Chapter-63
「う~~~ん」
俺は、再建された教会の礼拝堂で、席の1つに腰掛けながら、考え込んでいた。
「どうしたの?」
「あ、キャロ……」
俺が実際に唸り声まで上げてしまっていると、背後にキャロがやってきて、声をかけてきた。
ちなみにミーラの姿はない。
この時間は、屋敷の使用人に、読み書き算術を教えている頃だ。
「いや……結婚式のことでさ……」
「なに、まさか今更悩んでるなんて言わないでしょうね?」
俺が困ったように言うと、キャロは、少し苛ついた様子の声を出した。
どうも、俺が今更結婚を渋っている、と考えているようだ。
「悩んでるのは、結婚式の内容についてなんだけどね」
「なんだ」
キャロは、少しキョトン、とした表情になって、そう言った。
「なんか、ここ数日思いつめてるかと思えば、たまに出会った頃のアルヴィンみたいな顔してたりするから、ちょっと不安になっちゃったわ」
「出会った頃?」
キャロが苦笑しながら言う言葉に、今度は俺の方が、軽く呆気にとられてしまう。
「なんか、すごく、すべてが面倒くさいですー、って感じ出してた頃のアルヴィン」
「ああ……そう見えてたのか」
キャロにつられるかたちで、俺も思わず、苦笑していた。
「でも、それでもなんとかしてくれるのよね。アルヴィンは」
「そうか? したくないと思ったことはやらないつもりで来たんだけど」
今も、割と中央の貴族とのしがらみとか、めんどくせぇと思ってるしな。
「え、アルヴィン自身はそう言う認識だったの?」
キャロが、少し驚いたように、訊き返してくる。
「まぁ、そりゃぁね。実際、そうだっただろ?」
「何言ってんのよ」
仕方ないわねー、といった感じで、キャロは苦笑しながら、そう言った。
「もう出会って最初のときから、私達がグリズリーに襲われてるところ、助けに来てくれたじゃない」
「…………言われてみればそれもそうだな」
あの頃は、自分じゃ人生手抜きモードのつもりだったんだけど、キャロに言われると、意外とその頃から他人の面倒見てんな、俺。
思い返してみれば、最初のドラゴン戦のときだって、俺がなんとかするっきゃないかと思ったら、割と動けてたし。
エンシェント・ドラゴンと出くわしたときも、俺の方からなんとかしようとしてた。
「今はわかるわ、めんどくさいって言うより、人と価値観がズレてるだけなのよ、アルヴィンは」
「やれやれ、自分の姿は自分じゃ見えない、とはよく言うけど、キャロに指摘されちゃったか」
俺は苦笑して、ため息をついた。
確かに言われるとおりだ。
結婚のことに関してはちょっと思うところがあるが、それ以外では、俺は自分の価値観を否定して生きられてない。
「で? 何悩んでたの?」
「いや……結婚自体じゃなくて、結婚式の事なんだよ、俺が悩んでるのは」
俺がそう言うと、キャロは、一瞬わけがわからない、という顔をしたが、すぐに、
「ああ、そういうことね」
と、合点がいった、というように、言ってくれた。
「まぁ当然キャロがウェディングドレス着るとして、残りの2人もなぁ、生涯のことだしなぁと思っちゃうと」
俺がそう言うと、キャロが呆然、としたような顔をした。
「え? …………着せないの?」
「え?」
あれ? もしかして、俺の価値観、また人とズレてましたか?
「あーっはっはっはっはっ、ひっひっ、はっはっはっはっはっ」
「そこまで笑わなくていいじゃないですか、姉弟子」
屋敷に戻って、その話を仲間に打ち明けたら、腹抱えて笑い転げやんの。
ジャックもゲラゲラ笑ってるし。
ミーラは、しかたありませんねー、といった感じで苦笑している。
エミも、なんか口元で微笑んだ感じになっている。
「いやなに、お前さんが今更何を渋ってんのかなーと思えば、ぷっ、そんなことで悩んでたとはね」
まだ笑いが収まらないといった感じで、姉弟子は言う。
「もっと、早くに打ち明けてくださればよかったのに」
ミーラは、苦笑したまま、言う。
「確かに、後から序列夫人を取る場合は、略式が普通だけど、私達の場合は、もう、そう言う約束なのだから、一緒に式を挙げても構わないはず」
エミがそう説明してくる。
「でも、その場合正妻になるキャロと、2人とは、どういう差をつければいいんだ?」
俺は、気になっていたことをそのまま問い返す。
「普通は、ドレスの色ですね」
「ドレスの色?」
ミーラの言葉を、俺は一瞬、オウム返しにしてしまっていた。
「ええ、正妻になる方はシルクの純白、つまり、ダイヤモンドの象徴ですね」
あ、なるほどな。
「じゃあ、序列夫人は色付きと」
「今回は、エミとミーラの2人だし、青系と、赤系で丁度いいんじゃないかしら」
俺が訊き返すように言うと、キャロがそう言ってきた。
あ、そういうことか。ルビーの赤と、サファイアの青ね。
ちなみにルビーとサファイアは同じ鉱石だ。鉱石名はコランダム。
サファイアは一般に青とされているが、実際にはオレンジから紫まで多彩な色が揃っている。
その中でも、特に真紅のものを、ルビーと呼ぶ。
だから、ほとんど同列で扱うという意味では、ルビーの赤とサファイアの青で、丁度いいってことになる。
「なんだ、1人で悩んでたのがバカバカしくなってきた」
「だってしょうがねぇじゃん、アルヴィンって、そう言うところ、おバカなんだからよ」
この中で2番目に付き合いの長い友人Jが、ニヤニヤ笑いながら言ってくる。
ほう……ちょっと俺も、カチンと来たぞ。
「ところで、ドレスやエンゲージリングなんかの手配は、ロチェスシティでできるか?」
俺は、エミに訊ねた。
「一通りは揃うはず」
エミは、まずそう言ったものの、
「帝都やブリュサムズシティに比べると、多少は劣るかも知れないけど……」
と、少し困惑したように言った。
「いや、俺としては、やっぱり寄騎として、ローチ伯の縁のものを選びたいからな」
それでなくても、資材の調達では、だいぶ世話になってるんだ。
「そうだな、ドレス4着、それにリングが4つ必要か」
「え!?」
俺が、芝居がかってそう言うと、キャロ・エミ・ミーラ、3人が一斉に、驚いたような声を出した。
「今更、序列夫人を増やされるんですか?」
ミーラが、困惑した様子で、訊ねてくる。
「おいおい、別に、俺が4人と結婚する、とは、ひとっことも言ってないぜ?」
俺は自分でも解るくらいに意地悪そうに笑いながら、言う。
「なぁ、ジャック? 姉弟子?」
「なっ」
「う……」
俺がそう言うと、ジャックが驚いたような声を出し、姉弟子は詰まったような声を出した。
キャロは、さんざん自分の婚約者を笑ってくれたお礼だとばかりに、ニヤニヤしてる。
「いや……俺はその、まだ……リリーさんに認められるのは早いっていうか」
「おいおい、覚悟決めろよ親友。俺がキャロやエミと出会ったのと、あまり変わらないだろ?」
なんか逃げの口上を口にし始めたジャックに、俺は肩に腕をかけながら、意地悪く言う。
ミーラに至っちゃ、ふた月ほど短いぐらいだしな?
「よし、解った」
「へ?」
「え……」
なんか、姉弟子が、急にシャキッ、と立ったかと思うと、真剣な表情になって、言う。
「アルヴィンが覚悟を決めたんだ、私も覚悟を決めようじゃないか」
姉弟子はそう言うと、マントの中から小箱を取り出した。
その中身は……クローバーの飾りのついたリング!?
「ジャック・ヒル・スチャーズ。私の婿になってくれるか?」
「え、あ……あの……」
そう言いつつ、紅い顔をしながら、ジャックに近寄る姉弟子。
それに対して、ジャックは、最初は少し戸惑ったようにキョロキョロとした。
「あの……はい、身に余る光栄、謹んでお受けします、リリー・シャーロット・キャロッサ騎士爵」
そう言って、そっと差し出されたジャックの左手を、姉弟子の、一見小さな手が取り、その薬指に、クローバーのリングを嵌めた。
「ま、まぁ流石に式は、もう少し先になると思うがな、もう、覚悟は決めたぞ。お前の面倒、しっかり私が見てやろうじゃないか」
姉弟子がそう言うと、キャロとエミ、ミーラは、2人を祝福するように拍手をした。
俺も、拍手に加わる。
……のだが。
「なんか、アルヴィンの姉弟子って言われてしっくり来るわぁ……」
「ホントですね」
キャロとミーラが言う。エミまで少し笑ってる。
俺、あんなんだったか?
ま、でも、今覚悟を決めた、なんて言ってたけど、リングが用意してあったってことは、姉弟子、結構前からそのつもりではいたんだな。
変なところで進展が止まるんじゃないかとも思ってたんだけど、杞憂だったか。
「まずは私達の結婚式ね、しっかりしなきゃ、アルヴィン!」
お、おう……




