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放課後、スイカ。

「へいマイフレンド! いま暇かい!」


 放課後、ひとり音楽室でギターを弾いている私、今宮今日子いまみやきょうこのもとに、生徒会長明日葉未来(あしたばみらい)が黒いショートヘアーを揺らしながら、音楽室のドアを勢いよく開けやってきた。


「暇じゃない」


 私は未来を見ながら即答する。


「…………」

「…………」


 私と未来は無言で見つめあう。だがそれも一瞬のことで、未来はスッと下がりドアをゆっくりと閉めながら音楽室から出ていった。よし、ギター弾こ──。


「へいマイフレンド! いま暇かい!」


 ──うと思ったのも束の間、先ほどとまったく同じセリフを言いながら、未来は再び音楽室のドアを勢いよく開けて姿をあらわした。


「……暇じゃない」


 私は未来を見ながら、少し間をおき先ほどとまったく同じセリフを言い放つ。


「…………」

「…………」


 私と未来は再び無言で見つめあう。そして先ほどと同じく、未来はスッと下がりドアをゆっくりと閉めながら音楽室から出ていった。……これはあれだな。


「へいマイフレン──」

「わかったわかった。私の負けだよ。暇だよひーま」


 私はやれやれと呆れながら、音楽室のドアを勢いよく開け三度目の登場をはたそうとした未来にそう告げる。無限ループに持ち込もうとするな。


「いえ〜い。私の勝ち〜。素直じゃないんだから〜。このこ──あいだだだだだ! ごめんごめんって!」


 私はニヤニヤしながら近づいてきた未来の頭を右手でわしづかみにして、ギリギリと力を込める。


「よろしい。──で、どうした? なによう?」

「お腹がすきました!」

「…………」

「お腹が──いだだだだだだ!」


 私は再び右手に力を込め、今日二度目の無限ループに持ち込もうとした未来の頭をギリギリと握る。


「お腹がすいたから買い物行こうって話し?」

「イエス! 大正解! さすがマイフレンド! 以心伝心!」


 未来はグッと右手の親指を立ててその通りと示す。

 私は未来の頭から右手を離し、私に握られ乱れた髪を撫でて整えてやる。


「よし! それじゃあしゅっぱーつ!」

「はいよ」


 元気よく歩きだした未来を先頭に、私たちは音楽室をあとにした。


◇◇◇◇◇◇◇


「なぜスイカ?」

「それはそこにスイカがあったからさお嬢さん」


 私と未来は音楽室を出たあと、学校の近くにあるコンビニとパン屋とスーパーを回った。

 そして今は放課後の買い食い時にいつも利用している公園のベンチに座り、お互いの戦利品を見せあっている。

 

 たくさんの選択肢がある中で、我らが生徒会長様はスーパーで1/8サイズにカットされたスイカを買われた。まじかこいつ。


「そういう今日子ちゃんはアイスですかぁ〜? いやはやまったく、これだから素人は困りますなぁ〜」

「なんの素人だなんの」


 未来は私のアイスを見てやれやれと肩をすくめてみせる。

 いやおかしいのは私じゃなくて未来の方だぞ。

 

 どの世界に放課後スーパーでスイカを買う女子高生がいる。

 しかも一口大にカットされたやつじゃなくて皮付きのやつを。


「まあ今日子ちゃんのアイスはあとで一口いただくとして」

「いただくんかい。まああげるけども」

「ありがと。──それじゃあ、いただきまーす。あんむ」


 未来は皮付きのスイカにかじりつく。

 シャリっという涼やかで心地のよい音がした。


「お〜いひ〜! やっぱり夏はスイカに限る! 去年は食べてないけど!」

「食べてないんかい。いやでも、私も食べてないなスイカ。去年どころかここ数年食べた記憶がない」

「それはもったいない! 食べたまえ食べたまえ! このスイカを食べたまえよお嬢さん!」


 未来は私の口元にスイカをずいっと寄せてきた。


「どうも。──あん。……うん、うまい」

「でっしょ〜! 実はこのスイカ、私が育てました!」

「嘘をつけ」

「いてっ」


 私はふふんと鼻を鳴らして自信満々に嘘をつく未来の頭にチョップをお見舞いした。


「ただやっぱりタネがな。タネがなきゃもっと食べやすいんだけど」

「そうなんだよね〜。スイカの一番のネックはタネが身のあちこちにあることなんだよね〜。ほい〜タネ〜」


 未来はスイカのタネを口から出し、スイカを包んでいたラップに置いた。

 私はその横でモナカアイスにかじりつく。うん、うまい。


「タネタネタネタネタネタネタネタネ……よし。じゃじゃーん」

「ん……? ああ、なに、タネ全部先にとったのね」

「その通り! これで食べやすい! あーーん! んむんむ……ん!? …………」


 タネを取り、喜び勇んでスイカにかじりついた未来だったが、すぐにシュンとした表情になった。

 

「ん、どした?」

「タネ……」


 未来は口からスイカのタネを取りだした。

 まあ、表面のだけとっても中にはあるわな。


「ほら、アイス」

「ん……ありがと。──おいし! モナカアイスおいし! タネもないし! 誰だ! アイスを買うやつは素人だなんて言ったのは!」

「おまえだ」

「あう」


 私は未来の頭に今日二度目のチョップをお見舞いした。


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