プロローグ
ストーリー評価や文章の構成読みやすさなどへの辛口レビューをいただけたら嬉しいです。
ワァァァァァァ
耳が痛くなるほどの歓声で競技場が包まれる。
青年はその完成を受けながら微笑み、手を振りながら競技場へと入場する。
「チャレンジャァァァァァァリオォォォン。
今大会で一度も攻撃魔法を使用することなく、さらに的確な防御魔法で相棒に一度も相手の攻撃を当てさせなかった男!歴代でもダメージなくマスター争奪戦まで到達したものはいない防御魔法の天才!果たしてマスター相手に防御魔法のみでいられるのか!」
青年は紹介を聞いて軽く周囲へ会釈すると正面を見据える。
彼の入場してきた反対側の通路から一人の中年男性と思われる人物が現れる。
「モンスターマスタァァァァァリュウ!8度のマスター防衛を成功させた唯一のテイマー!彼の操るドラゴンの鱗はどんな攻撃もはじき返し、その爪でどんな鎧も貫いてしまう!9度目の防衛をかけて堂々の出陣だ!」
モンスターマスターリュウと呼ばれた中年男性は堂々と胸を張り競技場へ向かって進む。
両者が競技場へ足を踏み入れると同時に彼らの足元に青色の紋章が浮かび上がる。
「それでは彼らの相棒のモンスターたちにも登場していただこう!」
ワァァァァァァ
歓声に包まれる競技場。
彼らの足元に現れた紋章はそのまま青色の台座となって彼らを空中へと浮かべる。
それと同時に紋章のあった位置にモンスターが一匹ずつ現れる。
「チャレンジャーの相棒はコイツだ!ホワイトォォウルフゥゥゥゥ!その素早い動きで対戦相手を翻弄し、Cランクとは思えないほどの攻撃力でもって圧倒してきた!有利になった時にのみ使用できる遠吠えにより自身の攻撃力を上昇させる狼族の得意とする魔法により、これまで貫けなかった守りはない!」
ホワイトウルフと呼ばれたモンスターは紹介が終わると遠吠えを挙げて観戦者に軽くサービスを行う。
「立ち向かうはチャンピオンの相棒!レッドォォドラゴォォォォン!その硬い鱗による防御はどんな攻撃もはじき返しかぎづめから繰り出される一撃で貫けなかった防御はない!さらに!これまで1度しか見せたことがないチャンピオンのドラゴンにしか出せない威力のブレスにより不利なバトルも一撃で吹き飛ばしてきた!今日はブレスを見ることが出来るのか!」
レッドドラゴンもホワイトウルフのファンサービスに負けじと炎魔法を飛ばし、空中に大きな爆発を起こす。
「どちらのモンスターもやる気ですね。それでは今大会最終戦。チャレンジャーとモンスターマスターによるチャンピオン争奪戦」
2人の人間と2匹のモンスターの表情が真剣なものになる。
「スタートです!」
その合図とともにリオンのホワイトウルフがドラゴンに向かって一直線に駆ける。
ドラゴンは余裕の表情でホワイトウルフを見据え、堂々とその到着を待つ。
「おっと!開始と同時にその素早さで先制攻撃を仕掛ける!」
先制攻撃を仕掛けに行くとみられたホワイトウルフは、ドラゴンの手前数メートルで右に旋回した。ドラゴンは軽く驚きつつも、余裕の表情でホワイトウルフの向かうであろう背後に注意する。
旋回から間髪入れず、ホワイトウルフはドラゴンのしっぽの付け根に向かってその鋭い爪でもって攻撃を仕掛ける。
カキンッ
ホワイトウルフの先制攻撃空しく、ドラゴンの堅牢な鱗でもってホワイトウルフの攻撃ははじかれてしまう。さらには、ドラゴンのしっぽでカウンターを食らって競技場の壁に激突する。
ガゥゥゥゥゥ
その程度かと問うようにドラゴンが唸り声を上げる。
土煙の中から姿を現したホワイトウルフの前方には少しひび割れたシールドが展開されていた。
「俺の防御魔法をも貫くその攻撃力。やはりチャンピオンに勝つのは一筋縄ではいかないな。
補助魔法を使う!全力で行くぞ!」
その声と同時にホワイトウルフが地面を蹴り飛ばす。
「リオン選手。今大会初の防御魔法以外の魔法を展開しました。彼の戦い方は相棒のモンスターを強化して戦う補助タイプなのでしょう。果たしてその補助魔法で鉄壁の守りを貫くことが出来るのか!」
補助魔法を受けたホワイトウルフは先ほどの数倍の速度でドラゴンの周囲を駆け回り何度もその硬い鱗への攻撃を行う。
「とりあえず様子見だ。当たりそうなら攻撃してみろ。どうせあのオオカミ程度ではお前の鱗に傷すらつけることはできないようだからな」
ホワイトウルフはドラゴンの周りを数メートルの猶予をもって素早く移動し、ドラゴンの意識の外から何度も攻撃を仕掛ける。
カンッ
カンッ
カンッ
カンッ
何度もホワイトウルフの爪がドラゴンの鎧にはじかれる音が響き渡る。
ドラゴン側も何度も攻撃を浴びせようとして入るが、ホワイトウルフのあまりにもなスピードに翻弄され、一度も攻撃を当てることができない。
しかし、ホワイトウルフ側の攻撃もドラゴンに全く効いていない様子で、ドラゴンの奇麗な鱗は対戦開始時と全く同じ輝きを保ったままだ。
それでもホワイトウルフは攻撃の手を止めずに何度も何度も攻撃を行う。
「ホワイトウルフの攻撃は効いていないように見えますが、これも作戦なのでしょうか!ドラゴン側も攻撃できていないようですが、彼には必殺技が残っているためその準備と相手のスタミナ切れを狙っているようです!」
カンッ
カンッ
カンッ
カンッ
バキッ
ホワイトウルフの斬撃がドラゴンの鱗を砕いた。
「これまで、傷一つ付けることのできなかった攻撃ですが、何が起きたのでしょう。誰も貫けないと思われていた鱗に傷どころか大きな穴が開いている!リオン選手が魔法を放つような動作は見られなかった見られなかった!ホワイトウルフの攻撃力が増加している!?」
アゥォォォォォォォォォォォォン
ドラゴンが怯み少し後ずさりするなか、ホワイトウルフは遠吠えを上げる。
すると、ホワイトウルフの周囲に赤いオーラが現れホワイトウルフを纏った。
「おっと!ここでウルフ系統の専用魔法、遠吠えだ!相手が弱気な時しか使用できないが、自らの攻撃力を上げてくれるという自己強化魔法!さっきの一撃でドラゴンが怯んだことにより使用条件を満たしていた!」
「いくぞ!ただただ様子見していただけではないというところを見せてやれ!」
そのリュウの一言により、ドラゴンの口付近にいつの間にか漂い始めていた赤色の粒をドラゴンが取り込む。そして、力をためるように、増幅するようにドラゴンが口に魔力を込め始めた。
「これはぁぁ!?レッドドラゴンの必殺技!ドラゴンブレスだ!彼のドラゴンのブレスは通常のドラゴンのブレスとは違い、彼の炎魔力を使い強化してから打つため、通常のドラゴンのブレスの何百倍もの威力を放つことができる!これまでのチャンピオン戦でも1度しか出したことのない正真正銘の最終奥義!これを食らって立てる者は存在するのか!」
過去1度しか使用されておらず、使い手も彼しか存在しないような強大な攻撃を生で見ることが出来る観客たちは一斉に湧き上がる。
「持久戦にしてしまったことで炎のオーブをドラゴンの周囲に集める時間を与えてしまっていた!ブレス準備中のリュウ選手のドラゴンはリュウ選手の魔法と周囲の膨大な魔力により普段の数十倍にもなる防御力に強化されており手を出すことができなくなっている!さぁどうするリオン選手!このまま圧倒的な威力のブレスを前に倒れるしかないか!」
その体を何十もの魔力の枠でおおわれているドラゴンは、口の輝きをどんどん増幅させていき、毎秒ブレスの威力が上がっているのは誰が見ても明らかだ。
「少し下がっていろ!大きな衝撃が来るから防御魔法で持ちこたえてくれ!」
ホワイトウルフはリオンの指示通り、自らの魔力を防御魔法に集中させ、先ほどの尻尾攻撃の時に展開した魔法の数倍もの硬さを誇る防御魔法を組み立てていた。
「ホワイトウルフも後ずさる!もう本当に食らうしかないのか!」
実況のその言葉と同時にレッドドラゴンはまばゆいほどに紅く輝く口を大きく開く。
そして、強力なブレスが放たれると誰もが確信した瞬間。
ドォォォォォォォォォォン
レッドドラゴンが爆発した。
正確にはドラゴンの口が爆ぜたのだが、それを認識するよりも早く競技場と観客席までもが真紅の光でおおわれる。
「…………………………………………………」
観客も実況もそして、チャンピオンさえも呆然とするその中。リオンだけは微笑んでいた。
「競技場に立っているのはレッドドラゴンではなくホワイトウルフの方だ!」
ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
割れんばかりの歓声。最後に競技場の上に立っていたホワイトウルフはぼろぼろな身体に鞭打って立ち上がり勝利の雄たけびを上げる。
アゥォォォォォォォォォォォォン
「モンスターマスター争奪戦!勝者はリオン選手とその相棒ホワイトウルフ!
絶体絶命かと思われたその瞬間を制し、見事勝利を収めて見せた!絶対王者リュウの9冠を止めた最強のチャレンジャー!今日、この時をもって彼がチャンピオンだぁぁぁ!」
この日、かつて最強と言われたドラゴンテイマーのリュウを打ち破り新しく最強の座に座ることになったリオン。
次の日の新聞の一面には、チャンピオンベルトを持った新チャンピオンリオンとそのリオンと握手をする元チャンピオンリュウの姿が大きく写っていた。
それから10年後、彼は前人未到のマスター10連防衛成功という偉業を成し遂げ、本当の伝説になるのだった。