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コメント欄と会話()

「はいこんばんは。画面と音に問題はないでしょうか?」


<こん~>

<今日はコーチング枠?>

<見たかったんよね>


「はい、問題なさそうで何よりです。それじゃあ通話に入りますね~」


 大会用のルームに入り、すでに3人が揃っているチャンネルに接続する。しかし、今日は今までと違って通話のマイクはミュートしたままである。


「すでに3人には説明してますが、今日はチームの会話に入るつもりはありません。後日アーカイブを見ながら後々に時短でコーチングするつもりです」


<なるほどね>

<たまに見るよねその形式>

<試合ごとにしないとフィードバック遅くならない?>


「確かに今日の試合で修正はできませんが、逆にこれまでは情報を入れすぎてて頭パンクしてた人がいたので……」


<ララちゃん……>

<真面目で努力家すぎたんや>

<後半の試合とか明らかに集中力切れてたもんね>


 ここ数日、ララちゃんをコーチングし続けて思ったことだ。私が教える量を調節できないことが原因だが、つい多く話してしまう癖が治らない。それで考えた結果、リアルタイムのコーチングではなく、後に落ち着いた状態で、内容をしっかりまとめたコーチングをすることにした。


<こんララ~>

<ララちゃん枠とってない?>

<ハルちゃんも枠ないわ>


 これも、3人にお願いしたことだ。コメント欄が荒れているのなら、枠を取らなければいい。3人とも人気は十分あるので、数日間の枠がなかったところで支障はない。


「それでは一戦目ですね。降下位置は……、大丈夫そうですね」


 初手のムーブは安定してきている。あまり美味しくない場所に降りていることもあるが、そこそこな広さのランドマーク一つを、3人でしっかりと分割して漁れている。

 しかし、問題は周りのランドマークに降りる部隊が強豪ぞろいであることだ。どの方向に移動してもファイトに勝てず、最下位を取り続けた。


<あっジャンプタワー使うんだ>

<コーチングの成果?>


「はい。というより、他のチームの行動分析の結果ですね」


<他チーム?>

<いつの間に>

<もしかしなくても全部のチームの動きってこと!?>


「はい。皆さん親切なことに配信のアーカイブを残してくれているので、重要な部分だけですが見てみました。ですのでここから移動すれば……」


 まるで穴のように空いた一つの建物。そこに空からチームが舞い降りる。動きの解析結果からして、ララちゃんたちのチームが最も早くここへたどり着ける。

 そして、建物内において基本的には攻めより守りのほうが有利だ。まあ一部のトッププロを除いてという脚注は付くのだが。


<おお、ここは>

<かの有名なあのチームのスポットか>

<安置さえ寄れば完璧>


「お気づきの方もいますね。そうです。この2~3日で直近の競技シーンを見てきました。うちのチームに最も足りない爆発的な攻め力を補うにはいい作戦だと思います」


 攻めに関して言えば、ララちゃん以外の2人は多少は戦える。どちらもこのバトロワ配信で人気を得ているだけはある。しかし、このゲームにおいて人数差というのはそう覆せるものではない。特に今回のようなカスタムゲームなら尚更だ。


「ちなみにこれはtoreddoさんの作戦です。動きの分析自体は私ですけどね」


<toreddoさん……>

<さすがは元プロ>

<結局は筑紫ちゃんの判断次第か>


「はい。というか今日の最初のマッチに関しては本当に私の判断のみで動いてるようなものですよ」


 指示通りに移動し、指示通りに戦い、そして……


<おっ1チーム落とした!>

<成長してんな>

<完全に3on1押し付けてるな>


 指示通りに勝つ。それこそが今回のマッチで求めたことだ。


「あとは負けますけどね」


<あっ>

<今度は完全に1人ずつ死んでるな>

<逃げた>


「おっと、toreddoさんが1人生存ですか。これは想定外ですが……そっちはマズいんですよねぇ」


 必死に逃げた先には、優勝予想もされている強豪チームが待ち構えていた。不意の遭遇戦に勝てるわけもなく、toreddoさんまでも落とされる。


「ナイファイですね。GG」


 そう言いながらも、見えるようにしたメモアプリにアドバイスを書き込んでいく。3人のボイスチャットでは、ララちゃんが話題を振って雑談が盛り上がっていた。


<コーチ……;;>

<雑談くらいには混ざってもいいんやで>

<ララちゃんまじムードメーカーよな>


「ララちゃんは信頼してますよ。彼女がいる限りチームの雰囲気が悪くなることはないでしょうから」


 ただし、いろいろと1人で背負ってしまうところがある。先日も、皆との練習が終わったあとにコメント欄に対して注意喚起をしていた。しかし、それが仇となってモデレーターの仕事が増えたのは言うまでもない。


「さて、あとは……」


 すでに先程からチラチラと見えている私に対する批判コメント。モデレーターを渡している人には、わざと泳がせるように言っている。常連さんもスルーしてくれているので、ありがたい限りだ。


「まずはこのコメントから行きますか」


 私が使っているコメントビューアには、以前のコメントを表示するという便利な機能がある。私は無作為に批判コメントをとりあげ、その過去のコメントごと配信に載せる。


<<撃ち合いよっわ>>

<<元プロいてこれとかマジ?>>

<<コーチ入れてないチームにすら負けてて草>>


「わぁ……す、すごいですね」


<晒しあげ!?>

<やってることやばくて草>

<画面見えちゃってるよ!>


「あっすみません。説明してなかったですよね」


 私は配信前のツイートの話をする。


「言いましたよね?暇な人とお話すると」


<お話(晒し上げ)>

<暇な人ってそういう>

<まあ暇人には変わりないけどさぁ>


「ちなみに同じことが他の人にもできますからね?」


<ヒエッ>

<ユルシテ……>

<ご勘弁願いたい>


「冗談です。常連さんやララちゃんの枠によくいる人は把握してますし」


<把握されてるのは草>

<ララちゃんとこのリスナーも逃げて>


「さて、脱線はそこまでにしておきますか」


 晒し上げる前まではとてつもない頻度でコメントしていた彼は、今はダンマリである。


「まあ、こんな要領でマッチまでの空き時間はお話していこうと思います」


 一気にコメント欄から人が消える。先程まで声の大きかった人がどんどん黙り込んでいく。違うそうじゃない。私がしたいのは『お話』だ。


「おっ君ちょうどいいですね」


 未だに大口を叩く捨てアカウント。私はその一つをピックアップしてコメントを画面に強調表示した。



❍✕△❑



V○uver餡スレ#499

20:名無しの餡

  tks、批判コメント晒し上げ中


21:名無しの餡

  なにそれ面白そう


22:名無しの餡

  今度のバトロワ大会のやつか


23:名無しの餡

  FPS民の民度が知れるコメント欄してたかんな


24:名無しの餡

  おまいう


25:名無しの餡

  tksのコーチングが素人丸出しなのが悪い


26:名無しの餡

  逆に玄人なコーチってなんだよ……プロチームから引っ張ってくるか?


27:名無しの餡

  実際それやってるチームいたろ


28:名無しの餡

  tksこのゲームのカスタムマッチ未経験なのに引っ張り出されてて草なんだよな


29:名無しの餡

  tks、批判ボーイを1人泣かせる


30:名無しの餡

  いいぞーもっとやれー


31:名無しの餡

  ちくしょうもどかしいな、俺、ちょっと雰囲気高めてきます


32:名無しの餡

  もしかして今コメント晒し上げられてるの31か?


33:名無しの餡

  うわっ


34:名無しの餡

  31、息してるか?


35:名無しの餡

  なんだこの地図……全部のチームの動き?


36:名無しの餡

  確かにこの理論なら31への反論になるわな


37:名無しの餡

  囲まれてでも耐えられるポジションに行く戦法か


38:名無しの餡

  31です。なんとか生きてます


39:名無しの餡

  論破された感想をどうぞ


40:名無しの餡

  いやおかしいだろ。あんなん想像できるか?


41:名無しの餡

  この敵チームのムーブ予想図を一戦目の前に書いてたってマジ?


42:名無しの餡

  今リアタイで二戦目を見てるけど、だいたいのチームが予想図と同じ動きしてるんやが……


43:名無しの餡

  とうとう人外もVになる時代か


44:名無しの餡

  人外フェチはそっちの板に行って、どうぞ


45:名無しの餡

  でもこんなアンチを増やすような行為、運営が怒るんじゃね?


46:名無しの餡

  それがコメント欄にV○G運営さんいるんだよな


47:名無しの餡

  運営公認でアンチを殴るVがいるらしい


48:名無しの餡

  案件とかこなくなりそう


49:名無しの餡

  どうして運営はGOサインだしたんや


50:名無しの餡

  V○Gには失望したわ、出資やめよ


51:名無しの餡

  野生の石油王ニキは中東に帰ってもろて


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