表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/21

スピアゴートを倒せ

 肉食の魔物を怒気術でぶっ飛ばす……絶対に正体がバレるよな。

 大人しく小屋に隠れているのが、得策なんだろうか。


「モブさんはなんで冒険者になろうと思ったんですか?」

  コペル君が良いたい事は分かる。冒険者を目指すのは、十代の若者が多い。体力がいる仕事だし、身に付けなくてはいけない技術も沢山ある。

 成功すれば大金持ちになれるけど、大半は途中で命を落とすか転職してしまう。

 早い話がおっさんになってから、冒険者になる人は訳ありなのです。

 日本で言えば三十歳を過ぎてから、プロスポーツ選手や芸能人を目指す様な感じなのだ。


「私はルーベ村の生まれなんですけど、不作で生活が成り立たなくなったんですよ」

 今の俺はルーベ村出身の元農夫モブ・ボッチだ……そろそろ細かい設定決めておかなきゃ。


「ルーベ村!邪神騎士様がヒュドラ退治をしたところですよね“俺には死神が宿っている。魔物でも死神からは逃れられないのさ”あのセリフ恰好良いですよね」

 ちょっと待って。俺が言ったのは“行く先々で魔物を殺して……あいつ等から見たら、俺は質の悪い死神だよな”だぞ。厨二感ましましにするのは止めて下さい。


「じゃ、邪神騎士様がお好きなんですね」

 嬉しいけど、今のところ男のファンしかいないんですが。

 それと邪神騎士おれ偶像化され過ぎじゃないか?実物見たら、絶対がっかりするぞ。


「ピューラファイの男の子……いいえ、ピューラファイの男はみんな邪神騎士様に憧れていますよ。異世界の少年が、突然見知らぬ世界に呼ばれる。普通なら恨むのに邪神騎士様は命懸けで世界を救ってくれた。そして何の見返りも求めず、元の世界へ帰る……男として憧れますよね」

 キラキラした目で説明してくれるコペル君……いや、滅茶苦茶恨んだから。

(随分と買い被られておるの……まあ、あの時のお前の事を思えば恨んでも仕方がないがの)

 ベーロウの言う通り、俺はピューラファイに憎んだ相手がいる。

 第一王子とその取り巻きの連中だ。あいつ等は俺を召喚した癖に、人違いだと分かると、手のひら返しで城から追い出した。

 見返りを求めないでって言うけど、あの頃はもう限界だったんだ。いつの間にか国民の中で理想の邪神騎士像が独り歩きして、それを無理して演じる日々。

 そして俺はサークレから……邪神騎士から逃げたんだ。


「邪神騎士様のパーティーには、他にも英雄がいるじゃないですか」

 王様とか冒険者ギルドの会長とか……俺以外全員勝ち組だぞ。


「邪神騎士様は僕達と同じ猿人で、しかも庶民の出だと聞きます。神の加護を受けていますが、特別な才能は持っていなかった。絵画では美男子に描かれていますが、本当は優れた容姿の持ち主ではなかったと聞きます。邪神騎士様は僕達と何も変わらない少年だったんですよ。だからこそ憧れるんです」

 コペル君、邪神騎士はここにいるんですよ。もう少しオブラートに包んで下さい。

(カイ、魔物が近付いて来ておるぞ)

 流石は万能邪剣ベーロウさん、頼りになる。俺も気配察知は出来るけど、ベーロウの方が探れる範囲が圧倒的に広い。

(ベーロウと離れる事があるかも知れない。俺も探ってみるか)

 目を閉じて、周囲の気配を探る……心を鎮め、少しずつ範囲を広げていく。

(そうせい。お前は気配察知スキルを持っておらん。怠けておると、直ぐに鈍るぞ)

 ベーロウの言う通り、俺は気配察知のスキルを持っていない。

 異世界から召喚された人間はレアスキルを複数与えられるという。しかし、人違い召喚だった俺は何もスキルを持っていなかった。

 修行を終えたお祝いとして、セリュー様からアイテムボックスを、ソレイユ様から鑑定を頂いただけである。

 気配察知、怒気術、各種魔法に戦闘術は自力で身に付けた物なのだ。


「……話はここまでです。何か近付いて来ますよ」

 この気配は草食系の魔物だ。数は全部で六頭。


「ストーンボアですね。後ろにスピアゴートがいます……数が多すぎますけど、どうしますか?」

 目視出来る所まで近付いてきた様で、コペル君が小声で伝えてきた。


「もちろん、戦いますよ。目標はスピアゴートの討伐。ストーンボアは敵対してこない限り、手を出しません」

 勝てる自信はあるけど、無理に殺す必要はない。欲張ってコペル君に怪我でもさせたら、元も子もない。


 ◇

 戦闘を仕掛けるタイミングは、魔物が警戒を解いた瞬間だ。水に口を付けたからと言って慌ててはいけない。息を殺してじっと待つ。


「行きますよ。付いて来て下さい」

 アイテムボックスから、例のペットボトルを取り出す。鉄の弾に魔力を纏わせ、音が出ない様宙に浮かしておく。

 足音を消し、魔物の背後に回り込む。

 久し振りに獣系の魔物を見たけど、動物学者が卒倒しそうな姿をしている。

 スピアゴート、銀色の角を持つ巨大な鹿。その角は鉄の槍より鋭く、愛用しているランサーも少なくない。

 ストーンボア……こいつに関しては、なんでこう進化したのかが謎だ。だって表皮が石の様になっているんだぜ。かなり体重がある筈なんだけど、素早さは普通の猪と変わらない。


(カイ、あいつ等魔力に侵食されておるぞ……魔族の影響じゃな)

 魔物が凶暴になる、これは魔族がサークレに来ている証拠だ。ザンサーラ商会の件といい、結構な数の魔族がサークレに来ているのかもしれない。

(それなら先手を取った方が良いな。スピアゴートは全部で三匹。一気に倒す)


「石よ、敵を貫け。風属性第七級、ストーンバレット……省エネバージョン」

 鉄の弾を回転させつつ、ペットボトルから射出する。本来のストーンバレットは自分の魔力で石礫いしつぶてを作製し、敵に打ち付ける魔法だ。

 でも、今の俺の魔力じゃストーンバレットを複数回撃てない。だから鉄の弾で作製分の魔力を減らし、ペットボトルを銃口代わりにする事でコントロールする分の魔力を減らしたのだ。


「凄い……一瞬でスピアゴートを倒した……モブさん、一匹こっちに向かって来ますよ!」

 これは予想出来ていた。猟師が矢をあてた野生動物えものに逃げられたって話をよく聞く。

 ましてや相手は生命力の強い魔物だ。毒も塗っていない鉄の弾で倒せる訳がない。


「計算済みです……我が魔力を媒介にして魔法を発動せん!汝の血を我が糧に……闇属性第五級、吸血ブラッド!」

 ブラッドは相手の血液を術者の生命力に変換する魔法だ。でも今は鉄の弾に吸着させるだけにしておく。

 血を生命力に変換するには、かなりの魔力がいるのです。うまくやらないと、とんでもない事になるし。弾に血を吸着させながら、身体から射出させる。

 これで血抜きが不要になるし、鉄の弾が再利用できる。


「モブさん、ストーンボアが戦闘態勢に入りました……あいつ等は鉄製の武器ではたおせません。一度、小屋まで退却しませんか?」

 見るとストーンボアが地面を蹴り上げ、戦闘態勢に入っていた。

 お互いの為、逃げて欲しいんだけどな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ