easy
ハーメルンにて同名義で先行連載してます。なろうでは、追いつくまでは毎日18時に投稿します。
連絡用→@R_hatanagisa
*注意事項
・この小説はフィクションです。実在の団体、人物、地名等がそのまま、もしくは意図して似せて描写されることがありますが、一切関係ありません。
・小説の構成上、Vtuberの中の人要素・現実での話が出てきます。そういったものが苦手な方は、早めにブラウザバックをすることをオススメします。
「はい、おはようございます。画面と音、大丈夫ですかね?」
サイドモニターに目をやると、<わこつー><おはよう(深夜)><見えてるよー>とコメントが流れていく。
「大丈夫そうなので今日も始めていきますね」
配信画面上の私が、現実の私の表情と同じように笑みを浮かべる。
<今日は何をやるの?>
「はい、今日はですね、このゲームをやっていこうと思います」
メインモニターには、今日のゲームのタイトル画面が映し出されている。リリースされたばかりだからなのか、同時接続数が普段よりも多い気がする。
「まだ設定をいじったくらいなので完全初見なのですが、難易度はどれがいいんですかね?」
<一番上希望>
<悪いことは言わん。ソロなら一番簡単なのにしとけ?>
<漢は黙って一番上>
<unrealityはマルチ前提だよ>
<でも見たいよな>
「ええっと、それでは多数決によりこのunrealityという難易度でやっていきますね~」
<R.I.P>
<今のうちに明日のご飯3食分買ってくるか>
<マネさんはどこだ!はやく止めてあげて!>
<早まるな!>
「随分と手応えがありそうですねぇ。これは楽しみです」
<まあ、そうだよなぁ>
<生粋のゲーマーで安心する>
❍✕△❑
「はーっ!これで全部終わりましたね。長らくご視聴ありがとうございました」
<まさか本当にソロクリアするとは恐れ入った>
<もしかしてつこうた?>
<使ってたらもっと早かったはずなんだよなぁ>
<てか連続視聴ニキは生きてるのか?>
「皆さん大げさですね。ちゃんとコメント欄も読んでいたので、何人かずっと居てくれた人も把握してますよ」
<まじかよ>
<あと1時間くらいあったらヤバかった>
<おいおい、この程度で音を上げるとはまだまだやな>
<こいつ……あの3日間連続配信の経験者ニキでは?>
<ヤベエのしかいない>
「はいはい。私の先輩の話はそれくらいにしてください。それじゃあ最後に、一つ発表してから終わりますね」
<おっ?発表?>
<なんだろ、期待>
<もしや……>
<この時期ってなるとアレかな?>
「おっと、察しが良い人もいるみたいですね。そうです。今度のカジュアル大会にお呼ばれしたので、初参戦となります。チームについてはリーダーからの発表が後々あると思いますので、それまで乞うご期待、といったところですかね」
今やVtuber界隈では知らぬ人はいない最大級のストリーマーカップ。次回のその大会に私が出ることを発表すると、またたく間にSNSで話題を呼んだ。
「それでは皆さん。よい夜を~」
<良い夜を~>
<お疲れ様でした>
<まさか昼夜逆転が一周回って夜に寝ることになるとは>
流れるコメントを見ながら、私は配信終了ボタンを押した。椅子の背もたれに体重を預けながら、ヘッドホンを外す。クーラーの風が心地よい。
しばらくそうしていると、まだカメラがつけっぱなしであったことに気がつく。画面越しの私は、今の疲れ切った私を鏡のように映し出していた。
「さすがに……長時間やりすぎちゃったな」
椅子の近くには、配信中に飲み干したペットボトルが散乱していた。椅子にもたれかかりながらそれらを拾ってゴミ箱に投げ入れる。ついつい長時間配信中は細かいことがおろそかになってしまう。よくない癖だと思いつつも、やめられないあたり配信というものが好きになってきているらしい。
いくつかの事務連絡を終えて、床につく。その日は久々に、懐かしい夢を見た。
❍✕△❑
『さあとうとうやってきました、チャンピオンシップ・ファイナルステージ最終戦!』
『我々は日本の選手に偏った実況になると思いますが、ご了承ください』
『注目の選手はやはりXゲーミングのA選手でしょうか』
『日本最大手チームのエースですからね、期待せざるを得ません』
『そうですよね。是非最終戦でもそのエイム力を魅せてほしいものです』
『あともう1人……』
『さあ試合は最終盤!残っているのはこの5人!どう見ますか』
『日本の選手が2人も残っていますね。A選手と、それからez選手ですか』
『どちらも注目選手です。さあゲームエンドまで残り僅か!ややez選手が不利な場所取りか?』
敵の位置は見えている、くっきりと。そして右手も左手も思い通りに動く。
『ez選手はかなり不利ですね。あそこでは他の相手の位置は見えないでしょう』
『対してA選手はとてもいい位置、確実に順位があがるでしょう!』
『おっと?ez選手動いた!ゲームを動かすべく最初に動いたぁ!』
まずは近くの1人、そして次にあの高台で見下ろしてる相手。
『ありえない!彼女には何が見えているのでしょうか!』
『A選手危ない……!ああ、こんなことがあるのでしょうか』
『ヘッドショットでしたか?何が起きたんでしょうか』
『唯一見えた頭の頂点を狙って、弾の落下を使いながら撃ち抜きましたね。いや、ありえない。障害物の向こう側まで見えているような動きでした』
あとは建物内の二人。でも私の銃声で上の階の相手はあの窓から顔を出してくるはず。
『ez選手、目にも留まらぬ速さで窓にエイムをあわせているが?』
『ありえません。壁の向こう側は我々の視点からしか見えないはずですが』
『エイムはピッタリと追っています!ありえません!壁越しにエイムが吸い付いています』
このスピード、このタイミングで動くはずだから、撃つべきは……今!
『我々は何を見ているのでしょう!本当に一瞬、たった一瞬窓から頭が出たタイミングでした!』
『ありえない……。彼女の画面には壁が透けて見えているかのようです』
『勝てるわけがありません……残りは物資があまり良くない選手のみ』
アクションがない。想定通りにハイド気味で物資不足みたい。だとすれば、隠れている場所は3箇所。
『ez選手、迷わずに優勝へと、進んでいます!隠れている場所まで一直線です!』
『隠れている選手はワンチャンスにかけてグレネードを持っていますが……』
ここにいるなら、足音を聞いてグレを投げてくる。
『突然の爆発!?優勝!ez選手優勝です!しかし何が起きたのか私にはわかりませんでした!』
『チートだろ……』
『どうしましたか?』
『今、彼女は、一瞬ブッシュから出たグレネードを持った手を撃ち抜いたんです』
『そんなことが可能なんですか!?』
『相手の位置も行動も完全に把握していなければ不可能です。人間業じゃない』
『でもez選手はやってのけたってことですよね?……おっと現地の様子がおかしいですね』
『A選手がez選手に掴みかかっていませんかこれは!』
『CM!スタッフ早くCM!』
「チートするくらいなら辞めちまえ!」
「チート?私は使ってない」
「嘘ばっかり言うんじゃねえ!」
「実力で敵わないからってチート呼ばわりしないで」
そう言って軽く手を振り払ったつもりだった。変に避けられたせいで、手の先が相手の鼻に直撃した。
「お前ぇ!!!」
逆上した相手からの渾身の右フックは、とっさに出した私の細腕だけでは防ぎきれずに脳を揺らした。