1・結婚記念日(マリーネ視点)
思い付きです。あまり長くならないと思います。名前が似通っている若しくは同じ名前を見たと思ってもスルーでお願いします。名前も思い付きですので。
その日は結婚記念日で、私は仕事に行くダンリーを見送る時に何時頃帰るか尋ねた。
「え? ここのところ仕事が忙しいから分からないって最近言ってるじゃないか」
呆れ顔のダンリー。それは分かっている。彼は保険の営業の仕事でお得意様を何人も抱えているけれど、それだけじゃなくて新規の加入者も増やさなくてはいけないとかで、以前は夕方に帰って来ていたのが、ここのところは夕食の時間にも間に合わない。
場合によっては、新規のお客様確保でお酒も飲まないといけないらしく、時々真夜中に酔って帰って来る事もあった。だけど、今夜くらい早く帰って来て欲しいと思うのは、何も間違っていないと思う。
結婚5年目の記念日。
子どもは2歳でヤンチャな男の子。
幸せだけど少しだけ夫婦の時間が欲しいと思う私は、おかしいだろうか。
元々職場結婚の私達で、私は息子を出産する事を機に退職。事務仕事だけど結構引き留められたので、息子の預け先が見つかったら戻る事で一度辞めていた。
現在、フルタイムは無理だけど近所の保育所に息子を預けて短時間で働かせてもらっている。
「そう。今日くらい早く帰って来て欲しいって思ったのだけど仕方ないわね。いってらっしゃい」
「ああ行ってくる」
私の今日くらいって発言で首を傾げたように見えたダンリーだけど、一瞬だったから気のせいだったのかもしれない。私が手を振って見送るとこちらも見ずに玄関を出て行った。
新婚当時のように見送りのキスをしなくなったのは、いつからだったかしら。多分3年目を迎える頃には「もう新婚じゃないから」と恥ずかしがられて無くなった。彼は照れ屋なのだ。私がその頃ちょうど息子を妊娠していて見送りにも出られない程、悪阻にやられていたのもあったのかもしれない。
溜め息をついて家事を終えて息子を保育所に連れて職場へ向かう。同じ職場だけど、事務の私と営業の彼は殆ど会わない。元々そうだった。職場の交流会で顔を合わせて職場では会わないけれど休日を合わせて交際を続けていた。
「今夜のために買い物をしてから迎えに行こう」
ポツリと呟く。夕食は彼の好きな物にして、彼へのプレゼントを買ってから息子を迎えに行く事に決めた。いつもより少しだけ早く仕事を切り上げる事を上司に相談して、引き継ぎや明日以降でも間に合う仕事は後回しにする事で、上司から了承をもらえた。
そうしていつもより1時間早く退社した私。その分貰えるお金が減るのは正式な社員じゃない身では仕方ないけれど、話が解る上司なのは助かる。周囲も協力的で有り難いわ。
彼への結婚記念日のプレゼントは、現在彼が使っている腕時計が酔って何処かにぶつけるのかヒビが入っているから、腕時計にしよう、とコツコツお金を貯めていた。今日はそのお金を持ってこの町唯一の宝飾店へ向かう。時計もそこにしか売られていない。足取り軽くその店の扉を開けたところで、私は見てはいけないものを見てしまった。
「ねぇダンリー。私、このパールのピアスが欲しいわ」
「そうだね、サラサ。君に似合うと思う。買ってあげよう」
「嬉しい! ねぇダンリー。私とマリーネならどっちが似合う?」
「そんなのサラサに決まっているじゃないか。マリーネは、妊娠してからちっともオシャレしなくなったし、化粧もしない。息子がいるからって俺のあげたネックレスやピアスもつけない。きっといらなかったんだろうな。返してくれって言いたいよ」
「ヤダぁ! ダンリーったら」
サラサは私の親友だった。そして優しく笑うのは、私の夫であるダンリー。ショックで言葉も出てこない。そこへ気まずそうに店主が私に声をかけた。
「いらっしゃい」
店主が声をかけたことで、客が来たことに気づいたダンリーとサラサがこちらを向いて2人とも真っ青な顔になった。
「マリーネ、何故ここに」
ダンリーが青い顔で尋ねてくるけど、腕を組んだ2人に視線を向けてしまう。視線を追った2人がハッとして離れた。
この町唯一の宝飾店だから、結婚指輪や他の物も私とダンリーで買いに来たことが何度かある。店主とも顔見知りだ。だから店主は気まずそうな顔なのだ。そこまで理解すると、私は黙って店を出た。
「マリーネ!」
店を出た途端にダンリーが私を呼ぶ。私は振り返る事もなく走って保育所へ向かった。息子を連れ帰り、帰宅して息を吐き出す。
吐き出した事でようやくさっきのことが現実だと理解した。
親友だと思っていたサラサ。
その親友から腕を組まれていた夫。
あの距離は最早男女のもの。
いつからなのかは知らない。
でも、2人は人前で腕を組んでいても気にならないくらい、お互いの世界に浸っているということ。
つまり、あれはかなり進んだ関係。
そこまで考えてダンリーの言葉を思い返す。
「オシャレもしない。化粧もしない。息子がいるからってネックレスもしない。……だっけ。ふふ。あの人、子育ての大変さも知らないのね」
いつの間にか頬が濡れて、ようやく自分が泣いていることに気づいた。
あの2人がいつから男女の仲になったのか知らない。知りたくもない。だけど、ダンリーにもサラサにもムカついた。子育てってどれほど大変なのか、理解していないくせに。自分達だけ楽しむなんて許せなかった。
少しの涙を溢した後。怒りが沸いてきた私は、先ず手紙を書く事にしました。
一つ。1週間、ダンリーとサラサで息子のノエルの面倒を見ること。この際、誰も頼らない。必要な事は全て書いておくのでそれを見ながら2人で面倒を見て下さい。また、ノエルに怪我はさせないこと。
一つ。その時、2人共装飾品を付けて面倒を見て下さい。
一つ。家事はサラサが1人で行うこと。私がやっている家事を全て書いておくので、毎日書いてある家事は終わらせて下さい。
一つ。ダンリーはいつも通りの行動もして下さい。いつものように出勤して仕事で遅くなって時にはお酒も飲んで帰って来て下さい。
一つ。1週間後には、3人プラスそれぞれの親と共に話し合いましょう。私からダンリーとサラサの親に連絡しておきます。
それでは本日から1週間よろしくね、2人とも。どうせダンリーのことです。サラサを連れてこの家に帰って来る事でしょう。サラサと私は幼馴染みなので、互いの事は良く分かっています。サラサに説得されたら私が折れるとでも思っている事でしょう。そうすれば許されるとでも思っているはず。
そして遅くなると言っていたけれど、私に見られた以上早く帰って来るのは目に見えるようです。私が怒った時は手土産を持って速攻で現れるのが付き合っている頃からの彼の行動。怒る事が滅多にない私ですし、怒りが持続しない私なので、直ぐに謝れば許してくれる、と思っている人です。
でも、今回はそういうわけにはいきません。ノエルのお世話方法を全部細かく書き出し、毎日行っている家事を書き出して、私は家を出ます。といってもダンリーとサラサが来るまでは庭にいますけどね。
ノエルは寝起きは必ず泣きますし、万が一怪我をするような事態は起きて欲しくないですから。庭から窓を覗いてノエルの居る部屋を見守っています。
そこへガチャガチャと派手な音と共に「マリーネ!」というダンリーの声が聞こえてきました。あらあら。今夜も遅くなるという事なのに、夕食の時間前に帰って来たわ。随分と早く仕事が終わりましたこと。サラサの姿も見えたので庭からこっそりと敷地内を出ました。先ず向かったのは、ダンリーの実家です。理由は単純。ダンリーの実家は隣町で近いから。
突然現れた私に驚いたご両親に謝りながらも、ダンリーがサラサと浮気していたことを話し、子育ての大変さを全く理解していない発言をしたダンリーを許せないので、1週間ノエルの世話をしてもらう事を話しました。絶対にご両親はその1週間の間に手助けをしないよう頼んでおきます。
それでも頼られたら手助けするかもしれないですが、私に強制力は無いので仕方ないことでしょう。1週間後に私の両親・サラサの両親・ダンリーの両親で今後の事を話し合いたいとも伝えておきました。
ダンリーのお母様がダンリーの浮気と子育ての大変さを理解していない発言に怒ってくれたので、手助けはしないかもしれないですね。
さて、次は乗り合い馬車で実家とサラサの実家へ向かいます。サラサは幼馴染みですからね。当然サラサの実家は私の実家の近くです。サラサの両親は顔を青くさせて私に謝ってくれましたが、そんなので許せるわけ、ありません。実家にも話をしてその晩は実家に泊まりました。
5年目の結婚記念日が散々な結果になってしまいました。
あ、もちろんダンリーの両親にもサラサの両親にも私の両親にも、今日が結婚記念日だと話しましたよ。ホント結婚記念日に浮気発覚なんて、どんなタイミングなんですかね。
翌朝、いつもより早く職場に出勤した私は、上司に事情を話して相談しました。この方、私同様に旦那に浮気され、離婚をしているのです。上司は直ぐに1週間の病欠という形で休ませてくれました。仕事は上司が同僚に割り振ってくれるそうです。休み明けには皆に謝罪をして仕事を頑張る事で恩を返しましょう。離婚するならば力になる。と仰って頂きましたので、心強い限りです。
一通りの事を終えると私は実家に帰りました。さて、ダンリーとサラサは私の大変さを理解出来るかしら?
ようやく、気持ちが浮上しました。およそ2週間以上凹んでいてすみませんでした。
活動報告に掲載した通り、感想欄は全て閉じました。
エブリスタと小説家になろうの両方を合わせて雑記・エッセイ物を省いて純粋に物語作品のみで両方のサイトで公開している作品は1として数えた所、本作で通算130作品目を迎えました。結構数があった。
本作完結後は放置気味の連載作品と現在進行形の連載作品を中心に執筆しますので、短編小説ないし5話程度で完結する短めの連載作品は、アップするのが少なくなると思われます。(思い付いても後回しにする予定です)