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「本当にあった怖い話」シリーズ

「リスナーX」

作者: 詩月 七夜

 ある地方放送局の関係者が話してくれた話。


 その関係者…仮にJとしよう…は、当時、ラジオ番組の担当を任されていた。

 その番組は、ご当地出身のある芸能人がメインパーソナリティーとなり、同じご当地出身者である芸能人やお笑い芸人をゲストとして招き、様々な企画コーナーを放送していくトーク番組だった。

 その企画コーナーの中にはリスナーからのお便りを読み上げ、様々な情報やお笑いネタなどを紹介するものもあり、ローカル番組ながら、そこそこの盛り上がりを見せていたという


 そんな番組の中において、Jはその読者のお便りコーナーで読み上げるリスナーからのハガキをチョイスする役目も担っていた。

 そんな中で、ツボを押さえた投稿をする「常連」と呼ばれる一部のメンツもおり、それぞれの個性を生かし、番組を盛り上げるのに一役買っていた。

 Jも「おっ、〇〇さんからまた面白いネタがきた」という風に、ハガキのチョイスを楽しんでいた。

 反面、実はこれがなかなかコツが必要で、面白いからといって常連のハガキばかり取り上げていっては、リスナーからも反感を買い、飽きられたりする。

 なので、中堅どころや新規リスナーのハガキも、バランスよく紹介しなければならない。

 ともすれば、番組のカラーを塗り替えてしまうこともあるため、そこをわきまえて慎重にチョイスするセンスが必要だった。


 そんな投稿者の中に、一人だけ不可思議なリスナーがいた。


 ラジオネーム「リスナーX」と名乗るその人物から送られてくるハガキは、決まってこう始まった。


「こんばんは。今夜もいい夜ですね」


 そして、取り留めない自分の近況報告が始まるのだ。

 朝は何時に起きた、とか。

 昼は何を食べた、とか。

 夜は夕食に何を作った、とか。

 実に平凡で、面白味もオチもない話題。

 これが延々と続くのである。

 波乱万丈な展開が少しでもあればお笑いに変え、番組のエッセンスになることも望めるのだろうが、残念ながらそんな要素が全くない。

 なので、自然とボツハガキとなることになるわけだ。


 しかし「リスナーX」からの投稿は尽きることはなかった。


 何度ボツになっても、書き口を変えようともせず、延々と自分の日常をつづり、投稿する。

 正直、Jは「またか」とうんざりしつつ、ボツハガキに回していた。

 そうして、投稿が100回を数える頃である。

 偶然、ボツハガキを見ていたJの上司が「リスナーX」のハガキに気付き、興味を持った。

 そして、何を思ったのか、それを番組内で読み上げさせるよう指示してきたのだ。

 さすがに呆れたJは、上司に考え直すように言ったが、その上司はどうやらハガキを読み上げることで思いきりスベることで笑いを取ろうと目論んでいるようだった。

 まったく気は乗らなかったが、Jは仕方なく読み上げるハガキに「リスナーX」の分も加えたという。


 そうして、番組が始まった。


 いつものように進行し、パーソナリティーがリスナーからのハガキを読み上げるコーナーに差し掛かった時だ。

 面白おかしい内容のハガキが続く中、ついに「リスナーX」のハガキが読み上げられた。

 言うまでもなく、結果は惨憺(さんたん)たるものだった。

 「リスナーX」の何の面白味もない日常がつづられたそのハガキは、オチもなく、読んで終わった後はメインパーソナリティーもゲストも困り顔をしつつ、無難なコメントで幕が閉じた。

 結局、上司の目論見は完全に的が外れ、何とも言えない空気が場を支配した。

 とはいえ、番組はその後もつつがなく進行し、エンディングを迎えた。


「お疲れさまでした」


 Jがゲストを労って見送り、続いてメインパーソナリティーにも声を掛けた。

 すると、メインパーソナリティーは周囲を気にするように見回すと、Jにこっそり言った。


「Jちゃん、()()()()()だけどさ…」


 メインパーソナリティーが眉をひそめるその表情に、Jは「そらきた」と思った。

 あんな面白味のないハガキを選んだことに対するクレームだろう。

 そして内心、ろくでもないことを企てた上司に毒づいた。


「ああ、アレですよね。すんません、こちらの手違いで…」


 さっさと謝って始末をつけようと思ったJ。

 が、メインパーソナリティーは思いもよらないことを言った。


「あのリスナー、どんな奴かな?」


 Jは返答に困った。

 当たり前だが、Jは「リスナーX」のことは会ったこともないから何も知らない。

 彼が知っているのは、ハガキに書かれた情報のみだ。

 それを告げると、メインパーソナリティーは、


「…そうか。じゃあ、住所だけでも教えてくれ」


「それならハガキに書いてありますけど…どうするんですか?」


「…ここだけの話なんだけどさ…」


 その後、メインパーソナリティーは驚くことを打ち明けた。

 何と、彼が読み上げた「リスナーX」のハガキの中身…何気ない日常は、メインパーソナリティーが「先週の休日に過ごした内容と見事に合致」していたというのである。

 Jは息を飲んだ。


「それって…」


「ストーカーかも知れない。けど、確証がないから、警察に届け出もできない」


「心当たりは?」


「それがまったく無いんだよ。自分で言うのもアレだけど、俺、そんな売れっ子じゃないし」


 そう言いながら、苦笑いするメインパーソナリティー。

 だが、Jは笑えなかった。

 「リスナーX」のハガキが投稿されたのは、今回が最初ではないのだから。


 その後。

 Jが聞いたところ、メインパーソナリティーがハガキの住所に赴いたが、そこは「存在しない住所」だったらしい。

 そしてそれ以来、「リスナーX」の投稿はピタリと止んだという。


 「リスナーX」とは何者だったのか?

 何故、メインパーソナリティーの日常を知っていて、それを投稿していたのか?

 本当にメインパーソナリティーのストーカーだったのか?

 それとも…何かを警告するものだったのか?


 全ては謎のままである。

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― 新着の感想 ―
[一言]  本当にあった怖い話、という雰囲気でした。あからさまなホラー落ちがない分、ありえるかもしれないといった展開で、却ってぞっとしますね。  なるほど、こういう演出もあるのですね。
[良い点] こわっ! [一言] おもしろこわかったです。
[良い点] 別に幽霊や怪物が出てくる訳でもないのに、凄く怖い ((( ;゜Д゜))) リスナーX、一体何者だったんだ?
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