Vtuber
難産でした……お待たせしました
「どうしてここに?」
「だってインターホンを何回鳴らしても反応ないんだもん。また倒れてないか心配だから合鍵使ったの」
「ご心配をおかけしました。それと優勝おめでとうございます」
「うん、ありがと!でもさ、最終戦はとくにヒヤヒヤしたよ」
「そうですか」
「……まさか筑紫ちゃん気付いてない?」
「はい?何をですか?」
「最後に筑紫ちゃんと1v1したの、私だよ?」
もちろん把握していなかった。キルログの管理は葵先輩に任せっきりだったからだ。
「はーあ、意識してたのは私だけだったかー」
「ララちゃんは私だってわかっていたんですね」
「そりゃねぇ。あんなきm……独特な立ち回りで生存し続けるなんて筑紫ちゃんしかありえないし」
「褒めているんですよね?ありがとうございます」
「あれでもし優勝を逃してたら、さっき声をかけたときに私の手に武器があったかもしれないけどね」
「……あはは」
「アハハ」
正直笑い事ではないとは思うが、まあ実際にやるような分別のつかない人ではないし大丈夫だろう。
「さっき最後のシーン見返したんだけどさ、筑紫ちゃんの銃、最後の一発だったのわかってた?」
「はい、水城さんがコールしてましたから」
私の答えに、ララちゃんは首をかしげた。
「水城ちゃんが?」
「はい。私が一人生存だったので、キルログとマップを葵先輩に、HPと残弾を水城さんにコールしてもらっていたんです」
「……それって大丈夫なの?」
「まさか……ルール違反でしたか?」
「違うよ!そういうことじゃなくて、戦闘中にずっと話しかけられるわけでしょ?集中できなくない?」
なるほど、たしかにそういう意見もあるかもしれない。でも、私はクロスヘア周辺から視線を動かさないことの方がファイトに勝つために必要だった。
「プレイスタイルと癖ですかね」
「まあ確かに、筑紫ちゃんいつも、あちこちキョロキョロしてるもんね」
「なぜそれを……」
「いや、意外と配信でもわかるよ、視線の動き」
VeGの2Dモデル担当の技術力の賜か。
「なるほどね。それじゃあキョロキョロしないほうが筑紫ちゃんは強いんだ」
「あくまで正面の撃ち合いが発生した場合のみですよ。普段のゲームプレイならいつもどおりのプレイスタイルのほうが勝てると思います」
「そんなもんかなぁ」
ララちゃんはソファに腰掛けて、グーッと伸びをした。
「それより、ララちゃんのチームはもう解散したんですか?優勝したわけですし、二次会とかもありそうですけど」
「うん、二次会&祝勝会はやるよ〜。でも流石に疲れたから、一旦晩ごはん休憩ってことになったの」
「なるほど。確かにそんな時間ですね。ララちゃんは晩ごはんどうするんですか?」
「うーん、未定!でもちょっと仮眠とりたいんだよね」
「……もしかして私を目覚まし代わりにしようと思ってます?」
「良きに計らいたまえ~」
まあ後に予定があるのならば、誰かに起こしてもらうのが確実ではあるだろう。
「良いですよ。何分後に起こせばいいですか?」
「20分後かな。お願いね」
さすがに大会後で疲れていたのだろう。ララちゃんが寝息を立て始めるまで、3分とかからなかった。
❍✕△❑
「ふわぁ、おはよう」
20分ぴったりで、ララちゃんはソファーから起き上がった。
「自分で起きれたじゃないですか」
「念のためは大事でしょ?」
「それもそうですね。二次会は何時からですか?」
「えーっとね、ちょうど0時からだってさ。あっでも……」
スマホを確認したララちゃんが、なにか伺うようにこちらに視線を向けてくる。
「な、何ですか?」
「筑紫ちゃんのチームは二次会あるの?」
「いえ、水城さんの予定があるので今日はありません」
「よかったらさ二次会にこない?今他チームにも声かけたら9人集まってて、あと一人いれば5v5でゲームできるなって」
大会後の二次会は、カジュアル大会ならではの文化だと思う。とくに先程まで敵として戦っていた人たちと仲良くゲームをするのは、配信者だからこそだろう。
「私で良いんですか?」
「むしろ大歓迎だと思うよ?それに他のVeGの先輩たちも来るよ」
「葵先輩もですか?珍しいですね」
葵先輩は良くも悪くもマイペースなところがあり、普段やってるゲームジャンルの違いもあってVeG内でもソロの時間が多い人だ。
「わかりました。私もあとで行きますね」
「うん、それより晩ごはんにしよー?筑紫ちゃんはもう食べた?」
「まだですが、せっかくなので出前を頼んでおきました」
「う〜ん、できる女だね筑紫ちゃん。婿に欲しいくらいだよ」
「私が婿側なんですね」
「ウェディングドレスは私の夢だからね、嫁枠はあげないよ」
「ララちゃんらしいですね」
純白のドレスに身を包むララちゃんを想像する。うん、イメージ通りぴったりだ。
その後、来た出前を二人で平らげて雑談をしていれば、すぐに二次会の集合時間になった。
❍✕△❑
二次会はというと、結局12人集まり、5v5の爆破ゲーを選手+コーチという構成で、メンバーをローテーションしながらプレイすることになった。
そして初戦。私がダントツのスコアトップで試合を破壊してしまい、その後コーチ枠から出してもらえることはなかったのだが、それはまた別の話。
時は流れ数週間後。私は1つの転機を迎えていた。
「姉さん。もう一度言ってくれる?」
「だから、あなた今後、私の手伝いに徹する気はない?」
「モデルになれってこと?」
「まあ端的に言えばそうね。あなたなら日本どころか世界のトップモデルを目指せるわ。もちろん兄さんや私のマネジメントあってのことだけれどね」
「……、もう少し考えさせてくれる?」
「いいけれど……もしモデル業に専念するならできるだけ早いほうが助かるわ」
「分かった」
今年このまま行けば、私は高校卒業の資格を得る。しかしその後のことは、未だ決めきれずにいた。
進学か就職か……それだけではない。もしどちらを選んだにしても、『Vtuberを続けるか否か』という問題がつきまとう。
いつまでVtuberを続けるのか
これは全Vtuberが共通して考える、正答が存在しない問題だ。とくに受験や就活など人生の転機を迎える瞬間というのは、こういった問題に突き当たりやすい。
私はゲームが好きだ。
昔は家族の時間を犠牲にしてでもやり続けていたほどだし、今も熱中することは変わらない。
私は家族が好きだ。
兄さんや姉さんたち、皆が私に優しくしてくれる。だから、兄さんや姉さんたちに恩返しをしたい。姉さんの手伝いはその一環だ。
私はVtuberが好きなのだろうか。
私は配信が好きなのだろうか。
私は、Vtuberであることが好きなのだろうか。
「あ、もうこんな時間ですか。配信をしないと」
慣れた手つきで配信の準備をし、あとマウスをクリックしたら始められる段階まで進める。が、しかし、手がふと止まる。
「……すぐに答えがでる訳がないんですがね」
マウスカーソルを動かし、パソコンをシャットダウンする。
❍✕△❑
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|◯筑紫みや@38tks_VeG ・5日前
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| 本日8時から予定していた配信ですが、諸事情で
| 急遽休むことになりました。
| 次の配信については追って連絡します
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|◯VeG運営@unei3_VeG ・5分前
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| 先日未明から我が社所属のライバー「筑紫みや」
| との消息が途絶えている件につきまして、本人家族
| との連絡がとれ、本人の無事も間接的ではあります
| が確認が取れましたことをご報告いたします
| 詳細は省きますが、事件や事故等ではありません
| でしたので、ご安心ください。
| 今後の活動についてのご連絡はまた後日となります
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| また、本件について弊社の他ライバーへの度を超え
| た追及はお控えくださるようお願い申し上げます。
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