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西条家の優雅で喧しい日常  作者: 夢波すずね
第一章 当主の子供たち篇
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第一話 西条晴樹は絵画に魅入られる

今回は、結構気に入っている長男くん、晴樹君のお話です。

その少年は、世界を美しいと感じていた。


空も、草も、虫も、鳥も、花も、建物も、食べ物も、乗り物も、人間も…ありとあらゆる存在、森羅万象、その全ては輝き、美しいと感性が、本能がそう告げていた。

そのせいなのか彼は、どんな残酷な事象、災害、事件をも、“美しい”と感じてしまう。何故だかは彼自身も良く分かっていない。だが彼の目に映るものは全て美しい物へ変換されてしまう。彼はそういう人間だった。

そんな彼の名は、晴樹(はるき)と名付けられた。


「あーもうダメだ!上手く、美しく描けない!ボツだボツ!!」

西条家、アトリエにて、その人物は唸り続けていた。その人物は、とてもしなやかな髪を三つ編みに結び、やや特長的な帽子を見に纏い、時折煙管を手に取ったは吸っていた。

「今日も相変わらずアトリエに籠って作業ですかな?晴樹お坊ちゃま。煙管を吸うなとは申しませんので、せめて換気をされては如何ですか?」

「あーあー、うるさいうるさい、聞こえないぞ僕は。大体そんな小言言いに来たのなら、とっとと帰るがいいさ」

この人は、束縛が特に嫌いで、家に居ることはほとんど無い。だが時折ふらりと戻ってきては、アトリエに引きこもり、絵を描く日々。だが不可思議なことに彼には妻と、子供達がいる。そんな夫、父親で良いのかと此方が不安になってしまう。

「…奥様とお子様方が心配しておりますよ」

「知ったこっちゃないね。大体きちんと生存報告…じゃない、旅行記念の写真やら絵やら送ってるだろ?何が問題なんだ」

「だからこそ、ふらりと戻って来た今、ご家族にお会いになられては?」

「嫌だね」

シュッ、シュッ、シュッ。青、白、緑の絵の具をパレットに広げ、筆を持つと瞬く間にスケッチブックに描かれるのは、とても美しい海岸だった。

「ブラジルにあるサンチョ湾は、世界一美しい海、なんだそうだ。実物は本当に綺麗で美しかったさ。生憎僕は泳げなかったが、水中もゴミや塵ひとつ無い、透き通った海なんだそうだ」

「…はぁ、左様ですか」

「僕はとにかく、美しい物が大好きだ。風景も、人工物も、食事も、人も…何もかも、全て美しいと思っている。そしてそこには…人の営み、子を産み、育てる行為そのものにも」

この方の目には、何もかもが美しく映るのだろう。この私めもきっと。

「あぁ、勘違いしてもらっちゃ困るよ。僕は別に、妻や子供たちを愛していない訳じゃない。愛情は本当に素晴らしく、美しいものだ。ただ絵にするには少々勿体ないだけさ」

「…勿体ないとは、ご自身の家族の絵は描かないポリシーでもお持ちなのですか?」

「そうとは言ってないし、なんなら僕は妻の人物画を描いた事がある。大それた絵画の名前は付けていないが、それでも自信作だ。僕は人物画をそんなに描かないし、描くとしてもぼんやりとした色合いでしか描かない。だが気分転換にビビットな色合いを使ったら見事に上手く描けたってわけさ」

まぁよくそんなにペラペラ喋れるものだ。正直面倒くさいが、彼の絵はピカソやらダ・ヴィンチの様な、異常者の描く絵画に含まれるのだろう。

「あ、今めちゃくちゃ失礼な事考えただろ!顔に出てるぞ!」

「そんな。滅相もございません、晴樹お坊ちゃま。貴方が幼い頃から絵に関して才能があり、世界を受け入れ、愛している事は知っていますとも」

「…まぁいい。話し相手にアンタは最適だな。津鶴(・・)さん。とりあえずこれを飾っておいて欲しい」

「承知致しました」

今出来上がったばかりの水彩画を、ゆっくり持ち上げ、スタンドに立てかける。まるで本物や写真を見ているかのような立体感と透明感。砂浜が照らされてる光沢や、木々が風に揺れてる臨場感など、本当にリアルだ。

「あの新人に一度、絵画を飾るように頼んだら足がもつれたのかすっ転んで、絵が明後日の方向に飛んでって床に落ちた。手先が麻痺ってんのかって思ったよ」

「…あぁ、金井(かない)の事ですか。彼は私が期待している人間ですので、多少の粗相は見逃して下さると有難いです」

「…そこまで言うのなら言及はしないさ。でもアンタは本当になんでも出来るな。1人で持ち上げて飾るなんて。このスケッチブック結構大きいものだぞ?」

「これくらいの重量でしたら、私一人で持てますので」

「…アンタ歳いくつだよ?まぁとにかくギックリ腰になった召使いなんて描きたくもないぞ、僕は」

「描かなくて結構でございます」

よいしょ、と両手で額縁を支え、持ち運ぶ。こういったわがままを仰るのはいつもの事だ。私よりもお若いのですから、自分で持てばいいものを…と思わず口に出してしまいそうになるが、何とか堪える。

「これで宜しいでしょうか?」

「あぁ。ありがとう。」

それだけ告げると、今度はふた周り程小さいサイズのスケッチブックを取り出して、鉛筆を手に持っていた。

「…芸術家の皆様は、随分と頭の回転が早いみたいで。なにかネタでも?」

「アンタを描いてる」

「正気ですか」

動くな、と言わんばかりの目付きで見つめられる。しゅっ、しゅっと鉛筆がスケッチブックを滑る音が響く。

「…アンタ、何年経っても見た目変わってないだろ?不老の化け物じゃないかって思うくらいなんだけど」

「何馬鹿なこと言ってるんですか。私も人間ですよ。」

「ほら言うだろう?盛者必衰の理を表すって。父さんが生きてた頃の写真の時から変わってないじゃないか、アンタ」

「……守秘義務と、させていただきますね」

「あ、ずるいぞ!」

ふふ、と笑って私は彼のアトリエから立ち去る。ぱたりと、ドアを閉める時に彼はとても真剣な目付きで手を動かしていた。

(…御家族にこのお顔を見せてあげたいものですな)

そう思うのです。




初めて絵を見たのは、小学生の時だったと思う。双子の妹と手を繋いで、美術展だったか絵画展だったかは忘れたが、ともかく最初に絵を見る機会があったのはそこだ。それこそ最初はそんなに興味なんてなかった。

だがある絵画を見た時、あぁ、こんなに美しいものがあるのかと感じたことは覚えている。ただ、なんの絵画に対してそういう感覚になったのかは正直…覚えていない。

レオナルド・ダ・ヴィンチのモナ・リザなのか、ヨハネス・フェルメールの真珠の耳飾りの少女なのか、あるいはその他なのか…覚えていない。ただ、物凄く衝撃が走ったのは確かだ。漫画っぽく言うなら、人生の転機に雷が落ちたような衝撃だ。

もうひとつ覚えている事があるとするならば、その絵は本当に美しかった。


(いつか、ぼくもあんな絵をかけるようになりたいな)


幼い僕は、その熱を胸に秘めていた。


「…あ…?しま、った。寝ていたのか…ったくあのジジイ、ご丁寧に毛布掛けていくんなら起こせよな!全く…!」

瞼を開ければ、見慣れたアトリエ。鼻を刺激する油絵具や水彩絵の具の匂い。慣れているのに、それが当たり前なのに、なぜ、なぜ、なぜ…


(寂しい、と思ってしまったんだろうか)

“西条家”のモットーは、色々な人がいる家、です。本当にいろいろな人が居るので、わいわいしているんです。

Twitter  @Suzu_art_write

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