第31話 桃が3つ
「そんなに腹減ってるんだったらとっておきがあるんだ!デザートだから楽しみにしててくれ!」
悲鳴をよそにリゼが文句を言った理由を唐揚げが食べたかったらだと勘違いしたカズさんが結構自信ありげに叫ぶ、と魔王が『あれ食べるんか?まじか』と不安そうにつぶやく。
いったい何喰わされるんだ?リゼと私は目を合わせてお互いに食事をとる、今すぐおなか一杯にならないといけなくなったのだ。
「みんな食い終わったかー?」
カズがふざけて中央に立つと、円香が上から助けを求める。
悲しいことにずっとジェニーに高い高いされていたのだ。
しかしそれを無視してメニューからカズさんは何かを取り出し、頭上に掲げた!
「なんと俺らデザートを手に入れたのです!じゃじゃーん、でっかい桃!」
……それは私たちが川から持ってきたものにそっくりな桃だった。
慌てて私も桃を出してみる、桃はなくなったわけでもなくやっぱり私の前に出てきた。
「君達……もどうやらそれ手に入れたみたいだね」
すると困った声でカヌスさんが桃を取り出して、私たちのシートには桃が3つ並ぶことになった。
「とりあえず食うか!」
カズさんが大きな桃に斧を振りかざして真っ二つにしようとする、このままではまだ見ぬ桃太郎が真っ二つになる可能性が!
「ちょっと待て、落ち着け」
魔王が額を押さえながら『さっきは止めなかったじゃん!』とぶーたれるカズさんを止める。魔王も止めたはいいがどうやって食べるのを止めるのか考えあぐねているようだ。
「カズさん、それは3層の異変の貴重な資料になるから少し食べるのは待ってもらっていいかな?」
カヌスさんが後ろからフォローを入れた。
カズさんもそういうことならと斧をとりあえずはしまってくれた。
「とりあえず午後の探索に出かけよう、今度は湖の女神のいるところに行きたいから、一度行ったことのある紅蓮団の3人に案内を頼みたいな。その後セーフティーエリアと言われている場所に向かってそこにある石碑に触れてダンジョンの外に出たら解散だ」
食事を全然とってない双子がブーイングをするがカヌスさんは無視した。
私たちは準備を整え、再び探索に出かけることにした。
湖の女神のいる場所を目指し、紅蓮団の3人が先導する。
「敵だ、みんな構えろ」
ビュンビュンキンキンキンキン!
途中、モンスターが現れたが、カヌスさんが片手剣で私がオオカミの陰をとらえる間もなく対処していた。剣で撃ち合ってるわけでもないのに音もした。
「ひょげー、カヌスさんめっちゃつよじゃん」
円香が何語かわからない言語でつぶやく。
腕っぷし1つで北地区をまとめただけあるわ、魔王とか剣を振り上げたままぽかんとしている。
「だんちょーかっこいいー!」「いえーい!」
双子は手伝いもせずこぶしを振り上げただただカヌスさんを応援しているだけだった、私と円香はもちろん戦力外でリゼは後衛なので実質カヌスさんのワンオペPTになっている、過労死しないで欲しいね。
私たちが進むにつれて、景色は次第に変わっていった。木々が密集し、道が狭くなっていく。
しばらくすると、遠くから水の音が聞こえてきた。どうやら湖が近いらしい。
「湖の女神がいる場所って、確かこの辺りだったよな?」と、魔王がマップを見ながら尋ねる。
「ここらへんであるんだけど……」
ヒロさんもマップを確認しているのだがどうやら前回と泉の場所でも違うのか行くために手順でもあるのか、一向にたどり着けない。
「ふっふっふ、こうなったら俺の必殺の占い見せてあげるぜ」
途方に暮れた紅蓮団の希望の星カズさんが斧を振り上げて魔王にダイレクトアタックをした!
「うわああああ!なにすんだ!」
魔王は足元を滑らせ間一髪助かったようだがそのせいで斧がどっかに飛んで行った。
「必殺斧ブン降し占い、りおっちの頭が割れなかったら大凶だ」
「そんな危ない占いやめちまえ!」
魔王がぶちぎれてカズさんを捲し立てていると遠くからざっぱーんという音が聞こえてきた。
「案外カズのやったことも間違いじゃないようだね……」
ヒロさんが少し疲れた顔でつぶやいた。




