【ホラー】配信タイトルをここに入力【VeG所属】
「はい、おはようございます。画面と音、問題ないですかね?」
<わこつ>
<待ってた>
<見えとるで~>
「はい、大丈夫みたいですね。それでは今日も初めていきたいと思います」
画面を切り替え、最近流行りのホラーゲームを映し出す。一人称視点で独特なグラフィックで描画される現代日本を舞台にしたこのゲームは、とある事務所の所属Vtuberたちが実況したことで大いにバズり、リクエストも急増した。
「ホラーゲームってあまりしたことないので楽しみです」
<びびる筑紫ちゃんを見せてくれ>
<ぜんぜん想像できないわ>
<真顔で「武器は?」とか言ってそう>
「さすがにそこまで戦闘狂じゃないですよ。それじゃあ始めますね」
スタートを押せば、自室っぽい場所からゲームがスタートする。とりあえず深夜のファミレスバイトに行かなければいけないらしい。
「えっと、道はこっちであってますかね」
<そっちは違うね>
<なにもないよ>
<右やね>
「失礼しました。こうも暗いと迷いますね」
<方向音痴なんか?>
<マップとかないからな>
「方向音痴では……ないと思います。でも初めての道を歩くのは苦手ですね」
道を進めば、一軒だけ明るいお店が見えてくる。どうやらここが目的地で間違いないようだ。
「えっと、バックヤードから入って。バイトの先輩らしき人がいますね」
会話などはあまり目立った要素はない。ただ悪い噂があったりするくらいだ。純日本製のゲームだけあって、日本語に違和感もなくスムーズに物語が進んでいく。
ゲームの指示通りにしていれば一日目は終わり、何も起きないことにすこしがっかりしながら日を進めた。
<こ、こいつ……>
<方向音痴とか言ってごめんなさい>
「えっ?皆さん突然どうしたんですか」
二日目も昨日の道を通ってバイト先に向かっていたところ、コメント欄がざわつきはじめる。もしや何か要素を取り逃したかと思い焦って、一度立ち止まりコメント欄をしっかりと読む。
<二日目にして道を覚えた?>
<だいたいのプレイヤーはここで迷うんだけどな>
<道の把握完璧すぎて笑うわ>
「た、たしかに迷いやすい道だとは思いますけど、意外と覚えるマークは多く設置されてますよ?」
<ここで20分迷い続けた俺……>
<某箱の犬型Vとか最終日までコメントに介護されないとダメだったのに>
<頭脳の差を感じる……>
まあ確かに不親切なゲームだとは思う。しかし、その不親切さが、ゲームっぽさを削ぎ落としてくれている気もする。つまりは、何か起きそうで何も起きてないという状況の演出が上手い。
「あれっ今日は先輩がいないんですね」
<あっ>
<ここは>
コメントを見る暇もなく、突然目の前に顔がドアップで映る。扉の裏側に隠れていた先輩が、脅かしてきたというよくある描写だった。
<筑紫さん?>
<あれ?>
<ぐるぐる?>
「……」
<目開いたままやが>
<画面止まった?>
<もしもーし>
「……」
<もしかして:気絶>
<びっくりする系ダメな感じか?>
<メディーック!>
「っとすみません。大丈夫です。音声も聞こえてますか?」
<良かった>
<動いてるし聞こえてるよ>
「よし、それじゃあ進めていきますね」
二日目も、不穏なニュースや不審な客が来た以外は、何事もなく終わりを迎えた。
そして来る三日目。ここで大きく事態は動き始める。
「……なんですかね」
いつもどおりバイト先に向かう道。しかしなぜか背中がぞわぞわとする。このゲームにおいて視線なんて概念はないはずだが、何かに見られているようで落ち着かない。
<どうした?>
<何かトラブル?>
「いえ、でもなんか、見られてる気がするというか」
<筑紫ちゃんも怖がりだったか>
<大丈夫、俺たちがついてるよ>
<かわいい>
「うーん」
違和感は店に近づいても晴れなかった。それに、やたらとコメント欄の流れが速いのも気になる。速すぎて全てのコメントを読みきれないでいる。
「ちょっと、いいですかね」
<えっ?来た道戻るの?>
<そっち何もなかったよね?>
「すみません。どうしても気になるので。時間の無駄だったらすみません」
<そっち行くの?>
<だだだ大丈夫おれたちがついててて>
<マジ?正気?ニュータイプ?>
「確かここの曲がり角を逆に」
普段通らない道に入った瞬間だった。目の前に手が無数にあらわれ道の奥へと強制的に運ばれていく。
「えっと……これは?」
<あー>
<なんで気づくかね>
<一周目でこのエンド行く人初めて見た>
「……?」
流れるテキストを読めば、どうやら知らずしらずのうちにエンディングのトリガーを引いてしまったらしい。
「な、なんですかこれ」
<いわゆる取り込まれエンド。無謀にも怪異に突っ込んだ対処法を持たない主人公って感じ>
「な、なるほど。すごいエンディング見ちゃいましたね」
<うん、おかしいんよ>
<これって発動条件何なんだろう>
<三日目までに情報あったっけ?>
「いえ、なんだかこう、見られてる気がしたので」
本当にそうとしか言えない。直感的に進んだだけなのである。
<やはりニュータイプ>
<幽霊との交信やめてもろて>
<というかこれトゥルーエンドミスったときに来るエンドやね>
「なんか、えぇ……と、とりあえずエンディング達成です」
<消化不良>
<とりまおめ>
<こうなりゃもう全エンド耐久よ>
「そ、そうですね!今から全エンド耐久配信に切り替えます!ネタバレコメントもオッケーなのでどしどし指示してください!」
<おい誰だ耐久とか言ったやつ>
<嘘だろ……明日仕事……>
<耐久言い始めたやつ吊るせぇ!>
❍✕△❑
昨晩やったゲームのせいで良くない目覚め方をしながら、朝日を浴びる。コーヒーで目を覚ましながら、軽く背中を伸ばす。変な夢を見たせいか体が凝っている。適当に体操しつつ、SNSを開く。
「ん?」
トレンドに見覚えのある名前がある。というか、私の名前だ。Vtuberのトピックで私の名前が上位に上がっていた。
「何かしましたっけ」
あまり自分からはしないのだが、エゴサというものをしてみる。数分もすれば、だいたいの情報は集め終わった。
問題となっているのは昨日のホラゲー配信だった。そのホラゲー配信の切り抜き動画がとてつもない伸びを見せていた。
私が固まったところから、ゲーム画面に映り込む影、たまにボソボソと聞こえる謎の声。様々な違和感が配信内に散りばめられている。その動画のコメント欄は、実際に起きている怪奇現象派と私の悪戯派で口論になっていた。
「ふふっ、計画通り」
私はどんどん再生数が伸びていく今回の動画を見守りながら、笑みを浮かべつつコーヒーを啜った。




