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久し振りにキレそうです

 田舎でよそ者は目立つ。しかも、これだけ小さな村となれば、なおさらだ。納屋に戻るまで、俺達は好奇の目にさらされた。

 この国では珍しい黒髪、腰には禍々しい剣を差している……田舎でなくても目立つか。

 納屋に入ると、どっと疲れが襲ってきた。


「カイ、洞窟にはいつ行くんじゃ?小さい子が苦しんでいるんじゃぞ」

 ベーロウが、俺を急かす。確かに今直ぐにでも洞窟へ行くべきだ。


「ああ、分かっている。しかし、依頼を受けたからには、ベストコンディションで臨むのが冒険者の務めだ」

 行きたいのは山々なんだけど、体力が限界です。こんなコンディションで出掛けたら、凡ミスをしてしまうだろう。


「だからといって、納屋に入って直ぐに寝転がるな!」

 邪神騎士は、もうお疲れなんです。邪神騎士も、もう三十二歳なんだぞ。十代の頃の体力と同じだと思うなよ。


「冒険者様、少しよろしいでしょうか?」

 このまま爆睡しようかと考えていたら、マリーさんが訪ねて来た。早く洞窟に行ってくださいって催促でしょうか?


「大丈夫ですよ。ちょっとお待ちください」

 直ぐに立ち上がり、身だしなみを整えておく。再度イケメンモードに突入。


「お休みのところ、すみません。冒険者様のくれた飲み物を、マリーに飲ませたら凄い勢いで飲んで……あれ、高価なポーションなんですよね」

 スーパーで箱買いしたやつで、百円切っているかと思います。


「気にしないでください。娘さんが喜んでくれたのなら、それが一番です」

 まだだ。今はまだ良い人モードを継続するんだ。


「お優しいんですね……私の夫も優しい人でした……でも、もう前に進まなきゃ駄目なんですよね」

 なんでも旦那さんとは幼馴染みだったそうだ。旦那さんの名前はラルフ・ラーク……名前からしてイケメンなんですが。

 この世界にはネットどころか電話もない。郵便制度も確立していないから、この村に手紙が届く事自体が稀だと思う。

 主な連絡手段は、言伝ことづてだ。行商人や冒険者が言伝も預かり、連絡するのだ。

(そういや行商人が襲われて言伝が届かないって事があったよな……待てよ、本当に旦那ラルフさんに言伝は届いていたのか?)

 頭の中でピースがはまり始める。

 ラルフさんが出稼ぎに行ったのは二年前。最初の一年は、こまめに連絡が来ていたそうだ。

 しかし、去年の夏辺りから連絡が途絶える。マリーちゃんが呪われたのは三カ月前。その一月後に薬師が偶然村に来た……。


「すいません、娘さんに会わせて頂けますか?」

 この世界でも、人の幸せを壊す糞な人間は多い。それを間引くのが邪神騎士の仕事の一つだ。

 マリアさんと一緒に家へと向かう。


「こっちです。マリーちゃん、お客様よ。あの美味しい飲み物をくれた冒険者様よ」

 粗末なベッドに三歳位の女の子が寝ている。熱が出ているらしく、かなり苦しそうだ。


「マリーちゃん、初めまして……今、おじさんがお薬を取って来てあげるね。」

 マリーちゃんに直接会って、疑念は確証へと変わる。うん、今回はきちんと怒れそうだ。


「あの、のみものおじちゃんがくれたの?あれ、おいちかった……ありがとうございまちゅ」

 マリーちゃんは、そう言うと俺にお礼を言ってくれた。熱で苦しいって言うのに、泣き言を言わずお礼を言ってくれたのだ。


「クラコさん、娘を……マリーを助けて頂けますか?」

 マリアさんが必死に懇願してくる。下心なんて、どこかに消えさった。


「任せてください。明日、朝一で洞窟へ向かいます」

 邪神騎士、久し振りにブチ切れそうです。


 ◇

 さて、困ったぞ。久し振り過ぎて、この世界の常識を忘れていた。


「ベーロウ、一番大きいオークの木が、どれなのか分かるか?」

 あの後、カーターさんに洞窟の場所を聞いたら“山で一番大きなオークの木の近くなので、直ぐに分かりますよ”って教えてくれた。

 ピューラファイだけでなくサークレで紙は貴重品だ。そして国防の関係もあり、地図はあまり普及していない。

 邪神騎士、二日目で迷子になっています。


「まさかオークの木が分からない癖に、村から出るとは……無鉄砲さは大人になっても、治らぬのか」

 ベーロウは、そう言うと大きな溜め息を漏らした。大見栄きって出て来ただけに、帰り辛い……なにより村に帰れる自信がないです。


「サークレじゃスマホ通じないし……こんな事でセリュー様の手を煩わせちゃまずいよな」

 再会の第一声が“迷子になったので、助けてください”じゃ情けなさ過ぎる……大人でも迷子と言っても良いでしょうか?


「あの……村に来ていた冒険者の方ですよね」

 どうするか考えていたら、一人の男性が声を掛けて来た。年齢は二十代前半くらいだ……イケメンだけど、かなりやつれており苦労の跡が伺える。


「そうですけど……貴方は?」

 悪い人には見えないけど、タイミングが良すぎる。警戒するに越した事はない。


「村の住人です。洞窟と真逆の方向に進んでおられたので心配になりまして……良かったら、洞窟までご案内しましょうか?」

 ありがたい申し出である。ここは素直に甘えておこう。

(カイ、その男を鑑定してみろ)

 ベーロウがテレパシーで話し掛けてきた……もう、俺最初からお邪魔虫じゃん。


「お願いします。どれ位で着きますか?」

 今はまだ問い詰めないでおこう。ここで逃がす訳にはいかない。


「一時間もあれば着きますよ……お願いがあります。私も薬草採取に着いていって良いですか?」

 男の目は真剣そのもの……必死過ぎて、お節介焼きおじさんは断れません。


(カイ、そやつは戦闘の経験がないぞ。連れて行くのなら、お前が護衛するんじゃぞ)

 忠告してきたベーロウの口調は、どこか楽し気であった。

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