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2・1週間(サラサ視点)

若干お花畑思考のサラサさん視点。


途中アレルギーのくだりがありますが、異世界なのでご都合設定だと思って下さい。アレルギーとか病に関しては発展しているけれど通信手段は手紙のみで電話なんて無いよ、的な感じ。魔法はない世界です。ふんわりご都合設定。

実家から一人暮らしを始めた私とマリーネは、幼馴染みで親友だった。私はマリーネとは違って学院卒業後直ぐに働かなくても良かった。裕福だったから。マリーネは平凡な家庭だったから直ぐに仕事先を見つけて働き出したけど。私は学院卒業後3年間の花嫁学校へ通った。良縁を結べる学校って有名で、当然厳しい花嫁修行が待っていた。でも良縁なんて嘘。成績優秀者しか良縁なんて結べない。他は有名な花嫁学校卒業というブランドで親が探すもの。


私も親が探した相手と結婚する事になっていた。学院時代は成績優秀で卒業後も有名な職場に勤めて順風満帆のお方。だけど顔が。物凄く平凡で地味だった。お見合いしたけど私好みじゃなくて、しかも真面目だけが取り柄的な話のつまらない男。まぁ夫婦の愛情があれば浮気はしない、と宣言していたし。暴力は苦手だから振るわないとも言っていた。


でもそれって当たり前じゃない?


そう思った。ただそれだけ。何度か会ったけどどうしてもこの人と結婚しなくちゃいけないっていうならともかく、そんなわけでもないので結局お断りした。そんな頃だった。親友であるマリーネが恋人と結婚して子どもを産んだと実家へ帰っている、と手紙をもらったのは。


学院卒業後直ぐに働き始めたマリーネとは中々会う機会が無くて手紙のやり取り程度。恋人が出来たことは聞いて結婚式には招待された。出席した時に中々にカッコいい顔の男だと思った。でもまぁ私はそれ以上の男を見つけるつもりだけど。そんな事を思ったのを覚えてる。


子どもを見せてもらったのを機会に、マリーネが暮らす町に引っ越した。少しずつ会うことが多くなった。もちろん夫であるダンリーとも会う機会が増えて。そのうち思った。こんなに化粧もしないし服も汚れても良さそうな服しか着ないマリーネより、オシャレで化粧もしている私の方が、この人と釣り合うんじゃない? って。


そこでノエルちゃんを見に行ったついでに、マリーネがノエルちゃんの世話で手一杯の時にダンリーを誘ってみた。女の目で。顔を赤く染めたダンリーを見て、イケルって思った。キスしたらダンリーも私に夢中でキスを返してきた。……やっぱり私の方が好みなんじゃない。


それから直ぐに私達はホテルで会うようになり、デートもこっそりだけど頻繁に重ねた。そんな日々を3ヶ月程過ごした。マリーネは「仕事で忙しい」ってダンリーが言っただけで「いつも私とノエルのために頑張ってくれてありがとう。身体に気をつけてね」なんて信じていたらしい。


おめでたい子。


そうしてある日、時々買い物している宝飾店へ入ってパールのピアスを買って欲しいってダンリーに強請っていたら、その姿を仕事している時間帯のはずのマリーネに見られた。無言で居なくなったマリーネを見て「どうしよう」と呟いたけど、考えてみたら何も言わなかったんだから私とダンリーの仲を認めたんじゃないか。って思った。


ダンリーは真っ青な顔のまま、マリーネの名前を譫言のように呼んでいたけど。


でも。彼は言っていたはずだ。化粧もしないしオシャレもしないし、贈ったネックレスとかも身に付けないって。マリーネに不満たらたらだった。


「ねぇ、マリーネと別れて私と結婚しましょうよ」


だから提案したのに、ダンリーは何も言わない。でもとにかく家には帰るって言うし、私にも来て欲しいって言うから別れ話だと思った私は、ダンリーの家に行った。そこにマリーネは居なくて、ダンリーは真っ青な顔のまま部屋のあちこちを覗いている。居たのはノエルちゃんだけ。


えっー。あの女、もしかして子どもを置いて出て行ったの⁉︎

信じられない⁉︎

母親の自覚ないんじゃないの⁉︎


そう思ったけど、置き手紙に気づいた。ダンリーを呼んで2人で置き手紙を読む。


はぁ⁉︎ 1週間ノエルちゃんの世話をしろ⁉︎ やっぱり母親の自覚無いじゃない、あの女! うんうん。私がダンリーと結婚してノエルちゃんのお母さんになってあげる!


だけど。両親に告げ口なんて子どもみたいな事をされるとは思わなかったな。まぁでも1週間後にはダンリーとマリーネが離婚して、私とダンリーとノエルちゃんの3人家族になるんだし、まぁいいわ。1週間我慢してあげる。その代わり、1週間後はアンタの居場所は無いからね。


……私はそう思ってニヤニヤしていた。ダンリーが真っ青から真っ白になった顔なんて見ていなかった。


とりあえず、ここに書かれた事を全てやればいいんでしょ。私はそう思った。先ずは夕飯の準備。ノエルちゃんは小さいから子ども用に小さく野菜を刻んで肉も小さく切って……えっ? 卵アレルギー? 何それ。卵をあげちゃダメって? あげたら発作を起こすから? だから卵を使わないでご飯を作れ?


ヤダ、何それ。面倒くさい。ハンバーグでいっか。あれなら野菜を沢山入れれば肉と一緒に食べられるし。卵……使っちゃダメなら使わないで作るの? やだぁ、面倒くさいなぁ。でもまぁノエルちゃんのためか。仕方ない。……って小さいハンバーグってどれくらい小さく作ればいいの?


格闘しているうちにノエルちゃんが泣き出した。お昼寝から起きたらしい。「ママ! ママ!」って呼ぶけど、私は今夕飯の準備中だし。ダンリーが相手をしなさいよ。だけどダンリーは困った顔でノエルちゃんを見ているだけ。なんで?


ノエルちゃんは泣きっぱなしで正直うるさい。


この子、こんなに泣く子だったかしら。しかもこんなにうるさかった?


とにかくハンバーグ作りは中断して、ノエルちゃんを抱っこする。抱っこしてもいつもはニコニコするノエルちゃんが「ママー! ママー!」って泣き叫ぶだけで全然笑わない。ちょっと! 私が今日からノエルちゃんのママだってば! なんなの⁉︎ 可愛くない!


そう思いながらも必死で抱っこしたら、今度は暴れるノエルちゃんの手に私のネックレスが引っかかったみたいで、それをギュッと握られてグッと引っ張られた。結構な力で引っ張られたから首は苦しいし、ネックレスが壊れそう。


「ちょっと! ノエルちゃん! そんなに引っ張らないでよ! 痛いし、壊れちゃうでしょ!」


怒鳴ったら逆効果。更に泣き叫ばれた。ああもうなんなのよ! 泣きたいのはこっちよ! 痛いし、壊れそうだし! これ、ダンリーに買ってもらったネックレスなのよ⁉︎


イラついて乱暴にノエルちゃんの手を払い除ける。


「何をする!」


慌ててダンリーが私からノエルちゃんを引ったくった。


「だって、ネックレスを思いっきり引っ張るのよ、この子! 痛いし壊れそうだし」


「だったらネックレスを外せばいいだろ!」


「嫌よ! あなたから買ってもらったものだもの! 壊そうとするノエルちゃんが悪いんじゃない!」


「外していれば壊れることも首が痛くなる事も無いだろ! ……あ」


怒鳴ってきたダンリーに言い返していると、ダンリーが何かに気付いたようにハッとした。……何よ。


「そう、か。そういうことか……」


ダンリーは頻りに納得するように頷く。さっきから何なのよ、もう! ネックレスを見れば壊れていないようでホッとしたけど、首はヒリヒリと痛い。擦れたのかもしれない。もう! マリーネの子だけあって可愛くないわね! まぁいいわ。取り敢えずさっさとご飯を作ってダンリーに褒めてもらうんだから! そして「今夜は寝かさない」とか甘い言葉をダンリーが言ってくれるのよ!


だってダンリーってば私を可愛がる時、結構激しいんだから! ふふっ。マリーネ。悔しがるといいわ!


……そんな事を思っていた私は、自分の考えこそ甘かった事を知る。


ノエルちゃんはご飯を食べない。いや食べないわけじゃないけど、手掴みでご飯を食べようとするし、口に入れた物をベーッと出して汚いし、おもちゃを持って遊び出してジッと座っていないし、テーブルの上も下も食べこぼしで汚いし、おもちゃもご飯塗れになるし、汚い手のまま私のワンピースを触るし。最悪。


「このワンピース、汚れを落とすのが大変なのよ! 汚い手で触らないで!」


私がノエルちゃんを怒ればノエルちゃんがギャアギャア泣き出す。……なんなの、ホントに。この子こんなに性格の悪い子だった?


「汚れる事が多いから汚れても大丈夫な服じゃないといけないのか……」


ダンリーがポツリと言ったけど、意味分かんない。汚れても大丈夫な服? そんなの絶対オシャレじゃないわよ!


ああもう! そういえば、マリーネの置き手紙に食事が終わったらテーブルの上も下もあちこちを綺麗にしてって書いてあったわね。……えー! これを綺麗にしろって⁉︎ 嘘でしょ! だってノエルちゃんの口から吐き出された物もあるのよ⁉︎ 嫌よ、汚い!


「ちょっと、ダンリー! あなたがテーブル掃除してよね! 私は嫌よ! こんな汚いテーブル周りを掃除するなんて!」


そうよ。妻がやりたくない事は夫がやるべきだわ! 私はこんな汚い物を綺麗にするために居るわけじゃないもの! ダンリーが綺麗にするべきよ!


キッチン周りを綺麗にするのはまぁいいわ。やっといてあげる。感謝しなさいよ、マリーネ! ふふん。私があなたの立場を奪っても文句なんか言えないからね!


ええと次はなんだったかしら。ノエルちゃんのお風呂? それくらい簡単よ! さっさと洗って着替えさせれば良いんだから! そう思っていたのに。ノエルちゃんはお風呂で身体を洗おうとしたら逃げるし、捕まえたと思ったら暴れるし、なんとか綺麗にしたと思ったら、その直後に小をチョロチョロとやらかすし……トイレ行かせておけば良かった! また洗い直しだわ! その後もお風呂から出た途端に裸で走り出すから洋服は着せられないし……。もう、ホントに何なのよ、この子!


なんとかお風呂から出たら、ダンリーがまだ食べこぼしの酷いテーブルを掃除していた。……まだ綺麗に出来ないの⁉︎


ええと次はなんだったかしら。ノエルちゃんの寝かしつけね。うふふ。これでノエルちゃんが眠れば、後はオトナの時間よ。ダンリーと燃える夜を過ごすんだから! ノエルちゃんに絵本を読み聞かせる? はぁ⁉︎ 読み聞かせなんて何よ! まぁ1冊読めばいいでしょ。そう思ったのに、1冊じゃちっとも寝ない。5冊を超えたところでようやく眠ってくれた。はぁヤレヤレ。


でも、コレでダンリーと熱い夜を過ごせるわ! そう思ったのにマリーネの置き手紙には、寝かしつけた後には翌日のダンリーのシャツやスーツ、靴下やハンカチの準備なんて書かれていた。はぁ⁉︎ そんなのダンリーにやらせる事でしょ⁉︎ 子どもじゃないんだから!


「ちょっとダンリー! 明日の準備なんてやらないわよ、私。自分でやりなさいよ!」


「無理だ。俺はどんなスーツにどのシャツや靴下やハンカチが似合うのかさっぱり分からない」


「は?」


いつもあんなにオシャレじゃない。何を言ってるの? 青いストライプのスーツに似合うワイシャツとかネクタイとか靴下とかハンカチとか。茶色のスーツの時もワインレッドのスーツの時も、いつもいつもセンスが抜群じゃないの!


「全部……マリーネが選んでくれてた」


ポツリとまたダンリーが言う。それってマリーネのセンスってこと⁉︎ なんだか悔しいわね! いいわ! 私が選んであげるわよ! 私のセンスで!


「私が選んであげるわ! きっとカッコいいダンリーが更に素敵になる! でも浮気しちゃダメよ? 私が選んであげたからカッコよく見えるだけなんだから。あなたをカッコよくしたのは、私なんだからね!」


ーーこの時の私は自分が放った言葉が自分に返って来るなんて、これっぽっちも思っていなかった。


そう。マリーネが選んだダンリーの服が更にダンリーをカッコよく見せていたってことに。つまりマリーネの手で素敵になったダンリーに私が惹かれていたってこと。ダンリーの顔だけじゃない。ダンリーのセンスが悪かったら、きっと私は近づかなかった。……つまりは、そういうこと。


こういうことに気づかなかったから、私は1週間後、あんな目に遭ったのだと思う。


ダンリーの服を選んでいる間にダンリーがお風呂に入ったから、私も一緒にお風呂に入ろうかしらなんて考える。もうこの後はマリーネの置き手紙なんてどうでもいいわ。私がマリーネの代わりにダンリーの妻になってノエルちゃんの母になるんだから! って張り切って今までは、置き手紙通りにしていたけど、もう面倒くさい。そんなのに頼っていないで、さっさとダンリーと熱い夜を過ごさなきゃ!


……だけど。お風呂から出たダンリーは、私と寝る事を拒んで夫婦の寝室に1人で寝るという。信じられない! 私、こんなにダンリーに尽くしたのに! 夫婦の寝室は鍵がかけられてしまって入れなかった。仕方ない。勝手に寝てやるわよ!


そこで私は気付いた。……私の布団は?

ダンリーを起こして尋ねようと寝室のドアを叩けば、ダンリーから「うるさい」と返された。何よ! いつも「可愛いサラサ。君は暖かくて気持ちいい」とか「可愛い鳴き声だね」とか言ってるのに! うるさいなんて失礼だわ!


とはいえ、今日は仕方ない。もうノエルちゃんの所で寝るしかないわね!

その夜中、ノエルちゃんはなんだか泣き出して、私は眠いのにって凄くイライラした。でもそのうち泣き止んだからまた寝たようだ。もうホントになんなの!







ダンリーが仕事に行ってしまい、ノエルちゃんと2人きりになると余計に疲労感が増す気がする。普段は泣かないのに時々いきなり泣き出すから、いつ泣くのかビクビクしてしまう。どうやら気に入りのおもちゃが見つからなかったり、マリーネがいなかったりする事が嫌みたいだ。


ノエルちゃんが保育所に行っている時だけが唯一の安らぎ。保育所の担当者はマリーネが病気だから送迎が別の人だと聞いている、と強く頷きマリーネさんにお大事にしてください、とまで言われた。マリーネは病気じゃなくて家出よ家出。まぁさすがにそこまでは言わなかったけど。


掃除とか洗濯とか買い物とかって書かれていたけど、そんな事より眠くて仕方ない。なんで毎日こんなに疲れるのかしら。しかもダンリーとの熱い夜なんて全く過ごせないわ。仕事で遅く帰って来られると物凄くイライラするし。やっていらんない。結局ノエルちゃんは私に懐かないで「ママ」ばっかりだし。もう本当にこんな子嫌だわ。ダンリーと結婚してもノエルちゃんの面倒は見たくないわね!


そんなこんなでなんとか1週間が終わり、その日の夜。マリーネとマリーネの両親。私の両親。ダンリーとダンリーの両親。そしてノエルちゃん。このメンバーで、今後について話し合う事になった。


私の両親は私のことを物凄く怒っている。お父さんなんて今にも私を打ちそうだわ。嫌だわ、そんなの。でもでも。ダンリーと結婚するって言えばいい男を捕まえた、と見直すかも! そんな事を考えていた私の耳に、マリーネの声が聞こえてきた。






「私はダンリーと離婚します。ノエルは私が引き取ります。ダンリーとサラサには慰謝料を請求しますから」


慰謝料⁉︎ はぁ⁉︎ 私はアンタの代わりに1週間、ノエルちゃんの母親を務めたのよ⁉︎ 慰謝料なんか払わないわよ! 寧ろこっちが請求したいわよ! 私のワンピースをぐちゃぐちゃにしたりネックレスを壊そうとしたり。ノエルちゃんの面倒は大変だったのよ! まぁノエルちゃんの母親にはなりたくないからいいけど! でもこっちこそお金は支払ってもらいたいわ!


ダンリーは仕事だって帰って来るのが遅くなるし。お酒を飲んで来る事もあってズルイって思ったのよ! アンタだって1週間伸び伸びとしたんでしょ⁉︎ 私の自由時間を奪っておいて! 私の時間も返してよね!

ネックレスを引っ張られるっていうくだりは、夏月が子どもを産んで、生まれてから半年くらいの頃、実母が抱っこした時に起こった出来事です。ノエルは2歳だけど、生まれて半年の子の力が結構な強さなんだから、ノエルは……推して知るべしです。


ちなみに実母いわく


「そういえば子どもってこうだった。すっかり忘れてた! 今度からは外しておかなきゃ!」


でした。ですよねー。


逆に子どもに傷が付くこともありますからね。


明日か明後日には最終話を更新します。

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