見た事のある剣がいるんですが
しばらく桜達日本組は出てきません。その代わり快の相棒が出ます
おかしい。なんで俺はこんな所にいるんだ?確か弁当を持って、アパートのドアを開けた筈。
俺が住んでいるのは、くそ狭いワンルームのアパート。でも、今いるのはどう見ても石造りの部屋だ。目のまえにあるのは、怪しげな祭壇。そして足元には魔法陣、しかも、これはかなりやばいやつだ。
「おお、召喚が成功したぞ」
「邪神様が我等の願いに応えてくれたのだ」
テンション高く騒ぎまくる真っ黒なローブを着た男達……これはきっと夢だ。頼むから、そうであって下さい。
「危険を冒してまで、邪剣を盗み出した苦労が報われましたね」
邪剣?……嫌な予感がする。
(頼む、何かの間違いであってくれ……あっ)
目が合ってしまった。それは禍々しい装飾が施された刀身まで真っ黒な剣。柄の部分には竜の顔がついている。
竜は俺と目が合った瞬間、気まずそうに目をそらした。
「ベーロウ!なんでお前がいるんだよ!」
ベーロウは邪竜の力が封じられた大剣である。そしてかつての俺の相棒だ。
「それはこっちの台詞じゃっ!セリュー様のお心遣いを無駄にしおって」
セリュー様……やはり、ここは異世界なのか。
「再召喚なんて勘弁してくれよ……ここで愚痴っていても、始まらないか。ベーロウ、今そっちに行くぞ」
ローブの男達を無視して、祭壇へと向かう。サークレで無腰なんて、自殺行為でしかない。
「あの邪神騎士様?私達の願いは聞いてくれないんですか?」
なんで、こっちの都合を聞かずに召喚する様な奴等の話を聞かなきゃいけないんだ。
(絡んでも面倒だから、このまま逃げるか……待てよ。確か、あの魔法陣は生贄を必要とするやつだ)
あれだ。生贄にされた女を助けたら、惚れられるパターンか。とうとう俺にも春が来るのか!
「ベーロウ、俺の召喚に使われた生贄はどこだ?」
周囲を見渡してみるも、ローブの奴等しかいない。体型からして全員男だと思う。
こんなに早く春が去ってしまうとは…泣くぞ。
「祭壇に鶏が捧げられているじゃろ。あれじゃよ」
……俺、元邪神騎士でそれなりに強いんだよ。召喚コスパ良すぎないか?
「鶏って!しかも、きちんと血抜きされているじゃねえか」
テレビなら“後からスタッフが美味しく頂きました”ってテロップがでるぞ。
「これで召喚が失敗したら“娘を生贄に捧げる”とか言っておったから、儂が手を貸したんじゃよ。そんな事になったら、お前も寝覚め悪いじゃろ。もっとも、それ以外の力も働いたみたいじゃがな」
確かに娘を犠牲にしてまで召喚するのは、勘弁して欲しい。
わざわざ俺を召喚する理由ってなんだ?法律が変わってなければ、かなりの大罪だぞ。
邪神セリューは、死と闇を司るとされている。病や呪いもセリューの所為だと信じられている。その為、邪神と恐れられ信仰する事を禁じられているのだ。
「そんな事したら、セリュー様が嘆くしな……助かったよ」
でもセリュー様は、本当はかなり優しい神様なのだ。人が悪事に走らない様に敢えて悪役を演じておられる。
人間違いで召喚された俺を真っ先に保護して、加護を与えてくれたのもセリュー様なのだ。
「セリュー様は、いつもお前の事を心配なされていた。それで、これから、どうするんじゃ?」
今の俺に必要なのは、情報だ。まず、ここがどこなのか知りたい。人里離れた山奥とかだと、ここから逃げても遭難する危険性がある。
「さて、質問だ。あんたらは俺に何をさせたいんだ?騎士に見つかれば死刑もんだぞ」
昔の俺なら身勝手な奴等だと決めつけ相手にしなかっただろう。でも今は、何が彼らを追い詰めたのか気になってしまうのだ。
「邪神騎士様、お願いいたします。私達を助けて下さい!再び魔族が現れたんです」
サークレには元々魔族はいない。魔族は、おおよそ百年周期で違う世界からサークレを侵略しにくるそうだ。
前回、俺が召喚されたのも魔族を追い返す為だった……魔族来るの早過ぎないか?俺の苦労はなんだったんだ?
「頼む相手をお間違えじゃないですか?治安維持は領主の役目ですよね」
戦えない事はないと思うけど、越権行為になってしまう……いや、現役を離れてかなり経つ。正直、役に立たないと思う。
他には冒険者に頼むって手もあるけど、常駐してもらうにはかなりの金が掛ってしまう。
「私共、庶民の声は領主様には届きません。どうか、お力を貸して下さい」
ここで泣きわめいても、事態は好転しない。日本に帰る手段が見つかるまで、サークレで暮らさなきゃいけないのだ。
その為に必要なのはやはり情報だ。ここがどこなのか?今はどんな政情なのか?俺の扱いはどうなっているのか?
「その前に、ここはどこなんでしょうか?」
出来れば知り合いの少ない国が良いです。今の俺はただのおじさん。セリュー様に再雇用してもらえなきゃ、使えない力もある。過度の期待をされても困るのだ。
それにもう正義のヒーローに憧れる歳じゃない。初級冒険者の振りをして、日銭を稼ぐのが分相応なのだ。
「ここはピューラファイですよ。邪神騎士様、もう一度私達に力を貸して下さい」
最悪じゃん。王様にギルド長……代替わりしていなきゃ、全員知り合いなんですけど。