使用人 赤城来海は悩んでいる
どんなに有名で豪華な一族だって、それなりに悩みはあるし、家族団欒仲良しこよしって訳でもない。これはそんな家族のお話。
皆々様、初めまして。私は西条家の使用人の一人、赤城来海と申します。私が今お仕えしている西条家のこのお屋敷は、とてつもなく広く、ご子息、ご子女様やそのお子様のお部屋が一つ一つテーマがあり、部屋を掃除する度に驚きます。そして何より1番困るのは…そのご子息、ご子女、お子様達の癖が強過ぎることにあるのです。
まず初めに、西条家の血筋を引かれるご子息、ご子女様達は全て初代当主様…西条勇蔵様と奥様にあたる西条静華様のお子様方になるのですが、その、お子様方が一癖も二癖もあるような方達なのです。
まずは長男と長女。このお二人は双子で、兄を晴樹様、妹を柚巴様と名付けられ、期待して生まれてきた待望のご子息、ご子女様でした。ですが成長、成人し自分の夢を見付けると途端にそちらの方に集中し過ぎてしまう方々だったのです。
長子であり、本来跡取り息子となる晴樹様は名実共に有名な画家で、自身のアトリエや作品を公開し、作品展や個展を開くほどの才能をお持ちでありながら、その、なんと言いますか…ものすっごいテキトーなお方なのです。絵に関して、私はあまり詳しくは無いのですが、絵を描く事において物凄いこだわりがあり、口うるさく言ってくるのです。また基本的に彼は束縛されるのが嫌で携帯を持っておらず、よく消息不明になりがちになります。そしてふらりと帰ってきてはまたどこかへ行ってしまう。気まぐれ過ぎる性格なのです。そんな性格故、晴樹様は跡取りの座を拒み、弟様にあっさり渡すどころか押し付けて自分の仕事に熱中しているお方です。
妹の柚巴様もまた一言で言うならば変人。彼女は新聞記者で、真実を突き止める為ならば結構危ない橋を渡るタイプです。なので割と神出鬼没でいつ、どこから現れるのか使用人の私達や家族の皆様ですら把握出来ないほどなのです。ただ、カメラの腕はとてもすごく、一眼レフを買っては美しい景色や仲良く笑っている友人達との写真を時折見させていただくのですが、ピンボケ一切無し、ピタリと綺麗に撮れているのです。長年新聞記者をしているとそう言った技術を身に付けたのでしょうが、突然現れて、何かニュースはないか聞くのは本当に勘弁して欲しいです。普通に心臓に悪いです。
次に、次男に当たるのが西条家の現当主である西条煉様。とても落ち着いた方で、体術や機械に強く、SPとして働いている方です。ちゃらんぽらん過ぎる兄から押し付けられた当主の仕事に関して、煉様は割と気にしてるらしく、晴樹様とお会いするとだいたい喧嘩します。ですがその反面、仕事にしか興味が無く、仕事以外のことは興味が無いのが煉様です。煉様には娘様が二人居らっしゃるのですが、育児は基本的に乳母さんや奥様に全て任せっきりで、育児費や金銭面のサポートしかせず、ロクに顔を合わせてないのです。煉様に相談をしようとしても、
「仕事に関係ない事に時間を使うんじゃねぇ。俺は忙しいんだよ。」
と一蹴されてしまいます。元々口が悪いのも相まって、普通に私は苦手です…怖くて、勝ち目のない当主様なんて怖くて当然ですよね…
晴樹様、柚巴様、煉様の他にも、ご兄妹が居られます。お兄様は春兎様、妹様は雪穂様です。この二人は今言った御三方より常識人ではありますが、やはり性格に難があります。
春兎様は外科医でして、お医者様たちの間では実力を認められている凄腕のお医者様なのです。穏やかな話し方で、患者様からも好評。笑顔が優しげで看護婦達にも人気のあるという、一件ただただドラマやアニメのような凄いお医者様なのでは…と思うかもしれませんが、そうでは無いのです。この方、普通に女癖が悪い。悪すぎてドン引きするくらいなのです。別に彼は患者様や看護婦に手を出したとか、そういったことはしていません。学友の方や知り合った女性と次々に付き合っては振られ、中には実際にお子様を妊娠なさった方もいらっしゃいます。春兎様はご子息、ご子女様の中で唯一のバツ2で、今もお付き合いしてらっしゃる方が居るらしいのです。女遊びが懲りず、浮気はしょっちゅう。そんな方、私は絶対に御免です。普通に嫌。
妹の雪穂様は春兎様とは正反対で、とても優しい方です。現在彼女は有名スイーツ店で働いてるパティシエールで、彼女の作るケーキはどれもこれも目移りしてしまうほどの見た目と味で確かな腕を持っている、と以前取材をされたほどの実力者なのです。性格はお兄様の春兎様に似て優しく、穏やか。それでいて自分の意見をしっかり通すとても強い方なのですが、少し頑固な部分があり、よく煉様と意見の相違で口喧嘩をしているのを見かけます。普段は優しい方なのですが、こういった方ほど怒らせると本当に怖いです。段々口が悪くなって、目付きが変わった雪穂様は煉様と同等に怖さが増していくのです。
そんな風変わり過ぎる5人のご子息、ご子女様達に使えているのが私を含めた四人の使用人です。女性使用人として私ともう一人、名を灰原愛璃菜という方が。男性使用人として金井朔弥さんと桜庭津鶴さんという方々がお仕えしております。
使用人も使用人でまぁ癖の強い方達だとは思いますが、飽きないので私は結構この仕事は楽しいと感じています。
西条家のお屋敷はだだっ広い敷地にどどーん、と建設されている洋館です。玄関前にはガーデニングの出来るお庭があり、離れが三つあります。それぞれ晴樹様のアトリエ、煉様の体術訓練場、春兎様の医学室になっております。
本館には様々な絵画、写真が額縁に飾られております。無論これは晴樹様と柚巴様が描いたもの、撮ったものとなっております。こういうものはすごく綺麗なのにおふたり共、性格が性格なので…
そんな悩みを私は、毎日抱えて仕事をしております。もちろん悩みの種はこれだけではありません。五人のご子息、ご子女のお子様達もまた、まぁ大層厄介で面倒くさい性格をしております。ちょっと目を離すと喧嘩するし、怪我するし、手当をしていたら何かが壊れる音がしたり、騒音を出したり…本当に気苦労が耐えません。これが所謂ストレス、と言うのでしょうね…
そんなモヤモヤ気持ちのまま、私は今日も仕事をするのです。
「あ〜、おはよーっふ、来海ふぁん」
「また…愛璃菜さん、お菓子食べながら挨拶しないのっ!食べかす顔についてるし…だらしないって怒られちゃう!」
眠気まなこでぽやぽやとしたこの子が愛璃菜なのです。仕事はとてもできる敏腕の使用人なのに、それ以外がまるでダメ。なんというか、正反対な性格をしている私たちですが、なぜか意外と、気が合う良き友人なのです。
金井さんは一見チャラそうと言いますか、こんな見てくれの男に給仕とかできるの!?みたいな風貌の割にちゃんと食事や掃除はするんですよね。見た目だけは。
桜庭さんはなんというか…不思議な人なんですよね。年寄りみたいな…と言ったら失礼ですが、見た目の割に物腰が柔らかいというか柔らかすぎると言いますか…若々しい見た目だから余計に不思議に感じるんですよね。スキンケアとかしているのかしら…?
でもそれくらい肌ツヤが綺麗で女子か!?と思うほどなのです。
そんなこんなで、今日も私は西条家の皆様にお仕えする日々が始まるのです。
何でしょう?そんなに個性的な人達と暮らしているなら疲れないのか?ですか。
疲れます。疲れるに決まってるじゃないですか!喧嘩も日常茶飯事、あっちこっちで物壊れるし、何かにつけて文句言われるのですよ!?メンタルバキボキになってますよ。
けれど、そんな彼ら、彼女らと居て、楽しいと思うのもまた事実なのです。家庭的って感じがして、私は好きです!
さぁ、物語の幕が上がります。優雅で、少し喧しい私達の日常。お楽しみ頂けましたら幸いです。
皆々様初めまして。夢波すずねと申します。本日から当サイトにて、小説執筆をしていこうと思っております。のんべんだらり、まったりのんびりペースですが、気長にお待ちくださいませ。よろしくお願いしますm(_ _)m