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ゲームつよつよ系Vtuberはレティクルの向こうに何を見るのか  作者: 畑渚


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28/44

制限

 電車に揺られること十数分。都会の町並みになれば広告の種類も増えてくる。特に最近では、漫画やゲーム、アニメ等のサブカルチャーの広告も増えてきた。

 その中の一つにVtuberのものもある。VeGではなく、もっと大きな、箱売りとしてでなく1人のスターが企業を支えていた時代の、Vtuberが流行るキッカケを作ったような存在だ。


「おい見ろよ、あの広告」


「おっVtuberじゃん」


「見てはないけど知ってるわ」


 その知名度は多岐にわたる。というより、サブカル文化に浸かっていてその名前を知らないまま過ごす方が難しい。


「今度Vの大会あるんだろ?誰だっけお前の推しの……ナントカも出るんだろ?」


「ナイトメア様な」


「そうそう内藤ちゃん」


「楽しみだわマジで。チームとかどうなるんだろ」


 学生だろうか。楽しそうに話す声は少し聞き耳を立てていれば簡単に聞き取れた。


「内藤ちゃんが出るってことはVeG全員出るの?」


「半分はもう表明してたっけな」


「まあでも出ないわけにもいかないだろうしな」


「正直どうなん、あの新人」


「筑紫の方?」


「そうそう。なんかあそこらへんいっつもザワザワしてるイメージだわ」


 興味が湧いたのでもう少し彼らの話に耳を傾けることにした。スマホで適当に文字を呼んでいるフリをして耳を澄ます。


「うーん俺じつは全然詳しくないんだよね」


「前世バレめっちゃ早かったし話題になってた部分だけ知ってるけどよ」


「へぇ。まあお前そういうネタ好きだもんな」


「大会に出るとかなると話は別だぜ?だって前回の鐡ララが出た大会、コーチで居ただけなのにあれだけ目立ってたんだし」


「ふーん。いや、お前詳しくないか」


「いや、詳しくないぞ」


「そうか。それで?」


「あの実力とあの評判というか粘着質なアンチが大量にいる中で大会参加できるものなのかってね」


「そこらへんは問題ないんじゃないか?Vにアンチが多いのなんていつものことだろ」


「うーん、それもそう」


「それになぁ。個人的には筑紫ちゃんに――」


 私は電車を降りて改札を通る。駅ビルの1階にあるカフェで適当に飲み物を買い、ソファ席に腰掛ける。カフェインを摂りつつ一息ついていると、隣から聞き覚えのある音が聞こえたのでつい視線を向ける。スマホで動画を見ている女の子が、私と同じようにソファ席に身を沈めていた。イヤホンを耳につけているものの、スマホのスピーカーから音が鳴っているため、周りから注目を集めていた。


「あの……すみません」


「……」


「もしもし?」


「……」


 ああこれはダメだ。完全に動画に集中しきっていて自分が話しかけられていることにすら気づけていない。


「すみません」


「えっひゃいっ!?」


 肩を軽く叩いてみると、思った以上に驚かれて逆にこちらも驚いてしまう。


「あの、音。スピーカーから出てますよ」


「えっ!?あ、すみません。もしかしてずっと?」


「はい、少なくともその動画が始まったときには」


「うわぁ。すみませんほんとに」


「いえいえ」


 女の子は顔を真っ赤にしながら、謝りつつイヤホンを差し直した。


「声かけてくれてありがとうございます、お姉さん」


「隣に座っちゃったので気になって」


「ほんっとにごめんなさい。お詫びになにか」


「あー、うん。そんなに気にしなくていいですよ」


「いえいえ、でも」


「そうですね。それじゃあ少し話しませんか?どうせ1人で暇だったので」


「わ、わかりました!ちょっと飲み物おかわり買ってきますね!」



=*=*=*=*=



「おまたせしました。それで、何について話しましょうか」


「さっき見ていた動画、流行りのゲームの動画ですよね」


「えっ!?もしかしてお姉さんも知ってるんですかこのゲーム!」


 私も何度も配信し、今度大会が開催されるゲームを知らないわけがない。私は笑顔で肯定してみせる。


「意外です。お姉さんみたいな美人が私なんかと同じゲームをやってるなんて」


「あなたもプレイしてるんですね」


「はい!実は競技シーンのファンで、それで自分もーって感じです」


「競技シーンね」


「あ、競技シーンというのは」


「賞金が出ることもある大きな大会でしょう?知ってますよ」


「よく知ってますね。もしかして――」


 あ、やばいかも、と危機感を覚える。そういえばリアルでの身バレに関してはご法度。ましてや友人関係でも何でもない人に対してなど論外だとマネージャーさんに口を酸っぱくして教育を受けたことを思い出す。


「お姉さんも競技シーンのファンですか?」


「……ファンというほどではないですけど、それなりに知識はありますよ」


「ほんとですか!こういう話できる人初めて見つけました!」


「ゲームのフレンドとかは?」


「あー、えーっと、いくら課金したら手に入りますかねそのフレンドとかいうもの」


「失礼しました」


「そんなことはどうでもいいんです!それよりこれ見てくださいよ」


 女の子は先程まで見ていた動画の画面を私に見せてくる。たしかこのチームは、toreddoさんの所属チームのプロ部門だったか。


「ヤバくないですか?それぞれ三方向見て1on3をしてほぼ勝ち越してるんですよこれ」


「フィジカル強いですもんね」


「もう最強って感じです。お姉さんはどう思いますかこのチーム。私は今シーズンの優勝はここだなって思ってるんです」


「ふむ。もう少し見ても?」


「ええ、どうぞどうぞ!」


 そのチームの特徴を言うならば、フィジカル、フィジカル、フィジカルである。もう少し深く言うならば、絶対に誰か1人が生き残る。そしてその1人がチームを救う。良いチームだと思った。


「でも優勝は難しいと思いますよ。多分この試合もこのあと負けますよね?」


「どうしてわかったんですか?」


「簡単なことですよ。確かに強いチームですが、このゲームにおいては――」


 動画の中でチームのエースが1on3を勝ち取る。だがしかし……


「――よっぽどでない限り戦闘しないほうが強いですから」


 超遠距離からの狙撃で、チームの蘇生を通す間もなく撃ち抜かれる。

 バトロワの鉄則として、戦闘をしないほうが強い。そしてFPSの原則としてハイポジションが強い。そして、エリアが狭まると漁夫の利の取り合いとなる。自ら戦闘をしかけに行くスタイルは難しいのだ。


「でもこれだけのフィジカルがあれば十分じゃないですか?」


「もちろん、十二分にフィジカルはありますよ。実際にキルムーブにしては上位に食い込んでいますし。でも一位のチームには届かないんですよね」


 今回の優勝チームは、ひたすらに安置予測を極めたチームだった。安置の予測位置の中で最も強いポジションを最速で取るムーブは、不落城の如く全チームを敗退に追いやった。


「次回の大会が楽しみですね」


「でも負けちゃいましたよ?」


「プロなんですから修正してくるでしょう。それに、このフィジカルに立ち回りまで身につけたらと思うと恐ろしいですよ」


 ただ、フィジカルを支えているのはキルムーブによる物資有利だ。敵が拾ってきた弾や回復があるからこそ、長く強く戦える。これが噛み合えばもちろん強いが、噛み合わなければ順位は伸びない。


「そ、そうです!うちのチームはすごいんです」


「こうして人と観戦するのも楽しいですね」


「はい!そうだ、よかったらお姉さん今度私とこのゲームやってもらえませんか?」


「えっ?」


「詳しそうだし、ぜひいろいろと教えてほしいなって」


「えーっと」


「1、2戦だけでもいいので!お願いします」


 これには困った。私も別に彼女とゲームをやることに忌避感はない。しかし、VeGの規約上サブアカウントは禁止であり、つまるところ一緒にゲームをすれば私が筑紫であることを彼女に知られることになる。


「えっと、ちょっと事情があるので」


「そこをなんとか!」


 うん。そこまで言うのなら少し考えざるを得ない。しかし、私の独断で決めるには少しデリケートな問題でもあった。


「とりあえず可否は後日伝えるので、SNSでも交換しますか?」


「......!是非っ!」


 とりあえずはプライベート用のSNSを教えることにして、あとはマネージャーさんと相談することにした。


「そういえば今度、カジュアル大会があるらしいですね」


 ふと思い、そう話題を提供してみた。競技シーンというプロの世界を見ている彼女の視点が少し気になった。


「ああ。アレですか」


 彼女は顎に手を当てた。表情が読みづらい。


「プロが出るわけじゃないですからね。私は見るかわからないです」


「じゃあもしプロが1人でも出るとしたら見るんですか?」


「それは絶対見ますよ。私は全てのプロゲーマーのファンですから」


「でもカジュアルな大会ですよ?実力的にプロを叩く人もいると思いますけど」


「うーん。でもプロになった人は悪くないじゃないですか」


「まあそりゃそうですけど」


「それに、1人強いだけで勝てるほどバトロワは浅いゲームじゃないですから。運営のバランス調整に期待って感じですね」


「バランス調整?」


「初動制限だったりキャラ制限だったり、バトロワは調整の幅がありますから」


「なるほど……ありがとうございます」


「いやー、嬉しいな。お姉さんみたいな人とこんな話ができるなんて。今日来て良かった!」


「いえいえ。私も楽しかったです。それじゃあまた、SNSでメッセージ送りますね」


「うん、待ってます!」


 彼女の背中が見えなくなるまで見送ってから、ふうと一息つく。


 それから、マネージャーさんへの返信の文面をどうしようか考えつつ、帰路につくことにした。


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