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カスタム1日目

 そのあとすぐに来たサーバー招待に、私は参加申請を通す。入ってみれば、動画投稿サイトで見た名前がいくつも連なっていた。このバトロワの現役プロの名前をいくつか見えるあたり、コーチをつけているチームが多いようだ。


「改めてよろしくお願いします」


「おねがいするっす」


「お願いね、筑紫ちゃん」


「……お願いします」



 不安である。特にハルさんとのコミュニケーションの面だ。

 私との会話もそうだが、この3人スクワッドのゲームとしてコミュニケーションというのは勝利に必要だ。私はララちゃんとのDMを開く。


<<ララちゃん>>

<<どうした?>>

<<ハルさんっていつもこうなんですか?>>

<<うーん。だいたいこんな感じかなぁ>>

<<緊張とかではなく?>>

<<独り言は多いけど会話が少ない感じ>>

<<なるほど>>


 それならまだなんとかなる。特にこっちにはコミュニケーション強者のララちゃんがいるから尚更だ。


「えっと。まずは構成について教えて下さい」


「そうっすね。俺が前衛、ハルさんが後衛、ララちゃんがサポートのつもりっす」


 よくあるメタ構成だ。移動力の高い前衛と、帰ってくる場所を守る後衛。そしてサポートとして索敵力のあるキャラでどの立ち回りでも適応できる。


「そうですね……事前に顔合わせとかはしてますか?」


「はい。それで、ハルさんとララちゃんの役割を交代した感じっす」


 その判断は理解できる。後衛キャラの硬さ、ファイトの強さは試合の安定感に関わるからだ。


「とりあえず一戦目は何も言わずに見てます」


 この事前カスタム中は、ゴースティングさえしなければどのようなコーチングも可能だ。しかし、あえて一戦目はこのチームの分析に注力することに決めた。



❍✕△❑



「いやー、あの人強すぎっすよ」


「何も出来なかったごめん!」


「……私が最初にダウンしちゃった」


 一戦目の結果は、14位という微妙な位置だった。大会のルールでは、10位から順位ポイントが付くので、せめてそこまでは上げたいところだ。


「筑紫ちゃん、何か気づいたことある?」


「うーん」


「……筑紫ちゃん?」


 試合内容を見て、率直に思ったことを言うか迷う。同僚として言うべきとは思えない。しかし、コーチとしては言うべきだ。


「いいっすよ思ったこと全部言って。コーチをお願いしたのはこっちなんすから」


「そうですか。じゃあ言いますよ?」


「えっ……なんか深刻そうっすね」


 深刻な問題だ。そう、とても深刻だ。


「まずtoreddoさん。うるさいです。報告が多すぎて他2人がついていけてないです。たしか現役の頃はIGLでしたよね。理解力のあるチームメイトだからこそできたのであって、ハルさんとララちゃんに同じ報告の仕方をしていては意味がないです」


 私は返事を聞かぬまま言葉を続ける。


「ハルさんは報告なさすぎです。せっかくのダメージトレードが全て無駄になってます。それに前に出過ぎです。1人で攻めるキャラじゃなくて守るキャラなんですから、コミュニケーションをとって引いてください」


「うわぁ……すごい沢山言うね。それで私は?」


 流石に一気に話しすぎたようで、止めるようにララちゃんが口を挟む。


「ララちゃんですか?単純に弱いです」


「うぐぅ……たしかにそうだけどさぁ」


「これが、コーチ目線での私の意見です……2人とも生きてますか?」


「瀕死っす」


「グサリときた……」


 どうやら3タテしてしまったらしい。


「それで、ここからがララちゃんの同僚としての意見なんですが……」


 最初にそう前置いてから、言葉をつなぐ。


「この構成で勝ちたいですか?それとも、新しい構成を試してみませんか?」


 悪魔の提案を、私はすることにした。



❍✕△❑



「うわぁ負けた……」


「完敗っす」


「……ほんとにこの構成で勝てるの?」


 私の提案した構成でいった結果。それ以降のカスタム試合を最下位で帰ってきた。しかしそれに反し、私は思わず笑みを浮かべてしまっていた。


「グッドゲームでした。結果は結果ですが、私の考えが間違ってなかったようで安心しました」


「ほんとにっすか?正直俺は疑ってるっすよ。やっぱり最初の構成がいいんじゃないかって」


「まあ、そう思いますよね」


 そう、このままでは勝てない。それどころか余裕で最下位だろう。しかし、今はバラバラのピースでしかない3人が、この1週間で噛み合うようになればいいのだ。


「toreddoさんには申し訳ないんですけど、一旦2人をお借りしていいですか?」


「えっ?まあ俺はこの後用事なんでどうせ抜けるっすけど」


「それはちょうど良かった。それじゃあ2人をコソ練させときます」


「相手に言ってコソ練ってそれコッソリになってないっす」


 見事なツッコミだと思いながら、落ちていくtoreddoさんを見送る。


「さて、まずはカジュアルマッチからいきましょうか」


 矯正トレーニングの開始だ。



❍✕△❑



「東側何人!」


「えっと……1人です」


「南は!」


「み、見えない!」


「よし。それじゃあピンの位置に移動します」


「あーっ!待ってよ筑紫ちゃん」


「ララちゃんは前衛キャラの真後ろがポジションですか?」


「ご、ゴメン!」


 そうやりとりしている間に、後ろから銃弾が飛び交う。


「っ……!」


「ハルさん死にそうなら死にそうって言う!」


「し、死にそう!」


「わかったシールド投げるね!」


 半球状のシールドが展開され、ダウンしかけたハルさんをララちゃんがカバーする。


「筑紫ちゃん!この後は!?」


「ポータル繋いでます。回復したら入ってください」


「えっ……本当だ」


 シールドを展開した時点で既に繋ぎはじめたポータルで、安全な位置に味方を引っ張る。


「筑紫ちゃんのポータル早すぎ……」


「そんなことないです。toreddoさんも何回か似たポータルを繋いでましたよ」


「ほんとに?気づかなかった……」


 このポータルは、判断が早ければ早いほど生存に直結する。しかし、敵のいない位置が分かっていることと味方が人数不利でも耐えることが必要だ。


「toreddoさん、流石の元プロだけあって判断はピカイチなんです。あとは2人次第ですよ」


「うん……ありがとう筑紫ちゃん」


「感謝はまだ早いですよ」


 安全地帯も、時間が経てば危険地帯へと直ぐに変化する。


「北の扉から索敵お願いします」


「……」


「返事は?」


「ひゃ、ひゃい」


 完全にハルさんを萎縮させてしまってる。しかし許してほしい。これは彼女への矯正なのだから。


「……っ!北から来てる、2部隊」


 この地形でそうくると……今私たちが居座っているこの建物を死にものぐるいで取りに来るはずだ。


「ララちゃん、ウルトを構えてください。3秒後に撃ってから、すぐに今の足元にシールドを」


「うん、了解!」


 空爆が始まり、指示通りにシールドが展開する。


「それじゃあ私は行ってきます」


「えっ……?」


「あっ、ダメ!敵が目の前の建物で止まってる!」


 ハルさんの必死の報告を聞き、私は足を止める。


「というのは冗談です」


 ハルさんは明らかに前衛寄りのプレイスタイルだ。だからこそ、前衛の一歩後ろに立つことで視界を広げることができる。索敵のスキルも組み合わせれば、最強の索敵アタッカーだ。


「ナイス報告です、ハルさん」


「う……」


 だがやはり、萎縮させてるのは変わらないらしい。残念である。




 そのあと明らかに上位帯の敵に轢き殺された私たちは、今日のところはと言って解散することにした。


「しかし……」


 最後の試合、上位陣のプレイヤー相手だったとはいえ勝てない訳ではなかった。


「ここでこう。こうスキルが来てたからここに居て、私のスキルでこう」


 録画データを何度も見直しながら、夜が更けていく。満足できるまで考えきった頃には、既に朝日が昇り始めていた。


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