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Chapter-64

 あー……緊張する……っていうか、しないわけないよなぁ、これ。


 なにせ、前世でも最後まで独身非リア充だった俺には、()()()結婚式なんて初めてなわけであって……緊張するなっていうほうが無理である。


「やあ、新郎殿、やはり緊張しておられるようですな」


 そう俺に声をかけてきたのは、ヴァージル・アップソン・ローチ伯爵。言うまでもなく、エミの父親であり、俺を寄騎としてもらっている相手だ。

 初老、と言うにはまだ些か早い歳のはずだが、その見た目は長身でややゴツく、貫禄のある武人然としている。


 元々、ローチ家自体が武勲で成り上がった家で、今もそれを由としている。

 そもそもは帝国中央で軍務を任されていた法衣貴族だったが、数代前の当主が伯爵に陞爵(しょうしゃく)された時に、現在の領地を賜ったと言う。


 だからか、今でも一朝事あれば兵団を率いて帝都に駆けつけられるよう、研鑽は怠っていない。

 帰依は本祖派ではあるが、陛下への忠誠心は厚い。


 もちろん初対面ではない。寄騎として、そしてエミを序列夫人に迎える身として、領地入りする前に一度会っている。

 格下のエバーワイン男爵家の次女が、庶子とは言え実子を差し置いて、正妻になると言われて、不機嫌になるのではないかと、ハラハラしていたのだが、


「手紙で事情は聞いております、アルヴィン殿のことも、キャロ殿のことも」


 と、割と穏やかに言ってくれた後で、


「まぁ、女の身でドラゴン・スレイヤー(竜騎勲章持ち)では、今更真っ当な嫁の貰い手もありますまい。ここはアルヴィン殿に全てお任せするのが正しい道でしょう」


 と、豪快に笑い飛ばしてくれた。


「何分──」


 今、また、改めてローチ伯は言う。


「上2人に比べて、エミには父親らしいことをあまりしてやれませんだ。娘の選んだ道と言うなら、せめてそれを邪魔しないのが私にできる父親としての最大限の行為でありましょう」

「エミは、貴方に疎外されたとは思っていませんよ」


 自嘲するようにしみじみと言うローチ伯に対し、俺はフォローを入れた。


「その事も含めて、あの娘は独り立ちできる娘です。とは言え、人が生きる道には時として支えが必要なのも事実。そのこと、よろしく頼みましたぞ、新郎殿」

「そんな、むしろ、俺の方がエミに助けられることが多いくらいなんです。どうか頭を上げてください」


 身内だけの場ということで、頭を下げた伯爵に、俺は慌てて手を振りながらそう言う。


 伯爵は、俺の言葉を待ってから、頭を上げると、


「ところで」


 と、切り出してくる。


「アルヴィン殿の父君──オズボーン・バックエショフ卿の姿がないようですが」

「ああ、俺の……元実家ですか。まぁ、もう、縁は切ったようなものですから。今日も、次兄が名代として参加している程度ですし」


 俺は苦笑して、そう言った。


「とは言え、息子殿の晴れ舞台に来ないというのもあんまりではありますな」

「元々そうなんです。自分の領地に引き篭もりで……それこそ、最後に師匠に引き合わせてくれたことが父親らしいことですか。それだけは感謝していますが」


 苦い顔をして言う伯爵に、俺は苦笑したまま、手振りを加えてそう言った。


「いや、実はアルヴィン殿の兄君の事で話ができたらと思っておったのですが」

「兄君? セオのことですか?」


 次兄とはまだ会ったことはないはずだ。

 まぁ、それでも話題にならないということはないだろうが。


「ええ、セオ殿のことです。聞けばまだ独り身のこと。もしよければ、タバサの婿にと考えておったのですよ」

「え、セオ兄をですか」


 俺は、軽く驚いてしまった。


「資材の手配で何度もロチェスまで足を運んでいただきましたが、あの実務能力はなかなかのものですな。それに誠実であれらますし」

「誠実……ですか、あのセオにぃ……セオがですか」


 ローチ伯爵があんまりに真面目な顔をして言うものだから、俺は、思わず失笑してしまっていた。

 まぁ、確かに領地運営ではかなり重要な働きをしてくれているけどな。


「年齢も釣り合いますし……いかがでしょう?」

「そうですね、私の方から一度話を通してみましょう」


 セオ兄を引っこ抜かれると、領地を運営する人材が減って、それなりに痛いんだが。

 まぁ、それを言ったら、色々とローチ伯には融通してもらってるしな。

 無碍にはできない。


「ただ、あとは当人同士の問題もありますし」

「そうですな。それがうまく行かなければ話になりませぬ」


 とは言うものの、実は、セオ兄とタバサさん、ちょっと接点多いんだよね。

 そりゃ、セオ兄は農地改革の担当で、タバサさんはその農地から税を徴収する担当だから、自動的にそうなるっちゃあそうなるんだが。


 あとは男女間の関係に発展するかどうか、だな。


「おっと、これはローチ伯爵」

「む」


 ローチ伯爵に声をかける人物があった。


「アルヴィン殿、こちらは?」


 ローチ伯が訊いてくる。


「アトリー・エバーワイン男爵です。キャロの父親です」

「おお、これはこれは!」


 俺が紹介すると、ローチ伯爵はにこやかに笑ってエバーワイン男爵に近付き、握手を求めた。

 エバーワイン男爵は、握手には応じるものの、


「ご機嫌麗しゅう……とは、行きませんな。伯爵家の子女を差し置いて、我が家の次女が、となりますと」

「いやいや、キャロル殿にもお会いしたが、女性にしてはなかなかの傑物。それに、エミもよくお世話になっていたようですし。アルヴィン卿が正妻に迎えるのも当然かと思いますぞ」


 と、恐縮するエバーワイン男爵に対し、ローチ伯爵は、笑い飛ばすように言った。


「そう言っていただけると有り難い」

「なんにせよ、今日は目出度い席です。ここで堅苦しいことはなしにしましょう」


 そう言って、ローチ伯爵とエバーワイン男爵は、花嫁の父親同士の雑談を始めてしまう。


 しかし……エミがお世話になっていた、か。

 よく考えたら、俺と、キャロとエミですら、出会って1年は経ってないんだよなぁ。


 ミーラはもっと短いし。

 所謂スピード婚、ってやつに、なるんだろうか。


 逆に言えば、それだけ濃い内容の1年弱だったってことになるけどな。

 なにせドラゴン3体に出くわして、うち2体を討伐してる。


 他にも色々あって、今更知らないことのほうが少ないんじゃないかと思う。

 人間関係は時間が長けりゃいいってもんじゃないんだなぁ、とも認識させられるなぁ。


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