第41話 おじいさんの喫茶店
一時はどうなることかと思ったが無事に私の分身はジェミーに組み伏せられたわけなのだが……いやはずだったのだが。
「きゃぁ」
ジェニーが間抜けな声を上げたと思ったらいつの間にかジェニーが抑えられているじゃないか。
しかも彼らの周りには水で出来た檻まで生成されていて……。
そして檻の外からそんな双子を私の分身は一瞥すると、あっかんべーと舌を出してまたもや走り出してしまった。
「アクアプリズンで自分ごと囲んだ後にジェニーと位置を入れ替えやがったんだ!」
「早く追いかけて! でも気を付けて! あのティア性能100倍、いや1000倍増しよ!」
双子は檻から出られないらしく私たちに追いかけるように言うことしかできなかった。
「円香早くいくよ!」
何時までもしゃがみこんだままの円香に一緒に追いかけようと促した。
「ごめん、さっき変な体勢で着地しちゃったから足くじいちゃって……」
どうやら私が一人で追いかけるしかないようだった。
幸いなことに私の分身はそのまま直進してくれていたようでここからでも提灯の明かりだけは視認できた。
と思ったのもつかの間急に立ち止まったと思ったら急に明かりが地面に落ちてそのまま動かなくなってしまった。
見失ってしまったか、と思ったがとりあえず光の位置まで進んでみるとそこには和風の街似つかわしくないレンガで組み立てられた洋風の建築物があった。
「ここは……なんだろう」
なんだか暗くてよく見えないのだが、懐かしい気がする。
気が付くと私は分身を探すのも忘れてその家の扉に手をかけて開けてしまった。
中は一般的な喫茶店というべきだろうか、4人ほど座れるカウンターと一つだけ置かれている丸テーブル、ボックス席の代わりだろうか。
全体的にこじんまりとしているが、奥のほうにステージ、とはいっても台が置いてあるだけだが、あれが喫茶店の面積の3分の1ほど占拠している。
初めてきたはずなのにどこか懐かしい気にさせる、これがノスタルジックな空間ってやつか!
そんなことを考えていたため私は背後から忍び寄る陰に気づかなかった!
「おやお嬢さん、急に消えてしまうからどうしたのかと思ったよ。」
私は体をびくっと震わせると恐る恐る後ろを振り向いた。
そこにはこの喫茶店のマスターにふさわしい格好をしたやさしそうな顔をしたおじいさんがいた。
「ごめんなさい、ここに私の顔そっくりの人が来たりとかしたんですよね? もしよかったらどこに行ったか教えてもらえると助かります」
おじいさんは不思議そうな顔をしながら私から1つ1つ丁寧に事の次第を聞いて納得してから私の分身の行方を教えてくれた。
「なるほどねえ、その分身の子なら多分消えてしまったよ。なんだが様子がおかしかったからねコーヒーの一杯でもご馳走してあげようと少し目を離した次の瞬間には消えてしまっていたからね」
分身はどうやらここで消息を絶ったようだ。けれど外に出るための出入り口は1つしかないらしいし、私も追いかけているときにここから出ていく人影は見えなかった。
消化不良だがもう手がかりもないし消えたってことにしちゃおう、そうしよう。
「そうだ、ティア。さっき入れたコーヒーを飲んでいきなさい。入れてしまったのに飲ませる相手がいなくて途方に暮れていたんだよ」
おじいさんに呼び捨てにされたが不思議と嫌な気はしない。やっぱ爺さんだからだろうか。
「今からここに3人ほど来るんですけど追加お願いできますか?」
おじいさんは『はっはっはっ!』と大きな声で笑いながら了承してくれた。




