IGL
今晩の練習カスタムが始まる前、お二人に数分時間を頂いて、配信外で集まってもらった。
「葵先輩、IGLしてみませんか?」
「へっ?何言うてんねん」
「いや、『してみませんか』じゃないですね。お願いします、やってください」
「いやいや、無理や!私ビギナーやで?」
「いや、葵先輩は私並みの、いえ、ゆくゆくは私以上のIGLになれます」
「このゲームの武器すら把握しきれてへんのに」
葵先輩は頑なに拒否する。
それもそうか。一つの指標とはいえ、私のこのゲームのランクは格上だ。葵先輩は自ら率先してリーダーになるような性格でもない。
この試合を楽しむだけならば、私がエスコートしてもいいだろう。
しかし、勝ちたいならば、葵先輩のIGLが絶対に欲しい。
「なあ水城はんもなにか言うてや」
「そうだよ筑紫ちゃん。昨晩は頼り過ぎた私達が悪かったからさ?」
「いえ、昨日の敗因は決してそんな理由じゃなかったです」
「それじゃあ何が悪かったん?」
私は昨日のことを思い出し、一度ぐっと息を呑む。
「私の視野が、いつも以上に狭くなりすぎていたんです。慣れないキャラ、慣れない環境、言い訳は無限にできますが、結局は私がプレイスタイルを見失っていました」
「筑紫ちゃんのせいだけとちがうで」
「そうだよ」
「今は反省会が目的ではないので後回しにしましょう。それで、葵先輩、どうですか」
「うーん」
しばらく沈黙が続く。
「やっぱしIGLは筑紫ちゃんがやったほうがええ思う。私じゃ力不足やし」
「IGLを任命したのは私です。先輩の判断の責任は私が取ります」
「んーな、あー」
葵先輩が踏ん切りがつかないのも仕方がないことだ。
しかし、私は確信してしまったのだ。『葵先輩の指示』がこのチームに加わるだけで、一回りも二回りもチームの順位が伸びるということを。
「わかった。わかった。そやけどこれだけは聞かして?なんでうちがIGLをやったほうがええんや?」
「それは……」
私は葵先輩の配信で見たことを説明する。状況把握、他チームの移動推測、そして最終円予測。どれをとっても現状で私とほぼ同格で、時には上回ることすらあることを。
「筑紫ちゃんから認められるレベルの……。わかった、今日だけでもやってみるわ」
「リスナーへの説明は私からします。だからミスしても責任に感じないでください」
「何言うてんねん。私、後輩に責任とらすような不甲斐ない先輩に見えるん?」
やはり私は、先輩に恵まれている。
❍✕△❑
練習カスタム2日目、第3試合。
1~2戦目は凡退した。しかし、ムーブが良かったおかげで生存時間は昨晩とは比べ物にならない。
「葵先輩、次はどっちですか?」
「次は北や。でもピン指したほうに敵おるから、すこし迂回するで」
「はい!」
3戦目ともなれば、葵先輩は持ち前の判断力を存分に発揮し始めた。
そして気づけば残り部隊9で最終円まであと2段階。私達のチームにとって未知の領域まで手が届いた。
「……」
「葵先輩?」
「ごめんな筑紫ちゃん。これ以上は無理や。とれるポジションがどこもあらへん」
今日からIGLし始めたという点を加味すれば、上出来にも程があるだろう。
それに、安全地帯の見極めで言えば、既に私の判断を上回っている。
「葵先輩、ここから1位を取るために必要なポジションを逆算してください」
「無理や!移動中に他チームからの射線が通るんよ」
「いいです。高速で移動して一点突破をすれば……」
私は夢中になりすぎていたのかもしれない。だから単純なことを忘れていた。
「あ、あのさ?」
「どうしました、水城さん?」
「このポジションを維持したらどうして駄目なのかな?だって今室内だし」
チームは2人ではなく、3人だった。
「それに小さいとはいえ、外には遮蔽物もあるよ?」
水城さんが言っている遮蔽とは、横に伸びたパイプや無造作に置かれた箱など、一人入るので精一杯な大きさだ。グレネードと同時に攻撃されれば、すぐに倒されてしまうだろう。
「水城はん、このままジリジリ前に詰めていくにしてもな?『決して落とされることの無い、回避や逃げに長けたキャラクター』が必要になってくるんよ。そのキャラと後衛で三角形の形を組めれば確かに耐えられるかもしれへん」
「なるほど、そういうことなのかぁ~。じゃあどうしよっか」
「他に取れるポジションは……えっと、ないなぁ」
うーんうーんと頭を抱える二人を横目に、私はふと思い立った。
「葵先輩。もし前衛一人がエリアを取るとした場合の遮蔽を探してください」
「ん?えーっと、それならあそこの箱裏やね。でもあそこに進んだが最後、引いてこれる道はないで?」
「引かなけれないいんですよね?」
「あっちょっと筑紫ちゃん!?」
二人の制止を聞く間もなく、私は建物から飛び出した。
❍✕△❑
私は運営スタッフD。私の企業が主催する大会の進行スタッフの一端を担っている。
「鐡ララつえぇ、テラワロス」
『神視点』とも言われる、カスタムマッチ特有の視点から練習試合を眺めながらコーヒーを嗜んでいた。今は私の推しVtuberであるララたそがいるチーム、鐡工業が最有利ポジションをとっていたため、安心して応援できていた。
「ん?何か一人浮いてるポジションがいるな?でも残り部隊に欠けはなかったはず」
ふと見れば、鐡ララの有利ポジションの唯一の死角に入り込んでいるプレイヤーがいた。プレイヤーネームは『筑紫みや』。ララたその同期である。噂に事欠かない人物だが、とある事件でララたそを迅速に救ったことから、ララたそファンの間では評判の良い方のVtuberだ。
「いやでも、その位置はさすがにきついだろ」
なんとか遮蔽で射線を消してはいるものの、グレネード一つでクリアリングされるポジションだ。
ほら、今もまた、キルポイントに飢えたチームが集中砲火で……
えっと、生き残ってるな。
落ち着いて見れば、ここぞというタイミングでダメージトレードを仕掛け、敵のタイミングに合わせて回復しつつ時間を稼いでいる。恐ろしいプレイヤーだ。
リングの収縮にあわせ、1チームが筑紫のポジションを潰しに来る。しかし、落ち着いた様子で一人削り、グレネードで遅延、スキルで遅延、その隙に他チームも気づき加勢。
あっという間に1部隊が壊滅した。しかも物資は筑紫の近くで落ちたため、全て漁ることができる。
また敵のグレネードが筑紫の足元に転がる。しかしくらった瞬間にアーマーをデスボックスから抜き取り、早着替え。
逃げスキルを持つからと詰めてきた敵を返り討ちにした。
もちろん筑紫だけの力ではなかった。筑紫のチームメイト二人が援護射撃をしたからだ。
残り5チーム、うち2チームは人数が欠けている。もしかしたら、そう感じさせる強さが筑紫にはあった。
っといけないいけない。俺はララたそ推し。たとえ同期であったとしても応援するのはララたそ一筋だ。
結局その後、警戒されすぎた筑紫は数チームからの同時グレネードを複数くらい、そのままチームとしても敗退してしまった。
しかし、その強気ムーブと独特のキャラピック、そして初日とは比べ物にならない完成度を見せつけられて、心に来ない者はいないだろう。
「まあ、でも鐡ララチームが優勝するがな」
神視点を任命されたデメリットとしては、リアルタイムでララたそ視点の配信を見れないことだろうか。
攻撃は最大の防御
次回は水城ちゃんのターン……の予定




