二人の現実
平日の昼間。普通の学生ならば学業に勤しんでいるはずの昼下がり。私は電車に揺られていた。
都心部とはいえ昼間のこの路線はガラガラで、同じ車両にも数人しか乗っていなかった。
基本的に引きこもりがちな私がこうして外にいるのにも理由がある。
『ねえ、明日どーしても付き合って欲しいお店があるの』
そう、頼まれたからだ。誰にかといえば……未だ一度も会ったことのない同期だ。普通はデビュー前に顔合わせをしたりするらしいが、私は普通でないデビューをしてしまったがために初遭遇となる。
待ち合わせの駅で電車から降りると、改札口に1人の女性が立っていた。事前に聞いた通りの服装をしているところを見るに、彼女は私の同期、ララちゃんであるようだ。
「あの……もしかして……」
「ん?その声!筑紫ちゃん?」
「こ、声が大きいですよ」
「ああごめんごめん」
このテンションの高さ、間違いなくララちゃんだ。見た目こそバーチャルの体と違えど、すぐに本人だとわかる。
「最初に声かけてくれなかったらわからなかったよ〜」
「すみません、無難な服しか持ってなくて」
「謝らなくてもいいよ。それに似合ってるよ」
「ありがとうございます」
外行き用の服なんて最低限しか持ってなかったものだから、どこにでもいる目立たない服を着るしかなかったのだ。
「というかびっくりしちゃった。スタイルめっちゃいいじゃん」
「ただ縦に細長いだけですよ」
「それとタメ口でいいよ」
「えっと……」
「あー難しい感じ?ならいいや。ちょっとむず痒いけどね」
目的地に着くまでも、彼女の口は止まらなかった。私は自分から話すのは苦手な方なので、正直助かっていた。
「でも意外だなぁ。本当にすぐに会ってくれるなんて」
「まあ……いろいろと迷惑もかけましたし」
例の騒動の件で最も被害に遭ったのは、同期であるララちゃんだった。タイミングの悪さ、新人という立場の不安定さを狙われ、私の次に標的にされたのが彼女だったのだ。
「気にしなくていいのに。それに……それだけじゃないでしょ。だって店の名前を出したらすぐにオッケーしてくれたもんね?」
「ぐっ……べ、別に甘いものに釣られたわけじゃないですよ?」
「ふんふん、そういうことにしといてやろう」
スイーツに釣られたわけではない。決して……違うのだ。たしかに店名だけでわかるほど事前サーチしていた場所とはいえ、違うのだ。
❍✕△❑
甘いものと共に、口数はさらに増えた。
「ホントに!前世だのなんだの失礼でしょ!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
「落ち着いてられないわまったく」
彼女が憤る気持ちもわかる。彼女も私と同じく、前世持ちだった。彼女の場合は別サイトで雑談配信をしていたという経歴だったが、既に消したはずの動画を世に出されたり、複数のまとめサイトに晒しあげられたりとなかなか酷い扱いを受けている。
「せめて私の目の届かないところでやってよね」
「本当に……そうですね」
私の騒動が酷かったとき、彼女もまた、自分の前世の情報が目に留まる形でばら撒かれていた。
「私のせいですね……」
私の前世がすぐに割れたからこそ、飛び火した彼女にも特定班が大勢動いた。そもそも特段人気というわけでもなかった彼女のアカウントを短期間で特定するなど、至難の業のはずだ。
だからこそ、その火付けとなってしまった私は彼女に頭が上がらない。
「いいの。本当に筑紫ちゃんが謝る必要ないんだから」
「でも……」
「だって、筑紫ちゃんは何もしてないもん。一部の厄介なオタクが騒ぎ立てて、それに群がるイナゴが面白がって火を大きくしただけでしょ」
「でも思うんです。もっと静かに終わらせる方法もあったんじゃないかって」
「無理よ無理むり」
そう言って、彼女は私の腕を掴んだ。
「こんな細腕じゃ自分すら守るので精一杯でしょ。だから気にしなくていいの」
その通りだ。なんなら、自分すらも守りきれなかった細腕だ。ゲームの中の腕前では自信があっても、現実ではただの非力な女である。
「お姉さんの胸をかりるくらいでいいのよ」
「ちなみにララさんは何歳ですか?」
「えっ?今ちょうど20歳だけど」
「じゃあ私の方が年上ですね。年だけですけど」
あんぐりと口をあけてこっちをみるララちゃんは、しばらく瞬きを繰り返す。
「えっ?でも女子高生って」
「まあ、いろいろあって今は通信制で単位取得中なんです。なのでこんな年でも高校生です」
「え~!私より年上なのに現役JK名のれるなんて、ずるいわ!」
「セコくないですよ。ちゃんと制度に則ってるわけですし」
「たとえ制度が許そうと私は許さないから!」
このあと、ご立腹のララちゃんをなだめるべく食後のショッピングに乗り出した私は、ララちゃんが満足いくまで着せかえ人形にされたのであった。疲れた……
❍✕△❑
「ということがあったんだよね~!」
ララちゃんはその日の夜も雑談配信をつけていた。でかけた後だというのに……底しれぬ体力の持ち主である。
「いや、もうほんっと筑紫ちゃん美人さんでさ……。また会いたいなぁ」
そういってくれると、私もありがたい。家族以外の誰かとでかけるなんて経験は何年ぶりだろうか。それでもとても楽しかった。
<私も楽しかったです。また遊びに行きましょう>
「あっ筑紫ちゃん!?ありがとう、また行こうね!」
コメントにすぐに気づいて、話を遮ってまでそう返してくれる。本当に、私はいい同期に恵まれている。




