第38話 孤島戦隊テンペスト
あの騒動から1週間ほど経っただろうか、私は円香とつかの間の平穏を謳歌していた。
「平和っていいな~」
わたあめもそれに答えるように『めえ~』となく。
窓を開けた窓枠にだらんともたれてお日様の光を浴びて私は庭で砂浴びをしているわたあめを眺めている。
どうせダンジョンに行ってもろくなことにはならないのだ、どうせ焼け焦げて稼ぎようもないんだからね!
「いや、3層ならもう元通りよ?」
円香が後ろからメニューをいじりながら私のモノローグに答えた、やだ私達以心伝心?
「さっきから考えてること全部声に出てるわよ! ちょっと静かにしなさい!」
少し語気を荒げて円香が答える、え?じゃあさっきのとか……。
「『うおおおおお!今私は光合成してる!』とか全部言ってましたわよ! 脳死で考えるのやめなさい!」
……。
こうして私は考えるのをやめた。
「考えてるのをそのまま口に出すのをやめなさい!」
ぐう。
「そんなことより、カヌスさんからメッセージ届いたわよ」
こほんと咳ばらいをして円香が本題を切り出す。
「いやだー、メイドさんなんかになりたくないよー」
私は声だけで抗議を上げる、体はそのままだ。
「いや、メッセージを見る限りティアは見回りをやるっぽいわよ?」
え?がばっと体を起こして円香のほうを向く。
「どうやらカヌスさんもティアに接客ができるとは思ってないようね」
かぬすさーん!私はカヌスさんに向かって手を合わせて拝みまくった、神はここにいたんですね!
「あ、でも双子のどっちかと町の巡回だって」
ぎゃああああああああああ!神は死んだ!
そしてメッセージが来たその日の夜『折角なので一緒に見回らないか?』というジェミーさんからのメッセージに泣く泣く了承して私は夜の街に繰り出すことになった。
「東地区の夜の街はどう?南とはまた違った趣があるでしょ?」
隣を歩くジェミーは自分のことのように東地区の街並みの自慢をする。
東地区は和風な建築がおおい地区で夜の明かりも街灯の代わりに提灯が並んでいた。
南地区と違って色とりどりの柔らかな光が石畳みが敷かれた大通りを綺麗に照らしている。
「あんまり口をあんぐり開けてないで、ほら提灯もって! じゃあいくぞ~!」
初めてみた光景に案山子になっていた私にしびれを切らしたジェミーは背中を押して警邏任務を始めたのでした。
起きる事件と言っても酔っ払いがけんかするとかその程度らしいし今日は夜の散歩を楽しむつもりでやってもらっていいらしいし、ちょっと楽しみかも。
「おいこら警邏隊! 僕たちと戦いたまえ!」
それは私が手持ち提灯に好きな文字を書いてもらうお店に手持ち提灯を渡した瞬間に事件が起こった。
お店から顔をひょこっとだして外の通りを見てみると提灯に負けずに色とりどりな全身タイツの変態が5人、いやあれは戦隊スーツか!?
「君たちの怠慢にはもう飽き飽きだ! これからは東地区の平和は僕ら孤島戦隊テンペストがまもらせてもらおう!」
さしもののジェミーもびっくりしているようでフリーズしている。
あ、ちがう。すごい勢いでメニューからメッセージを飛ばしている。
めったに起こらないもめ事が発生したらしい。
めんどくさいのでそのまま顔を引っ込めて逃げようとしたがジェミーに見つかってしまった。
「ティア! ちょっとどっかで一人調達してきてよ! 姉さんと円香を呼んだからあと1人でこっちも5人だ!」
人数で張り合おうとせんでいいから……、適当に返事して探しに行くふりでもするか~、どっかに私の代わりに相手してくれる人、1人落ちてないかな?
「まっかせて~!」
「お、ティアなんだかやる気満々だね! 助かるよ!」
店の外がなんだかおかしい、一体ジェミーは誰と話してるんだ?
もう一度外をおそるおそる見てみるとそこには私がいた。
「ぎゃああああああああああああああああああああ!」




