電撃セットアップ
世界大会から帰ってきたezこと私を出向かえたのは、優勝した栄誉に対する賞賛の声ではなかった。一度ついた疑惑は、たとえ大会運営の入念なチェックを超えた後でも振り払えぬままだった。
ニュース記事は私のことを面白おかしく書き記し、またたく間にSNSで拡散。知り合いからは、SMSで何件もメッセージが届いていた。その後二度と、競技シーンに私が出ることもなくなってしまった。
「それでもゲームはやめなかった、と」
「は、はい。好きなものは好きなので」
目の前のスーツの女性に、私はそう答える。今私は、いわゆる面接というものを受けていた。
「実力や実績は申し分ないですが、配信等の経験はないと」
「人に魅せるようなプレイは出来ないので」
「十分魅力があるプレイだと思いますけどね……」
面接官はそう言いながら、ノートPCで私が送った動画を再生する。某人気バトルロワイヤルゲームでの一試合を録画したもので、動画編集の知識もなかったので無編集のままだ。
「わかりました。面接は以上になります」
「ありがとうございました」
「後日また連絡が行くと思いますので、電話をとれるようにしておいてください」
会議室のような場所から退室すると、ちょうど玄関から女子高生二人組が入ってきたところだった。
「あっもしかして面接にきた人?」
「大学生?」
事前に調べておいたから、声を聞けばすぐにわかった。このVtuber事務所を支える、初期メンバーの姉妹だ。
「はい。面接はさっき終わりました」
「へー?ゲームは強いの?」
姉のほうが、こちらを値踏みするような視線を向けてくる。
「多少はできます」
「ふーん。でもうちの妹に勝てるかな!」
「ほう、妹さん?」
「なんたって、あのezの再来って言われたくらいなんだからね!」
「姉さん……恥ずかしいから言わないでよ」
妹の反応を見るに、姉のたわ言というわけではないらしい。
「ez……ですか?」
「知らないの?あのezだよ?」
「あの?」
「そう!突然競技シーンに突如として現れたプロフィール不明の女性プロゲーマー!初参加の大会で勝ち続けて、そのまま世界一位の座までたどりついたゲーマーの憧れだよ」
花粉症気味なところもあってマスクをつけていて本当によかった。数年経ってるとはいえ、顔つきが急激に変わることはないだろうから。
「もしかして本当に知らない?」
「いえいえ、知ってますよ。でも確か、チート疑惑で一線を退いたとか」
「そ、そんなことない!」
いままで静かにしていた妹のほうが、突然大声を上げた。
何か言葉を続けようとしていたようだが、その声を聞きつけた面接官に止められる。
「もう二人とも、迷惑かけないのよ」
「大丈夫だよ。わかってるってマネージャー」
「迷惑じゃない、ですよね?」
アハハと愛想笑いで返すと、妹のほうからの視線が強くなる。
まさかこのあとファミレスで小一時間説教をうけるとは、そのときの私には想像もつかなかった。
❍☓△❑
後日無事に事務所からの電話を受け取った私は、Vtuberとしての自分と対面することとなった。
「これが、私ですか」
「ええ。あなたの採用前に概形は出来ていたんですけど、絵師さんから仕上げてから見せてあげたいと強く頼まれましたので」
紫髪でおとなしそうな女の子は、筑紫みやという名前らしい。薄めの彩色と表情から、おとなしそうな印象を受ける。男の子に人気の出そうなデザインと言えるだろう。
「でもこんなかわいい子と私の声で合いますかね」
「そこは私と、そして絵師さんからのお墨付きですよ」
「絵師さんからも?」
「ええ。仕上げに入る前に面接用のサンプルボイスを送ったので、声に合わせて微調整されたそうです」
自分の声に対しての評価なんて、特に考えたこともないから主観的には何も言えなかった。だが、マネージャーさんと絵師さんの二人から認められたとなれば、私に合う見た目なのだろう。まあ、現実では絶対にこんな可愛い系の格好はしないのだけれど。
「では初配信の日程を決めましょうか。なにか希望はありますか?」
「えっと、いつでもいいんですかね?」
「ええもちろん。何なら明日からでも大丈夫ですよ」
「じゃあそうしましょう」
「ただ明日からというのはそちらの準備が……えっ?」
「大丈夫です。明日から行けます」
「……マジですか?」
「駄目でしょうか」
「いや、いいですね。電撃参入、謎の凄腕ゲーマー。話題性は十分ですね」
マネージャーさんはニヤリと笑うと、急いでスマートフォンに何かを書き込み始めた。
「各方面への準備は私がしておきます。だから筑紫さんは自分のデビュー配信にだけ専念してくださいね」
「あの、本当に大丈夫なのでしょうか?忙しいのなら後日でも大丈夫ですよ?」
「問題ないと私が言ったら問題ないんですよ。それより、配信については大丈夫なんですか?経験がないんでしょう?」
「なんとかなりそうです。凝ったものにはできないかもしれませんが」
「素材等はどうしましょうか」
「素材?」
「……本当に明日デビューする気ですか?」
「ええ、まあ」
「基本的には自己紹介をするものなので、プロフィールをまとめたスライドなどを用意することになるのですが」
「ああ、なるほど。そういうことですか」
確かに、多くのVtuberがデビュー配信として自己紹介配信をする。自分を知ってもらうということは、何よりも大事だからだ。
しかし、普通ではインパクトはでない。
「私に一つ、考えがあります」
そのときのマネージャーは、期待と不安が半々に混ざりあった複雑な表情をしていたと思う。




