先輩と初コラボ
キャラピックが終わり降下が開始する。先輩は固定のキャラ、野良の人はメタの強キャラ、そして私が回復スキルを持つ唯一のキャラクターだ。もちろん先輩をサポートするためのキャラピックである。
「やはり被せてきてるパーティがあるのと、それから隣の集落降りが3パーティですね」
「降りる場所逸らした方がいいかな?」
先輩が向かってるのは、マップのはずれだが物資がなかなか美味しい場所である。確かにパーティが集まる場所だが、この数は明らかに多すぎる。
なにより不安要素が……
試合開始前に表示されるトップ部隊に、私の知る名前があったことだ。名は『ez』。もちろん、私自身がezなので偽物なのだが、厄介なことにこの名前のアンチを私は記憶している。
「いえ、先輩はここを漁ってください。死ぬ気で守ります」
ピンを指してそう指示すれば、先輩はうんと返事をする。どうやらIGLは任せるつもりらしい。
「味方さんがそっちに行くなら……私はこっち漁ります」
目標を見定め、雨粒のように急降下する。後出しじゃんけんが普通は強いゲームなのだが、この最初の降下後だけは話が違う。
ショットガンに……サブマシンガン。やはりここの範囲あたりの漁り効率は最高だ。
そして、私ではなく先輩にかぶせてきた連中は……予想通り3人で先輩を倒しに向かっている。しかし、物資エリアに立ち入らせていないので、そのうち2人は丸腰だ。
「ごめん!私死んだ!」
「守るって言ったでしょう!」
一心に向かってくる3人に怖気づいてる先輩に、私はそう叫ぶ。
まずはSMGで大きく削り、そのまま一人をダウンまで持っていく。運良くそれが唯一の武器持ちだったらしく、後の二人は拳を振りかぶって走ってくる。
そんな動きは、ショットガンの前では無意味なのは自明の理だ。
「た、たすかった……」
「まだ落ち着くには早いですよ」
私は、遠目で見つけた敵をピンで知らせる。
「うそっ!早すぎでしょ」
「物資はほどほどに漁って漁夫メインで来た部隊でしょう。ただ、こっちも戦闘のせいで十分に漁れてないですね」
私はショットガンとその弾を落とす。
「持っててください。それならチャージをすれば遠距離もある程度撃てるので」
「う、うん」
味方の野良?彼なら速攻で自殺していった。まあ、先程まで先輩の配信に敵側としてIDが出ていたし、そういうことなのだろう。
「じゃあ戦いにいきますよ。回復は持ってますか?」
「少しだけ」
「十分です。それじゃあ、行きましょう」
次の部隊の壊滅まで、あと5分。
❍✕△❑
私の手は震えていた。それは、あの憧れのezと共にゲームをしているからだけではなかった。
明らかに敵を殺しやすい。
オーダーのうまさや敵の動きの読みだけではない。ほどほどに敵を削ってはキルをゆずってくれる。私はピンの指された方向に銃を向けておけば、勝手に敵がレティクルに飛び込んでくる。
「これは確かに、チートだわ」
「ん?先輩なにか言いました?」
「えっ!いや、なんでもないよ」
<チート言うたべ>
<まあその気持ちはわからんでもない>
<IGL、DPS、サポート、全部一人でやってるよ……>
「本当に、筑紫ちゃんって強いです」
「そうでもないですよ。プロの方々に比べればまだまだです」
「でも、筑紫ちゃんは他のゲームも上手だよね」
「まあ、それしか取り柄がないもので」
<とうとう慣れてきやがった>
<雑談しながら敵壊滅してるが>
<もはや二人の間に言葉は不要ってわけね>
「えっあっあれ?」
「どうかしましたか先輩」
「えっと……あと5キルだ」
いつの間に私こんなにキルしたんだろう。でも、まるで相手がこちらの土俵に飛び込んできてくれるかのようで、私はただ構えておくだけで良い。
「先輩、次、東の方角です。おそらく2人」
「えっ。は、はい」
東の方にある道を向けば、3秒後に敵が顔を見せる。と同時に爆発。
「な、なに?」
「私のグレネードです。多分両方削れてるのでやっちゃってください」
とにかく私は左クリックを押しつづける。それだけで、相手は散っていく。
「……っ!先輩、危ない!」
気が緩んでいた。私は射線管理を怠り、頭一発でダウンしてしまう物資武器に貫かれてしまった。敵の位置は遠く、先程までの残り具合から3人全員生存しているだろう。そして……
キルログに流れる、ezの文字。
私をダウンさせたのは、『ez』を騙る偽物だった。
「ごめん、筑紫ちゃん」
「いいんです。こちらこそすみません、守れませんでした」
とても悔しそうな声で筑紫ちゃんは謝ってくる。こんなにも思いやりのある人を巻き込んでしまって、私は本当にわがままだ。
「あ、あれ……」
「どうしました?」
「う、うん。いや、大丈夫……」
そんなわがままなばかりの自分が情けなくて、私の頬を涙が伝っていた。私はバレないようにマイクをミュートした。
「でも先輩、まだ終わりじゃないですよ」
ハッとなり顔をあげる。画面の向こうでは、私を守るように筑紫ちゃんのキャラが立っていた。
「ほら、起きてください。あとたったの3キルなんですから」
筑紫ちゃんのキャラの特殊効果により、安全に蘇生が行われる。しかも特殊なアイテムによって、体力やシールドも半分回復した状態でだ。
「これ、回復です。少し隠れて巻いててください」
「う、うん」
私は渡された全回復アイテムを使う。10秒。短いようで長いその時間が過ぎた頃、ダウンログが流れる。
「筑紫ちゃん……!」
「こっちにこないで!」
「……っ!」
「私のキルを取りに南から1人、西から2人来ます。あとはお願いしますね」
いそいで蘇生しようとするも、目の前で撃ち抜かれる。そのまま、筑紫ちゃんは確定キルされ、デスボックスとなる。
「先輩、落ち着いてマップを見ればわかるはずです」
すぅと息を吸って、ゆっくり吐く。左上に表示されたマップを見れば、すでに安全地帯の円が狭まってきていた。
この円は見たことがある。たしか、筑紫ちゃんのデビュー配信のときに見た。確かあのときはここに1人と……それからここから2人……
あまり考えずに、レティクルを向けて見えた敵に銃弾を打ち込む。
「ナイスです、先輩」
「あ……えっ?」
「チャンピオンですよ!電撃バッジもです」
「ああ、うん。ありがとう」
なんだか、実感がわかない。本当に、記憶どおりに反射で撃っただけだった。
<つこうた?>
<完全に敵の位置わかってて草>
<つ、つえーーーー!>
コメント欄がいつにもまして加速しているが、それを読む余裕すらなかった。
「そ、それじゃあ目標達成ということで今日はここまで、です。長時間ありがとうございましたー」
夢うつつのまま、配信を閉じる。
『それじゃあ私も失礼しますね』
それだけチャットして、筑紫ちゃんはすぐにvcを去っていってしまった。お礼すらまだ言えてないのに。
「ああ……終わったのか」
ふらふらと立ち上がって、そのままベッドにダイブする。そのあとすぐに、意識はプツリと途絶えた。