり直そうって言われたんだ」

 そこまで言うと姉は口を開いて乾いた声で答えた。

 「そう、お母さんのことは任せて?私が支えてあげるから。ゆうきは頑張ったから少し休んできなさい?」

 姉もそういってくれたことだし私はありがたく全寮制の学校に行った。


 そしてそこから3年がたち私はすっきりして母親と対面した。

「みて、お母さんもすっかり元気になったよ!」

「ごめんね、ゆうき。私しっかししてなくちゃいけなかったのにあなたにつらい思いさせちゃって」

 私は元気になった母を見てうれしくなった。

「僕のほうこそごめん、高校は家から通えるところに行くよ」

「親孝行な子だね!中学は楽しかった?」

……

……

……

「あ、やべ」

 姉がぼそっと言った。

 「私はまだ全寮制の中学校行ってないよ」

 そうつぶやくとお母さんは消えた。

 いつも見ている悪夢は一人で苦しんで最終的に母を見捨てるか全寮制の学校に行くか悩むというところで終わる。

 まだ中学なんか行ってないんだからその先なんて知らない。

 そもそも3人家族だったんだから双子の姉なんていない。特に今の私にそっくりな金髪で碧眼の姉なんか。

「お前、誰だよ……」

 夢のせいでろくに考えが纏まらないけど、それでもわかる、異質な何かに私は震えた声で問いかけた。

「私は私だよ。いつもの悪夢を見ちゃってるから少しでも和らげてあげようとしただけなんだよ?悪気なんてないよ?」

 あっさりと答えた女の瞳は何も映していないように見えた。恐怖のあまり私は絶叫しながらその場から逃げ出した。

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