電撃デビュー配信#1
配信開始のボタンを押せば、時間のタイマーが進み始める。確認のために開いておいたスマホで配信がスタートしていることを確認してから、ふうと一息つく。
「皆さん初めまして。筑紫みやと申します」
<わこつ>
<清楚期待>
<VeGamer所属やぞ>
「はい、既に言われているとおりVeGamer所属です。メインのゲームはFPSを予定していますので、見たいゲームがあったら是非、コメントに書いていってくださいね」
<アレ?デビュー配信だよね?>
<背景真っ黒だけど大丈夫なん>
<さっそくポンか?>
「まあ落ち着いてください。理由は後ほど説明しますから」
普通は自分の立ち絵の背景にモチーフカラーを使ったり、枠取りされたコメント欄を表示したりするのがセオリーというものだろう。しかし、私の今の画面は真っ暗闇に私自身が映っているだけである。
「さて、皆さんは私のことをどこで知りましたか?」
<公式アカから>
<そりゃもう、運命的にこの配信を開いたんよ>
<風に聞いた>
「なるほど、ロマンチストも多いようで。それで、この配信がデビュー配信となるわけですが……」
ここで配信ソフトの画面をいじる。真っ暗だった背景が一転し、ゲームのタイトル画面が映し出される。
「せっかくの電撃デビュー配信なので、この有名バトロワゲーで電撃バッジ取得耐久を始めたいと思います」
画面の中の私がニコニコと笑みを浮かべる。もちろん現実の私だってそうだ。そしてコメント欄は急加速している。
<デビュー初日に耐久……?>
<電撃バッジってVeGamerじゃ誰も持ってなくない?>
<てかVtuberでもほんの一握りでしょ>
このゲームでの電撃バッジとは、1マッチ内に敵の総数の3分の1をキルすることで手に入る、難易度の高いバッジの1つである。腕前の高さとマッチ内の運の良さの両方が求められ、話題性には十分な内容だろう。
「本当は自己紹介配信だとか、タグ決めだとかをやるのが一般的ですよね」
<それな>
<自己紹介配信はやるの?>
<電撃バッジとれるんか……?>
「いえ、これといって別枠で自己紹介をするつもりをありません。私にとってはゲームプレイこそが1番の自己紹介だと思います」
マウスを握り直して感触を確かめる。うん、問題なく動く。
「それでは始めていきますね」
タイトル画面をクリックし、準備完了ボタンを押す。人気ゲームなだけあって、マッチングはすぐに終わる。
「使うキャラは……流石に一番手に馴染んでいるものにしておきます」
キャラピックが終われば、それぞれのパーソナルデータの載ったバナーが表示される。
<4桁キル……!?>
<てかもう電撃バッジ持っとるやんけ>
<一番下のやつ初めて見るバッジなんやけど>
「一番下のですか?ああ、これはリリース初日からやってる人だけ持ってるバッジですね」
<もしかして元プロ>
<このゲームで日本人の女プロいたっけ?>
<いないことはないけど、声もっと高いしIDも違うよ>
「私声低いですかね?」
<低くはないけどなんだろう>
<芯がある感じ?>
<女の方ぁ!って感じではない>
「まあ、不快に思われないならいいです」
<むしろ心地良いわ>
<聴きとりやすくて良い>
<てかASMRやらない?>
「っと降下が始まりましたね」
3人で1分隊のゲームなので、味方の1人が降下地点を決める。運が良いことに、初動に多くの人が集まるところへまっすぐと落ちてゆく。
「初動ファイトは少し黙りますのでご了承ください」
<うーん猛者>
<配信用垢とかで分けないの珍しいな>
「うちの事務所の方針ですね。VeGamerは対人戦ゲームではサブ垢禁止です」
<そういやそうやったな>
<いうてこのレベルのアカ持ってきた先輩はいないけどな>
雑談していると、地面が迫ってくる。私はすぐに武器が確定で落ちている場所に進路を変え、着地とほぼ同時に拾う。
<マグナムリボルバーwww>
<これは西部劇>
<ナーフにナーフが重なってもはや縛りプレイ用武器>
「いや、勝ちました」
<は?>
<やはり歴戦の猛者だったか>
音量調整も完璧で、足音がしっかり聞き取れる。壁を見透かすようにレティクルを合わせ、ドアから顔が出た瞬間に左クリック。
<えっ?>
<使ってる?>
<さっきまでは普通だったけど?>
「いや、足音ですよ。あっ後ろから来ますね」
振り向きざまに2発胴体へ。最初の体力だと倒し切れる。だからこの武器が好きだ。
「味方さんが倒れてますね、助けに行きます」
1on2に負けたようで、既にダウンからの確定キルまで取られていた。基本的に人数有利の強いゲームなので、相手も強者かもしれない。
「音がしない……」
強いだけでなく厄介な敵だ。ただ、その分わかりやすい。キルした位置、拾いにくる味方待ち、ならば隠れる場所は……
「まあ、そこですよね」
こちらもゆっくりと近づき、バレないように射線を通す。一度深呼吸をしてから、頭にエイムを合わせる。静かに引き金を引けば、3人分のキルログが流れた。
「はい、味方を起こしに行きますね」
ついでに近くの物資も漁り切る。最高級のアーマーやショットガンなども拾ったあと、リスポーン地点まで走った。




