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ワンチャンあるんじゃないでしょうか?

 何日も出社しないサラリーマン。でも部屋を訪ねてみると、家電製品や家具だけが残されていた……絶対に夜逃げだって思われるじゃん。

 大崎家の人達は心配……しないか。大勢いる客の一人だし。愛想笑いを勘違いしちゃ駄目なんだよね。


「あの邪神騎士様大丈夫ですか?」

 固まっている俺を心配して、カーターさんが話し掛けてきた。今の俺に邪神騎士は荷が重い。

 もうセリュー様に泣いてすがろう。そして、しれっと日本へ帰るんだ。


「カイ、早く行くぞ。こやつが住んでいる村は、ここから三時間位掛かるんじゃぞ」

 ベーロウが出立を促してくる……ここから三時間か。


「それじゃ駄目だ。全員目的地と違う方向に進んで下さい。山に詳しい人が先導して、出来るだけ遠回りをする様に……俺達は最後に出て山頂に向かう。カーターさん、時間に余裕はありますか?」

 俺は臆病者だ。死ぬ事が怖いし、誰かを巻き込む事も嫌だ。この人達は泳がされていたのかも知れないし、後々この小屋の存在がバレない確証なんてない。


「私はこの山に慣れていますし、姪もまだ大丈夫だと思います」

 カーターさんは木こりをしていて、この山の事を熟知しているそうだ。


「あの無鉄砲小僧が成長したもんじゃの」

 ベーロウが感慨深げに呟く。確かに前回の時は、周囲の事を考えずに無謀な行動をしていた。でも社会の荒波に揉まれた身としては、安全の上にも安全を期したいのだ。

 小屋から出ると周囲は鬱蒼とした森で、足元には落ち葉が積もっていた。これなら何とかなる。


「あれから色々あったからな。カーターさん、この小屋を見下ろせる場所まで案内して下さい」

 ……山をなめていた。整備されている日本の登山道と違って、カーターさんの行く道は殆んど獣道。おじさんの足腰は深刻なダメージを受けています。


「ここからなら、あの小屋を見下ろせますよ」

 カーターさんは平然と立っているけど、そこは崖から突き出た岩だ……俺高い所大嫌いなんだけどな。

(下を見るから駄目なんだ……いや、ちゃんと小屋を見ないと魔法が使えないって)

 もう泣きそうです、でも、ここでヘタレなところを見せたら失望されてしまう。

 両足に気合いを入れて、下を見る。


「まずは……風よ。渦負け!風属性第七級ウィンドストーム……かなり弱め!」

 本来は敵を切り刻む為の魔法だけど、今回は木の葉を舞い散らせる程度の威力にしておく。


「あの……クラコさん、何をなされたのですか?」

 カーターさんが不思議そうな顔で聞いてきた。出来れば今は話しかけないで欲しいんですが……まあ、見ようによっては、木の葉で遊んでいるだけにも見える。


「この国の貴族は獲物を追う時、猟犬を使いますからね。葉っぱをかき混ぜて進行方向を分かり辛くしたんですよ……続いて水属性第六級アシッドレイン……アシッドなしバージョン」

 まあ、早い話がただの雨だ。本物の雨が都合よく降ってくれる可能性は低い。


「雨で葉っぱに付いた匂いを落としたのか……随分と心配性になったの」

 まあ、本当はもう少し長めに降らさないと意味がないと思う。でもここの猟犬は日本の警察犬と違って、訓練を受けていない。個人を特定する事は出来ないと思う。


「それじゃ行きましょ。カーターさん、道中詳しい情報を教えてもらえますか?」

 移動時間も無駄にするな……上司から耳にタコが出来る位言われています。


 ◇

 木こりって凄い。山道を何時間も歩いても平然としているんだもん。おじさんは、明日は筋肉痛だと思う。


「ここが私の村です」

 そこは良く言えばのどかな村。ストレートに言うと何もない村だ。木で作られた小屋……素朴で小さな家が数軒あるだけ。多分、商店や宿屋はないと思う。


「穏やかで良い村ですね……ベーロウと対策を練りたいのですが、どこか良い場所はないですか?」

 この村に来て疑念は、さらに深まった。後は姪っ子さんを見れば確証が持てる……でも、その前に足に湿布薬を貼りたい。


「それでしたら、うちの離れをお使いください。猟師仲間も時々使っているので、物は揃っていますよ」

 案内されたのは、納屋でした。うん、今は足を伸ばせれば十分です。


「ありがとうございます。姪っ子さんの状態を聞きたいので、妹さんに連絡して頂けますか?」

 納屋の中はきちんと片付けられていて、一休みするのに十分な広さがある。


「カイ、この依頼どう思う?……着いて早々湿布薬を貼るな!魔族が絡んでいるかも知れんのだぞ、気を抜くのが早過ぎじゃ!」

 小屋に入ると、同時に足に湿布薬を貼ったらベーロウに叱られた。がちで足が痛いんだって。


「俺の予想だと、直接魔族は絡んでないと思うぜ。薬師は魔族の仕業って言ったらしいが、ここの住人に呪いをかけるメリットなんてあるか?俺が魔族なら、もっとでかい街の住人を狙うぞ」

 魔族が呪いをかけるのは、人を恐怖に陥れる為だ。次は自分が呪われる番かもしれないと怯えさせる。

 魔族は、その心の隙間を付いてくる。当然、周囲に人が多い程効果は大きい。


「……確かに、この村に魔族の気配はないの」

 問題は、誰が何の為に呪いを掛けたのかだ。同時進行で、それも解決しなきゃいけない。そうしないと薬草を手に入れても、また同じ問題が発生するだろう。

 アイテムボックスから栄養ドリンクを取り出して、一気に飲み干す。


「エネルギー充填……後は甘い物でカロリー補充っと」

 桜や夏音が遊びに来るので、部屋にはお菓子を常備してる。

 ここ数年は来る回数が減ったから、主に俺が消費していたけど……結果はお腹に出ています。


「湿布薬に栄養ドリンクか……くたびれたおっさん、そのものじゃな」

 ベーロウは、俺と契約しているから日本の知識がある。いや、五時間も山道歩いたんだよ。おっさんが、くたびれても仕方ないだろ!


 ◇

 カーターさんが来たのは、きっかり三十分後でした……姪っ子さんが心配なの分かるけど、もう少し休ませて欲しいな。


「冒険者様、ありがとうございます。どうか娘を救って下さい」

 姪っ子さんの家に着くと、カーターさんの妹が出迎えてくれた。

 名前はマリア・ラークさん、御年二十一歳。

(物凄い美人だな……くっ、旦那が妬ましい!)

 おじさん、この国を救った英雄なんだぞ。その英雄が独り者で、娘の危機に家にいない父親に美人の嫁がいるなんて……悔しくて、泣くぞ。


「仕事ですので、気になさらないで下さい……早速ですが、娘さんの病状を教えて頂けますか?」

 精一杯のイケメンモードで対応する。確か、旦那とは連絡が取れなくなっていると聞いた。

 奇跡のワンチャンに賭けたいのだ。


「熱が酷くて、ベッドから起きられないんです。それに食欲がないらしく、ここ数日水しか口にしていません」

 そう言うとマリアさんは目を伏せた。儚げな美しさがグッドです。

 この村には店がない。つまり自給自足に近い生活である。食べやすくて、栄養の付く食べ物なんてある訳がない。

(熱は何度位あるんだ……この世界には体温計もないんだよな)

 俺は医者じゃなく、ただのサラリーマンだ。生半可な知識で判断するのは危険だ。


「すいません、コップを貸してもらえますか?……お母さん、この飲み物を薄めて娘さんに飲ませてあげてください」

 アイテムボックスからスポーツドリンクを取り出して、マリアさんに手渡す。今は解呪より栄養補給が先だ。


「ありがとうございます。早速飲ませて来ますね」

 そう言うとマリアさんは、奥の部屋に入っていった。

 なんかもう疲れた、俺も納屋に戻るとしよう……明日、無断欠勤になるのかな。


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