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ゲームつよつよ系Vtuberはレティクルの向こうに何を見るのか  作者: 畑渚


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38/44

優勝

「絶対に蘇生しますから!」


 そうは言ったものの、状況的には不可能に近かった。私達を攻めてきたパーティと、追加で銃声につられて寄ってきたパーティで戦闘が始まったのだ。

 制限時間内にデスボックスからビーコンを回収しなければ、蘇生のチャンスはなくなってしまう。しかし……


「筑紫ちゃん、もう私たちの蘇生は諦めんと」


「……はい」


 葵先輩の言う通りだ。ここで粘ってギリギリで移動しても、圧倒的不利な状況下で生き残ることはできない。



 集中しろ、勝ち筋を見い出せ。



 遮蔽に身を隠し、一端マウスとキーボードから手を離す。私の昔からの癖、ルーティンだ。手を組みぐっと前に伸ばし、そのまま上に。そして頭の上で手を離し、グルっと肩を回す。簡単なストレッチだ。


「葵先輩」


「ん?なにか手伝えることがあるん?」


「はい。今後すべてのキルログを把握して、全チームの様子を推測してください。できますか?」


「うーん」


「少し欲張りでしたかね。キルログと人数の報告だけでも助かります」


「いや、できるで。任せといてや」


「本当ですか!?」


「たかが数十人、データを読み込んで整理するだけなら余裕やわ」


「わかりました」


 ちらりとチャットアプリを見る。まだ水城さんはミュート中から帰ってきていないようだが……


「水城さん、戦闘中、私の残弾とHPを管理してください。それぞれ50%と25%のときにコールしてくだされば大丈夫です。お願いします」


 届いただろうか。非常に申し訳ないことをしている自覚はある。しかし、私はどんなときでも勝ちを諦めたくない。そうやってezは生きてきた。


『ok』


 たった二文字のチャットが水城さんから届く。それだけで十分だ。



❍✕△❑



「さあアツくなってきました!ポイント差はどのチームもイーブン。しかも1位のチームが既にマッチから脱落しているぞ!これは上位チームだけでなく、下位チームにまで逆転のチャンスが巡ってきている!」


 声が枯れるまで、それをモットーにeSportsの実況に取り組んできてはや10年。今では大会実況はこの人だと太鼓判を押されるような存在になった僕だが、まだまだ声を枯らすまで実況できたことはない。


「さあカメラは移って……えー現在総合7位の水城チーム!ここは初動で二人が落とされ、筑紫選手のみが生き残っています。人数はいなくともこの選手ならば100人力!彼女の今後の動きにも目が離せませんね!続いてこちらのチームは――」


 筑紫みや。僕が試合前に密かに注目していた選手だった。なにせ、明言されてはいないものの彼女はあの『ez』だと聞く。ezといえば、日本のeSports業界が世界に羽ばたいたあの年の立役者であり、我ら実況界隈では知らない人はいないだろう。


 しかし……最終戦というプレッシャーに呑まれてしまったか……


 期待していたのだ。7位という絶妙な位置から、ezがキルムーブで優勝をかっさらっていく姿を。しかし現実は、チームメイト2人を救えず孤立、絶体絶命だった。


「さぁ戦闘が始まりそうです!おっと急激にキルポイントを伸ばしているのはVeGの三人で構成されたチームだ!姉妹のコンビネーションと†漆黒の力†によってあっという間に壊滅だ!これはさらに順位争いがわからなくなってきたぁ!」


 画面から目を話し一瞬スタジオに顔を向けると、皆画面に喰い付くように見入っていた。ゲーム好きで構成されたスタッフだから無理もないか。僕も実況に戻ろう。


「そして最終安置がとうとう公開!そしてその中心地の建物を取っているのは鐡ララ率いるチームだ!この完全に有利なポジション、そして守りに徹する構成!練習では永遠の2番手と呼ばれたこのチームがとうとう最終戦で優勝に王手をかける!」


 残りは5部隊。位置部隊は強ポジションの建物内で、その建物を囲む柵にそれぞれ4チームが残っている。しかし、そのうち1チームは……まさか?


「なんとこの終盤、まだ筑紫選手は生き残っている!?しかも途中でキルを拾っていることから総合順位もまだ伸びそうだ!」


 ところどころキルログが追えていなかったが、どうやらカメラのないところでいくつかキルを拾ってきたようである。つい『ez』と口に出しそうになるが、プロ根性でなんとか『筑紫』の名で彼女を呼ぶ。


「さあ最終収縮まであと10秒!とうとうこのストリーマーカップの優勝が決まろうとしています!」


 きっとスタッフも、そして画面の向こうの視聴者も、この展開に息を呑んでいることだろう。僕は急いで水分をとり、最後の実況をスタートさせた。



❍✕△❑



「葵先輩、もう一度確認のためにいいですか?」


「わかったで。まずはここの最終円中心のチーム、これは建物内やからどうしようもない。手を出すのは最後にするしかないやろうな。そして東と北のチーム。銃声の傾向からして両方とも物資はもうカツカツのはず。西のチームはハイド気味やけど、ちらっと見えた構成から建物内を制圧しに行くやろな」


「建物は私だけじゃどうにも成りませんし、西のチームに削ってもらいますか」


「まさか筑紫ちゃん、ここでもまだ優勝を狙っとるんか?」


「あたりまえです。諦めが悪いことで有名なんですよ、私」


「流石やわ。精一杯サポートするで。なあ水城はん」


「うん、筑紫ちゃんの管理は任せて」


 数分前から水城さんもVCに戻ってきて、私のHPと残弾を管理してくれている。これで私は、画面中央から目を離さなくてもすべての情報が網羅できているのだ。



 さあ、最終盤だ。目を開け、考えろ、敵の位置、自分の状態。

 勝ちはどこにある。



「行きます!」


 最終収縮のアラームが、スタートの合図になった。


「まずは東と北の敵や!漁夫って安全地帯を広げるんや」


「残弾半分!今ならリロードできるよ!」



 情報を処理しろ。敵はどこだ。何を見ているのか。自分が撃つタイミングは。



「西のパーティが中央とやり合い始めたみたいや。ワンダウンしたけど多分これは起こされる!」


「HPが危ないよ!リロードも挟まないとだから隠れて!」



 スキルを活かせ。アイテムを使い切れ。最後の最後まで立ち続けろ。



「東のパーティダウン!北もボロボロで建て直す暇ないで!中央はまだ健在!」


「弾半分!……後少し!……リロード!」



 遮蔽を探せ。ギリギリで戦え。絶対にダウンしてはいけない!



「ナイスキルや!あとは建物周り!」


「弾がもうない!あとショットガン5発!ARは0!」



 最適、最小限、一発一発を最大限に意味のあるものに



「一人!もう一人も……ナイス!!」


「あと1発!アーマーなし!」



 ラスト1つ













❍✕△❑



「優勝は……鐡ララチームです!」


 実況兼司会の人の声が響き渡る。このテンションで実況していたのか、少し声がかすれている。


「すみません。勝てませんでした」


「何謝ってるねん!」


「ほんとだよ!」


 私たちのチームは、惜しくも2ポイント差でララちゃんのチームに負けた。


「それに最終戦、チャンピオン取れたじゃん!流石は筑紫ちゃんだったね」


「二人のサポートがあってこそです」


「あのなぁ筑紫ちゃん。私たちはただ情報を読み上げてただけやで?」


「それでも二人がいたから、あそこまで画面に集中できたんです」


 マップやキルログ、それに自分のHPや残弾は、画面中央のクロスヘアを邪魔しないように配置されている。そのため、敵に集中しすぎるとつい情報を疎かにしてしまうことがある。

 それを二人がカバーしてくれた。お世辞でもなんでもなく、本当に二人と一緒に戦った試合だったのだ。


「くぅ、でも惜しかったなぁ」


「平たい結果になりましたね。運営もほっとしているでしょうし」


「今回の大会運営には頭があがらないよ!本当に良い大会だった!」


「とりあえず私は配信閉じてくるわ」


「確か水城さんもこの後」


「うんごめんね!用事に向かうよ」


「それじゃあ解散ですね」


「……」


 しばしの沈黙。すこし別れが惜しい。


「それじゃあ、ありがとうございました」


「うん、二人ともまた遊ぼうね?」


「水城はんから誘ってな?私らの方が暇やから」


「確かに、水城さんのスケジュール調整が大変そうですね」


「そんなこと……あるかも……。空いてる日連絡するね」


「はい、お願いします。それじゃあ」


「ほなな~」


「ばいば~い!」


 通話を切り、ふぅと一息つく。


「それでは配信も閉じますね。一週間、応援ありがとうございました。至らない部分も多かったですが、本番でも……順位を伸ばすことができました。それではまたお会いしましょう」


 配信の終了を確認して、背中を椅子に預ける。久々にあれほど集中できた。もしかするとプロ時代レベルかもしれない。しかし……



 もし1戦目で右から倒せていれば

 もし2戦目で遮蔽が足りていれば

 もし3戦目でアーマースワップをミスしなければ

 もし4戦目でチャンピオンをとれていれば



 もし5戦目であと2キルとれていれば……



「もしもし?もしもーーーーしピンポンピンポーン!」


「……っ!?」


 いつの間にか真後ろに、ララちゃんがいた。


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