Chapter-58
「ドラゴン……って……嘘、だろう?」
ジャックが、訊いてきた。
俺だって、間違いなんだったらそうであって欲しい。
「来ます!」
ミーラが言い、その盾を構える。
やつは、獣道の奥から、枯れた木々をへし折って、姿を表した。
「フグルゥゥオォォォ……」
その姿は、少し、岩トカゲに似てはいる。ずんぐりとした鼻の形。
だが、その翼の生えた巨体は、明らかに、別種の生き物だった。
サラマンド・ドラゴン。
下位種ドラゴンの一種だ。
「まずい! ヤツのブレスは……」
俺が言うのとほぼ同時に、ヤツは、吸い込んだ息を、ブレスと化して、吐き出してくる。
「グローリー・グレート・ウォール!」
ミーラが、盾をつきだすようにして、光の障壁を張ってくれた。
ブレスの奔流が、それによって、散らされる。
その、散らされたブレスが流れ込む、ヤツの足元で、枯れかけていた木々が、更に、朽ち落ちていった。
「あぶねぇ……ミーラ、助かった」
「今のブレスは何?」
俺の言葉に、キャロが問いただすような声をかけてくる。
「炎じゃなかったみたいだけど!?」
「ああ……ヤツのブレスは……毒の霧だ」
師匠のところにいた時に、資料でしか見たことがないから、それが正しけりゃ、の話だけどな。
だが、木々が枯れていったのを見ると、それはどうやら、間違いないようだ。
「じゃ、じゃあこっちから手が出ないってことじゃないの?」
「極端な話……そうなる」
槍を構えつつも、キャロが出す戸惑った声に、俺はそう答える。
「ミーラの張る防壁の内側から、攻撃すれば……」
「いいえ! この魔法は、内側から外側への攻撃も、弾いてしまうんです!」
エミが言いかけたが、ミーラが切羽詰まったような声でそう言った。
「なにか……なにか手はないのかよ!」
ジャックが言う。
「ない……こともないですが、その間、なんとかドラゴンの動きを封じませんと」
「なんとかなるぅ!? 本当か!?」
ミーラの言葉に、俺が驚いて、素頓狂な言葉を出してしまった。
「解った、じゃあ、俺達でなんとかしてみよう」
俺は、ミーラの言葉に、賭けてみることにした。
「幸い、ヤツのブレスは炎じゃない、一時的にだったら、封じ込められるはずだ!」
俺はそう言って、発動体の腕輪に精神を集中させる。
「防壁魔法、解きます……今!」
「フリーズ・ブリッド!」
ミーラの言葉を合図に、俺は、ヤツの口を狙って、氷結の魔法を、略詠唱のクイックモーションで、強めにかけた。
果たして、ヤツの口に、氷が張り、無理やり、閉じた状態にさせる。
「よぉし、行くわよ、エミ!」
「解った!」
キャロとエミが、それぞれ槍と剣を手に、飛び出していく。
「ペンデリンさん、これを」
「これは?」
ミーラは、そう言って、ペンデリンにいくつかのクリスタルを渡した。
「私の、魔法の遠隔発動体です。これを、あのドラゴンの周囲を囲むように撒いてください」
「解った!」
遠隔発動体? …………いや、それ自体は俺も使えないことはないが。
一体、ミーラはそれで、なにをする気だ?
そんな事を言っている間に、前脚で口の氷を剥がそうともがく、その前脚に、キャロが槍を突き立てる。
反対側の前脚を、エミが、斬りつけた。
鋼の武器とは違い、キャロの槍は硬い鱗が覆う前足の後を易々と貫いた。
エミが斬りつけた側の脚からも、激しい出血が伴う。
だが、ドラゴンも黙ってやられてはいない。
苦しむかのように、左右に首を振るようにしつつ、まず、エミを弾きとばした。
「っ!」
エミは、打撃を受けつつも、その勢いで危なげなく間合いをとって着地したのだが、そこへ、ドラゴンが、反対側へ振ると、キャロが弾き飛ばされ、エミに背後からぶつかりかけた。
「まずいっ!」
ドラゴンが、2人を、尻尾で弾き飛ばそうとしたのを見て、俺は、思わず飛び出していた。
いや、何も考えがなかったわけじゃない
ガキィィィンッ
「へへっ、咄嗟の時に、役に立つんだよ」
俺は、盾を両手で抑えて、尻尾の一撃を、受け止めていた。
「たっ」
その俺を飛び越えるようにして、エミが、ドラゴンの尻尾に斬りつける。ドラゴンの尻尾からも、鮮血が飛び散った。
「くそっ、剣も買い替えておけばよかったぜ!」
ジャックは、そんな事を言いながら、シルバーブレスボウで、ドラゴンの肩口あたりに、弓を撃ち込んでいく。
「こんなもんでいいかー!?」
「はい、充分です!」
ペンデリンが森の中のどこかで発した言葉に、ミーラが、駆けながら答える。
ミーラは、ドラゴンの正面に出ると、魔法の発動体にもしているメイスを、両腕で掲げた。
「ホーリー・ブレッシング・フィールド」
「わっ!」
ペンデリンの驚いた声。
彼女が周囲にバラまいたクリスタルが、ミーラの発動体に干渉して、淡い、清浄そうな光を放っていた。
「まずい、氷が破れる!」
ベリ、ベリ、メキィッ
「グボァハァァァッ」
ドラゴンは、ここぞとばかりに、大きく息を吸い込み、正面のミーラに向かって、毒のブレスを吐こうとする。
まずいっ!
俺は、咄嗟に、ミーラとドラゴンの間に割って入り、気休めと思いつつ、盾を構えた。
毒のブレスが、吐き出され……────
「!?」
それの圧力は、確かにあった。だが、ダメージはない。ただのちょっと強い風みたいなものだ。
そうか、これが、ミーラの駆けている魔法の効果か!
毒のような不浄な性質なものも、無効化されてしまうに違いない。
「うぉっと!」
ガィンッ
正面のミーラが原因と解ったのか、それとも単なる偶然か、ドラゴンはミーラを尻尾で薙ぎ払おうとしたが、それは、俺が、盾で危なげなく受け止めさせてもらう。
「こうなりゃ、こっちのもんだ!」
俺が言うが速いか、エミが、ドラゴンの正面へ、一気に間合いを詰める。
尻尾攻撃のために、上を向き、晒していたその柔らかい顎から腹部にかけて、縦一文字に斬りつけた。
「ギャギャオォォォッ」
ドラゴンが、のたうつ。
「これでも、喰らえ!」
その上段に跳躍し、キャロが、一気にドラゴンの脳天を貫こうとしていた。
「サンダー・エンチャンティング」
既に、キャロが、エミの攻撃と同時に仕掛けると動いていた事に気がついていた俺は、その槍に向かって、雷属性付与の魔法を発動させた。
その威力が乗ったキャロの槍は、ドラゴンの頭蓋骨の一点を砕くようにして突き刺さりながら、その全身を、強烈な電撃で焼き払った。




