野生のリスナー
「はい、画面と音声、問題ないでしょうか?」
<こんつく>
<待ってた>
<おはよー>
「はい、おはようございます。平日の朝からみなさん観てくれてありがとうございます」
<ニートなので今朝か昼かわかりません>
<筑紫ちゃんが朝と言うなら朝や>
<実際10:30はほんとに微妙な時間>
「さて、では先ほどSNSでも告知した通り、今日は視聴者参加型でやっていきますね。VCは聞こえないので、何かある方はチャットで発言してくだはいね」
<待ってた>
<りょーかい>
<任せてほしい、足を引っ張って見せますよ>
視聴者に新たな刺激を求めるのは間違っているのだろうか。
なんてことはさておき、今までやってこなかった視聴者参加型配信をすることにした。大会前にやるようなことじゃないのはわかっているが、私の熱中癖のある頭を解きほぐすには最適解な気がした。
「では固定コメントにコード貼りますね。早いもの順です」
数秒足らずで参加申請が届く。承認すれば、そこそこのレベルの人たちがパーティに入ってくる。
「それでは初戦、行きましょうか。あ、ちなみに初動落ち以外は一戦交代です。初動落ちの判断は私がしますので、よろしくおねがいします」
❍✕△❑
<また筑紫ちゃんの1v3!>
<なんで勝つねーん!>
<味方の人もナイスファイト>
何回も勝利を積み重ねながら、私の考えは別のところにあった。
楽しい。ただひたすらに
ゲームとはこんなにも楽しいものだったのか、いや楽しいからゲームなのか
「よし、それじゃあ次行きますね!」
<筑紫ちゃんもテンション上がってきたねぇ>
<おもろいやんこのゲーム>
<俺も参加できっかな>
勝ちに貪欲な大会は素晴らしい。負けたくないと言う気持ちが短期間にチームで出来上がるのも良い。
でも楽しいという思いを忘れてはいけない。
楽しいからこそ、上手くなりたいし、勝ちたいと思えるのだから。
「よろしくお願いします。それではどこに降りましょうか」
そう尋ねると、リスナーさんがマップにピンを刺した。その場所は、激戦区として有名なスポットだった。
「えっと、降りてもいいですけど、初動落ちしても交代してもらいますよ」
二人のリスナーはどちらも『ok』と短く返してくれた。
「右も左も敵だらけですね」
驚くべきことにリスナーも強い人だったようだ。激戦区に降りて初動ファイトし続けた結果、今のところ三人とも生き残ることができている。
しかし安置の関係もあって、未だに東西南北すべての方向から敵が迫ってきている。
「くっ流石にこの量はつらいですねっ!」
まずは東から来た敵を返す。リスナーさんもこちらの意図を汲んでくれて、集中砲火でサクッと壊滅させる。
<えっぐ>
<リスナーさんもつえぇ!>
<あれ?このIDどこかで……>
「味方さん、強い上に私のやりたいことを全力でサポートしてくれるんですよね。相当上手いです」
<筑紫ちゃんのお墨付き>
<強いうえに上手いとか、勝てへん>
<勝ったな()>
「ちょっと集中するのでコメント欄から眼を離しますね」
次の敵は、西と北からだ。東側に私たちが飛び出ているので、北のパーティを喰うようにぐるりと反時計回りに動く。
「くっ、さすがに敵も強いですね」
なかなか高位帯のマッチのようで、高レベルの敵が多いようだ。しかも敵の殆どがVCでコミュニケーションをとっているかのような動きをする。VCが限られているこちら側としては、細かい部分の意思疎通の速度が遅れてしまう。
「こ、この銃声は。想定よりも早かったですね」
北側のパーティに苦戦していると、東側から回り込んだ私たちをさらに回り込むように後方から攻撃を受ける。
「くっ、遮蔽が足りないっ!」
射線を切りきれなかった私は、健闘むなしくダウンしてしまう。リスナーさんたちの援護が来るよりも前に、確殺までいれられてしまった。
「申し訳ないです。さて、リスナーさんの視点を見ますか」
このゲームでは確殺が入ってしまうと味方の画面を観戦することができる。リスナーの戦いを見ながらコメントでも見ようかと、私は画面を切り替えた。
「えっと……リスナーさん、ですよね?」
私の視線はコメント欄に向かうことなく、リスナーさんの観戦画面に惹きつけられてしまった。
<強すぎ>
<いや、これプロか?>
<このIDのプロとかいたっけ?>
「私は存じませんね。でも動きからすると、なかなか上位の方じゃないでしょうか?」
射撃、ムーブ、そして判断。どれも高水準で完成されており、無駄がない。そのせいかゆっくり動いているかのようにすら見える。
<ID、特定したで>
<マ?>
<誰やったん?>
「私も気になります。ぜひ教えてください」
<えっと、プロ名義のIDは3rr0rやね>
<それって世界一位の?>
<韓国人で草>
<グローバル配信だったか>
<世界……一位です>
「え……本当ですか?」
<なんなら配信してる>
<見に行くか>
<なんならめちゃめちゃいい笑顔>
私はスマホを取り出してすぐにその名前を調べた。SNSアカウントから配信先を探し出し開けば、確かに同じゲームをプレイ中だ。そしてそのIDは、リスナーとして入ってきた名前と一致していた。
「まさか本当にプロの方とできるとは。でも確かに、プロと言われればこの実力にも納得ですね」
しかし、本当に楽しそうにプレイする。まだゲームでは多数の部隊に攻め続けられているというのに、雑談を交えながらプレイしている。
まあ、韓国語はさっぱりなので何を言っているのかは不明だが……
「世界1位ですか……」
<すごいなぁ>
<もしかしてめっちゃすごいことではこれ>
<世界一位も見てます>
「この強さ、憧れますね」
この人のプレイは、奇抜なスタイルではなかった。むしろ教科書に乗るかのような落ち着いたプレイ。状況判断に基づく適切さを突き詰めたかのようなプレイだ。
しかし、華がないわけではない。キャラクターコントロールはトップレベルで、その技術を前提としてプレイスタイルが組み立てられている。
「ナイスチャンピオンです。ありがとうございました」
『ty』
『GL tukushi』
そうチャットが帰ってきて、つい頬が緩む。とても貴重な機会を得たものだ。刺激としても十分だし、モチベーションも急激に上がった。
<うぉぉぉ>
<今シーズンも頑張れよぉ!>
<また見に行くわ!>
視聴者さんたちの反応も上々である。
この試合の切り抜き動画が何故かプロ界隈で有名になったらしいのだが、それはまた別のお話。
❍✕△❑
「こんゆず~!」
「こんやで~」
「こんばんは」
個人配信を終えてしばらく経てば、チームで集まっての配信が始まる。
「今日は練習カスタム最終日、はりきっていこー!」
「水城はんの言う通りや、頑張るで」
「はい。今日こそは目指せチャンピオンです」
ここ数日、多くの困難にさらされたおかげか、短期間でありながら随分と仲を深めることができた気がする。
「今日は二人とも、個人練習してたよね」
「まあ私は初心者やしなぁ。それにキャラの操作になれるにはプレイするのが一番やからね」
「少しの間見てましたけど、葵先輩本当に上達しましたね」
「お世辞は大会終わるまでとっといてや。それに筑紫ちゃんもおもろいことしよったみたいやん」
「私ですか?」
「そうそう、筑紫ちゃん。世界一位の人とプレイしたんだって?やるねぇ」
「いえいえ。本当に運が良かっただけですよ。ついていくだけで精一杯でしたし」
「いやいや、おいていかれるどころかむしろ先頭に立ってIGLしてた気がするけど?」
「水城さんの気の所為ですよ。ほら、カスタムのコードが配られましたよ、入りましょう」
ナイスタイミングだ。慣れてきたとはいえ、まだ自分がVtuber『水城ゆず』の配信にのることには緊張がある。
「水城さんはどうですか?新しいキャラの調子は」
「うーん。まあ自分なりに触ってはいるんだけどね?やっぱり細かい判断を即時にしなきゃいけないのが難しいね」
水城さんが使っているキャラクターは、トラップを用いて閉所を防衛する特徴があり、そのためには『強い罠の設置』を覚える必要がある。簡単な部分は私が試合中に指示できるものの、やはり細かい部分は基礎となる部分は独学でやってもらうしかない。
「私もまだ操作がおぼつかないこともあるし……たいへんやなぁ」
「……、大丈夫です。お二人の成長速度であれば、今日必ず成果が出ます」
気まずい雰囲気が流れる前に、私はそう打って出る。
なにかに基づいた発言ではなかった。
しかし、何故か確信できる。このチームはどんどん強くなる。たかが一日しかなかろうと、それでも十分なくらいに。
マシュマロの存在を完全に忘れており、感想送ってくださった方がいてびっくりしました
今後も変わらずご意見ご感想受け付けてます。匿名でおくりたい!って方はどうぞご利用ください
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