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愚痴っても良いですか?

 サークレには、こんな伝承がある。魔物は魔族の忘れ形見。普段は大人しい魔物でも、サークレに魔族がやって来ると凶暴になる。

 実際、俺が前にサークレに来た時は、魔物は凶暴になっていたそうだ。闇の魔素が濃くなるからではと大真面目に唱える学者までいた。


「最近、誰かが魔物に襲われた話とか聞いていますか?」

 魔族がいない時は、積極的に人を襲う魔物の方が少ないらしい。襲うとしたら、テリトリーに入られた時……そして人に攻撃された時くらいだ。

 逆に、人はいつでも魔物を襲う。素材や魔石を取る為だ……だから魔物が凶悪化するのは、魔物の逆襲だと唱える学者もいる。


「この辺では襲われたって、話は聞きませんね。でも、町では魔物素材が増えているそうですよ」

 つまり魔物狩りはまだ行われているって事か……素材が増えた理由も気になるけど、今は違う事を確認したい。


「そう言えば前に村に来た薬師さんって、どこの村に住んでいるんですか?」

 サークレの薬師は大まかに分けて二つに分けられる。村や町で薬局を営む個人経営タイプか、大手の商会に勤めて各地を回る富山の薬売りタイプだ。


「ザンサーラ商会の人ですよ。会長が隣村の出身で、行商人や薬師を派遣してくれているんです」

 聞いた事のない商会だと思ったら、俺が日本へ戻った後出来たらしい……隣村、つまりマリーさんを知っている可能性は十分ある。


「そうですか……あそこが洞窟ですね。それじゃ、俺の後ろに着いて来てください」

 ふと思った。この人はあからさまに怪しいベーロウを持っている俺が怖くないんだろうか?


「お願いします……その剣、邪神騎士様の初期モデルですよね?私も小さい頃、邪神騎士様に憧れました」

 なんでも俺が帰った後、邪神騎士の恰好をする冒険者が増えたそうだ。本人が言うのもあれだけど、かなり痛い恰好だぞ。

 それとレプリカを持った偽者じゃなく、本物を持った本人なんですが……彼から見たら虚仮脅コスプレしおじさんなんだろうか?


 ◇

 前に来た時も良く洞窟に潜った事がある。洞窟って狭いし酸欠や有毒ガスの危険があるから、かなり危ないんだよな。

 だから慎重に進む。もし魔物が住んでいれば、地の利は向こうにあるのだ。


「広いな……確か薬草は一番奥に生えているんですよね?」

 おかしい。洞窟に魔物が住んでいるって話だけど、見張りどころか門番すらいない。野生動物でさえ見張り役をおくんだけど。


「ええ、奥に陽が差すところがありまして、そこに生えている薬草がマリーに掛けられた呪いに効くそうです。でも魔物が薬草を守っているらしく……」

 いや、ゲームじゃないんだから。大概の魔物は食えない薬草なんて興味を持たない筈だぞ。


「魔物ね……オークあたりなら、有り難いんですけどね」

 いや、リハビリ戦になるからコボルトが最適か……まあ、こっちの都合で選べないんだけどね。


「素人考えではゴブリンの方が戦いやすいと思うのですが」

 確かに一対一で戦うなら、ゴブリンはそれ程脅威ではない。畑を荒しに来るゴブリンを倒す依頼は初級冒険者向けだ。

 でも巣の壊滅となると、難易度は一気にあがり上級者向けとなる。


「あいつ等、小集団でコロニーを作るんですよ。平均数は三十匹程度。こっちも数を揃えないと囲まれてお終いです」

 しかも倒されると、スズメバチみたくフェロモンを出して仲間に危険をしらせる。その仲間は敵が疲弊したり、怪我をしたりするまでつきまとい逆襲の機会を狙う。


「それでゴブリンの巣退治は騎士団の役目になっているんですね」

 ゴブリンの繁殖期は春。それに合わせて行われるピューラファイ王国騎士団のゴブリンの討伐は風物詩になっている。


(カイ……来るぞ。この気配は噂のゴブリンじゃ)

 流石は封印されていても元邪竜だ。魔物の気配には敏感である。

 現れたのは斥候役と思われるゴブリン三匹。出来れば、仲間を呼ぶ前に倒したい。


「噂をすればなんやらだな……さて、やりますか」

 ベーロウを鞘から抜き、一気に襲いかかる。

(こいつ、こんなに重かったっけ?)

 足の次は腕が筋肉痛になりそうだ。でも流石は邪剣だ。ゴブリンを容易く切り伏せる事が出来た。


「情けない……この程度で息をあげおって。向こうで何をしていたんじゃ?」

 握りが甘かったらしく、ベーロウに怒鳴りつけられた。いや、日本で剣なんて振っていたら通報されるし。


「向こうでは魔物や戦いと無縁な生活だったんだよ」

 戦いどころか運動とも無縁だった。大崎姉妹からたまには運動してって怒られていたよな。


「剣が喋った!?まさか本物の邪神騎士様!」

 確かに本物ですけど、偽物もいるんでしょうか?


「お喋りはそこまでです……ゴブリンが大勢来ました。しかも全員目が血走っている。全く嫌な予感ほど当たるな」

 自然界でゴブリンが総攻撃を仕掛けて来ることはまずありえない。巣に攻め込まれても、何匹かの雄が攻撃に出て、その隙に子供や雌を逃す。


「カイ、あのゴブリンは操られておる。退く事を知らぬぞ……怒気術を使うんじゃ!」

 いや、操られている相手に怒れって言われても、筋違い過ぎるし。でもやらなきゃ、やられる。

 ゴブリン相手なら不満クラスで十分だ。俺が抱えている不満……あれだ。


「我が不満を力に変えて……怒気術!愚痴級モルモーリオクラス。返って来る予定のない結婚祝い!」

 漆黒の剣気がほとばしり、ゴブリン達を両断した……どう考えてもオーバーキル過ぎる。

(トータルすると五十万は超えてるもんな……そりゃ不満も溜まるか)

 まあ、倒せたからオッケーとしよ

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