憧れの人
マッチングが成立し、キャラ選択画面になる。このゲームはスキルによって役割が割り振られたゲームである。
「どんなキャラがいいですかね」
<前線キャラで無双希望>
<索敵で少人数戦クラッチしまくり希望>
<後衛キャラで1対多数戦希望>
「素晴らしくばらばらな意見、ありがとうございます」
こうして視聴者と戯れている間に、他のプレイヤーがキャラを確定させていく。
「あとは私だけですね。これ、役割的には何が足りてませんか?有識者おねがいします」
<一応は自由枠か>
<前中後のバランスがいいから、前線キャラでいいんじゃない>
「わかりました。じゃあ適当にこれで行きます」
そういえば一つ致命的なミスを犯していて、訓練場で銃に関しては慣らしたのだがキャラのスキルに関してはほぼ無知なのであった。
<あっ……>
<そのキャラは>
<初ピックでそれ……?>
「えっ?もしかして弱いキャラでしたか?」
<むしろ環境キャラやね>
<花形キャラやけど、難しすぎるという>
<スモーク投げながら高速で入っていったりする>
「なるほど、つまりは体で索敵していこうってことですね」
<そうだけどそうじゃない>
<ハイドポジ一つ潰したりヘイトかったり、まあ間違ってない>
<それが難しいから初心者バイバイキャラなんだよな>
画面が切り替わり、マップにスポーンする。攻めスタートのようで、目の前に爆弾が落ちている。
「それじゃあ、とりあえず気楽にやってみます」
<ファイト~>
<GLHF>
試合が始まり、制限時間のタイマーが動き始める。今回私は前衛キャラ、味方についてきてもらうためにピンを指しつつ片方のサイトへと進むが……
「難しいですね。このゲーム」
相手の侵入阻止のスモークに手間取っている間に、詰められて殺されてしまった。
「なかなかうまくはいかないものですね。さて、次ラウンドに行きましょう」
<いまモクの中からサイト奥の敵殺してなかった?>
<たしかによくいる場所やが、一発で頭……?>
<使ってる?>
「次はエコラウンドですか」
エコラウンド。つまりはお金を次のラウンドに残しつつ戦う節約ラウンドだ。私のキャラは、スキルなどを全部買えた方が良いので一つも買い足さずに戦うことにした。
「すこし試したいことがあるんですよね……」
味方の索敵スキルを待ってから、サイトの中に無料スキルで飛び込む。相手は急に後ろを取られたことでまだ振り向けていない。
そのままフリーキルをとり、相手の武器を拾ってサイトの中をクリアリングする。たまたま相手の寄りが遅く、サイトの中を固めてしまえば、状況は一気に動く。
「うまくいきましたね」
味方による必死の抵抗により、爆弾の起爆によってラウンドを取ることができた。私も2キルして、その後もギリギリまで時間を稼げていたから良い動きができただろう。
「こういう戦略性の高いFPS、私好きです」
<切り抜き班>
<おk、任せろ>
<ぐう有能>
「えっ?何ですか?何を切り抜くんですか?」
<そりゃもう>
<告白シーンよ>
「た、たしかにFPSが好きって言いましたけど……今後は言葉に気をつけます」
<今後もボロだしてもろて>
<今の照れてる感じ、良き>
<あまり聞かないタイプの声色だから助かる>
「ご好評のようでなによりです。そういえば切り抜きに関してですが、VeG公式のガイドラインに一度目を通すことをおすすめします。初配信の切り抜きが多くて私自身では確認のしようがなかったので、切り抜きを作る側の人たちが注意喚起をし合うようにお願いしますね」
切り抜き動画に関しては賛否両論がある。たしかに広告効果や新しい層の獲得にもなり、配信者個人で動画を作る手間も省ける。しかし中には悪意のある切り抜きや、金銭目当てでの作成も見られるため、VeG公式がガイドラインを提示する事態に発展した。個人配信者では契約を結ぶところも増えてきている。
「さて、マッチポイントですか」
あっという間にゲームが終わりに向かう。せっかくマップの場所を覚えてきたというのに残念だ。
「えっと……最後は何もせずに勝ちですか」
味方も強くて、片方のサイトを私が守っている間にもう片方で殲滅戦が行われていた。
「GG、でいいんですかね。なんとなく試合の流れも掴んできたので、今日はこのままランク戦開放まで行きますかね」
その後も山あり谷ありの戦績で、配信は多くの視聴者に見られながら幕を閉じた。
❍✕△❑
~数日前~
私は、無意識に震えながらスマホを操作していた。
今日は後輩のデビュー配信。ゲーム配信メインの事務所で『多少できる』なんて言うものだから、どの程度なのか見てやろうと思って配信を開いた。そこでは、デビュー配信のテンプレを投げ捨てたゲーム配信が行われていたのだが……
「あ、ありえない。この動き……絶対そう」
私がFPSゲームに心血を注ぐキッカケとなった人物『ez』。その人物としか思えないプレイが画面で繰り広げられている。これがただの真似というのなら、それは多分チートを使っている。ez選手の真似をしてここまでゲームをしてきた私でも、この動きはできない。
「じゃ、じゃあ……あの事務所に面接に来てた人が、ezってこと……?」
どうにも信じられない。丁寧な態度ではあったがどこか抜けているような雰囲気の女性だった。自分の憧れの人物と既に遭遇していたことに、驚きを隠せない。
それに加え、ezの良さを本人に力説したことになる。恥ずかしすぎてもう二度と顔をあわせられない。
「そうだ、きっと夢だ」
私の脳は考えるのを辞めた。そしておもむろにスマホで連絡を済ませて、布団をかぶって目を閉じた。
『ちょっとまって、新人さんってあのezさん?』
このメッセージを送った相手が姉でなく筑紫さんであったことに私が気づくまで、あと8時間。




