表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おにたちの記憶

おにたちの記憶 桃編

作者: さるた


その衝撃的な話しを聞いたのは一ヶ月前だった。


おにたちは、高い呪力と頭脳、力を持った角のある鬼族、高い呪力と頭脳だが角のない鬼人族がいて、またの名を金龍族と呼ばれていた。その中でも神と呼ばれるものたちは角があるか龍になるものである。

金龍族の主は自分の中の金龍を呼び出し、皆の前でその話を聞いた。


。。。神は地球クニタマを一時放棄する。鬼人以外の金龍族、おにどもの残ることは叶わぬ。磐船に乗り込む前に体から魂を開放せよ


耳を疑うような内容だった。一族の主が一族がバラバラになることを了承したのだ。おにどもの力は治水工事や鍛冶仕事に必要不可欠である。今ではおにの姿より人の姿をした者が増えたが、おにが人の姿に近づくと力も能力もおにとは比べ物にならないほど落ちるため、やはりおにの力は必要だった。けれども、主は決定に異を唱えることなく、少し目を閉じた後、ウラノスケの父に一言だけ何かを言っただけだった。それを聞いたウラノスケの父は頷くと、皆に


「さあ、これは決定事項だ!各自、残りの地球クニタマでの時間を愉しんでほしい。解散」


と、声を掛けた。

おにたちは座敷から立ち上がると各々の用事がある方へと足を向け去っていった。ただ、ウラノスケ、クロノスケ、キジのカラス、犬飼の三郎、大原の猿太夫、桃太郎の体は動かずにピタリと止まったままだった。


。。。主様は、俺らに用向きがあるらしい


呪いが掛かり、立ち上がることはできない。前に座る主様の目は閉じられたままだ。


「この度の件で君たちには役割を果たしてもらう。ウラノスケ、クロノスケ。体と魂を切り離しミトロカエシを済ませ、皆の魂を磐船に送るべし。体は心の臓を確実に貫き停止させること。我らおにの力は只者ではない。魂が無くなっても体は動く、確実に果たせ。」


主は目を開き、ウラノスケとクロノスケを見て告げた。次に桃太郎の方へ主は目を向ける。


「桃太郎は、ミトロカエシが城外へ及ばないよう防御壁を構えるべし。キジのカラス、犬飼の三郎とともに、城内のおにが果てた事を確認するのだ。その後、桃太郎はウラノスケとクロノスケの体を封印し、ミコトに報告すべし。大原の猿太夫、一族が作った刀を必ず回収し持ち去るべし。おにたちが持つ妖刀は人には力が強すぎる」


「承知」


一斉に声が上がるとすっと体が軽くなり、皆、立ち上がった。ウラノスケとクロノスは、大原の刀鍛冶の猿太夫に声を掛けていた。桃太郎はそれをぼんやりと眺めた。一夜の内に全て無くなるということなのだ。共に育った仲間も環境もひっくり返る。地球クニタマに残るもの、磐船で帰るものにわかれるという。思ってもみなかったことに、胸が痛くなる。


「桃太郎殿、当日はミトロカエシの補佐をいたします」

ふいに声をかけられそちらの方へ目を向けた。小柄で小さな顔のキジのカラスがそばに来て言った。いつも黒子の姿で顔を隠しているが、珍しく布を頭の上に上げている。大きなよく光る目がこちらを向いている。

「桃太郎殿、もちろん私も共に補佐します」

大きな声で犬飼の三郎が足音をさせながら近づいてきた。桃太郎は苦笑いををすると、涼し気な目を細め

「犬飼の。。。声がデカいわ」

と、返した。3人はふっと笑った。残される者たちの心の中で思うことは、皆同じである。


。。。なぜ


ウラノスケとクロノスケの方に、また後で、と手を振ると部屋を後にした。


邸に帰ると、父のミコトが訪ねてきていた。縁側で座っている父のそばで、戻りました。とあぐらをかき頭を下げると、父は桃太郎の肩に手を置いた。その手を伝って父の感情が流れてくる。同じように、自分の感情が父に流れているのがわかる。父は、はぁー、と長い息を吐くとハラハラと涙を流した。


。。。どうすることもできなんだ。すまない、太郎よ。せめて、最後は和歌を贈って見送っておくれ。


頭に響く父の声で胸に詰まる。


。。。何が、あったというのですか


桃太郎が尋ねると、頭を振りながら


。。。喰ろうてた。牛を喰ろうてたと。。。世界へ散った和の者たちが寒さのために食べ物がなく、牛を食べることを赦したそうだ。その結果、彼らは最後には人を喰ろうたと。。。


右手で目頭を抑え苦しそうに息を吐いた。


。。。ならば、この日本にいる仲間は関係ないではありませぬか!!


眼尻を吊り上げ、父に挑むような強い思念になったのを見て、父ミコトは


。。。わかっておろう?我らは一体。そして、神託も下った。これから先、地球クニタマの次元を落とすため、再度、次元を上げるまでは、彼らは異形のものとして人の目に映るのだ。さすれば、要らぬ戦も起こる。一度離れることも仕方なきこと


そう言って、桃太郎の頭に手をやると、自分の膝にストンと倒す。


「もう、子供ではござらぬ」


息子の頭を撫でながら、そうかそうか、とウンウンと頷く。


「。。。昔はこうやって素直に泣いたものだが」


と、柔らかな声が耳に届き、突如、桃太郎の目から大きな涙の粒がいくつもこぼれ落ちてきた。それはまるで、父ミコトが呪いをかけたようだった。


「。。。涙を流したほうが楽になるときもある」


父に頭を撫でられながら、涙で眩しく輝く夕暮れを見ていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ